演劇やミュージカルには、多くの人々が登場します。キャラクターひとりひとりが、どんなことを考え、またどんな意味をもって舞台上に存在しているのか、考えたことはありますか。
実は、演劇やミュージカルには、稽古の段階で丁寧に意味づけがなされています。その裏側を知るために必要不可欠なのが「ミザンス」という用語です。
「ミザンス」とは?役者の「立ち位置」と段取り
ミザンスとは、映画や演劇を作る際に使われる用語で、舞台上における「役者の立ち位置」のことを言います。正式には「ミザンセーヌ」といい、直訳すると「舞台に置く」という言葉です。
これが転じて、映画や演劇の現場では「動きや段取りをつけていく」「舞台を整える」などの意味で使われています。関西では「ミザン」と呼ばれることもあります。
演劇やミュージカルの現場では、客席から観た時に美しく見える位置関係が重視されており、その効果を最大限に引き出すためのミザンス稽古が行われます。
ただし、それぞれの立ち位置にも意味があります。ただ「美しく見える」というだけではなく、
・登場人物がその立ち位置にいることで、どんな効果があるか
・その立ち位置は登場人物の心情と一致しているのか
・役者同士で位置が重なっていないか
など、心理的にも空間的にも、多くの要素が考慮されているのです。
ミザンスはどう決まる?稽古場での流れ
それでは、ミザンスはどのように展開していくのでしょうか。
カンパニーによってそのやり方は異なるものの、多くの稽古場では
・ト書き(戯曲でキャラクターの動きや行動を指示する部分のこと)
・舞台から登場する、あるいは退場するタイミング
・照明や音響のタイミング
を加味して、役者の動きを決めていきます。
あるいは、ミザンスが決定し、出演者の動きがある程度固定されてから、照明や音響のプランが決まる、というパターンもあります。
なぜミザンスが必要?演劇・ミュージカルでの重要性
特にミュージカルでは、ナンバーや時間の尺が決まっています。そのため、限られた時間の中でどの役がどの役と絡むのか、どのタイミングで登場・退場するのかを細かく計算しなければなりません。
また、ミュージカルには主要キャストだけではなく、アンサンブルを含めた大人数が一堂に会する場面も多くあります。ミザンスを進める際は、客席から観た時に一番美しく見えることと、接触事故がないよう安全にシーンを進められることに注力します。
役者たちは、これらの動きを自然に出来るよう、また、役の心情とその動きが一致するように、ただ動きや場所を覚えるだけではなく、心身に馴染ませていくのです。
ミザンスに注目して舞台を楽しもう
ミザンスの意味を知ってから舞台を見ると、それまで気づかなかった演出の工夫に目が向くようになります。
・あの人物は、どうしてここからあそこに移動したのだろう?
・ふたりの立ち位置にはどんな意味が込められているのだろう?
・なぜこのシーンでは全員が横一列に並んでいるのだろう?
一見何気ない動きや配置に思えても、そこには演出家の意図や登場人物の心情が反映されているかもしれません。その意味を自分なりに解釈するのも、舞台鑑賞の楽しみ方のひとつと言えるでしょう。
次に劇場に足を運ぶ際は、セリフや歌だけでなく、役者たちの「動き」や「位置関係」にも注目してみてください。きっと新たな発見があるはずです。
同じ劇場でも、1階と2階では見える角度が異なり、演出家が意図した位置関係が違って見えることがあるかもしれません。細部にまで注目して楽しめるのも、舞台芸術の面白いところですね。


















