何者かになろうとして、もがいた経験はありませんか?それは決して『ラ・ラ・ランド』の主人公たちのように、表現者を目指すということに限りません。何か意味のある存在になりたいと思ったことが一度でもあれば、きっと少し苦い思いを抱えながらこの映画を観ているはずです。「観るもの全てが恋に落ちる」と評された、あまりにも色彩鮮やかなのにどこか懐かしい、現代のロマンス映画『ラ・ラ・ランド』をご紹介します。
01 甘くて苦い大人のためのラブストーリー
2017年に公開されてから3年以上経った今でもシネマ・コンサートが開催されるなど、今なおミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』の人気は色褪せません。しかしアカデミー賞を数多受賞したこの映画は、ネット上で「意味がわからない」「バッドエンド」と評されることもありました。辛口なその評価の理由の一つは、このストーリーが単純なラブストーリーではないことに起因します。
舞台は夢追い人の街、ロサンゼルス。売れないジャズピアニストのセブと、女優志望のミアは恋に落ち、互いの夢を応援しあう。しかし夢を叶えるためにやむなく音楽性の合わないバンドに所属したセブが、成功を収め始めたことから二人の心は少しずつすれ違い始めてしまう。彼らが最後に選んだものとは、一体何だったのでしょうか?
02 ハッピーエンドとは何か
一見これは、二人の恋を描いた話に見えますが、忘れてはならないのが彼らは夢追い人だということ。恋が成就すればするほど、彼らの追っている夢を叶えるという本望からは離れてしまうこともあります。
彼らが勝負をしているのは才能という世界。シビアな世界で戦う彼らにとって、自分が選ばれるかそうでないか、やりたいことか世間に求められていることか、そして自分の夢と大切な人が相反してしまったときどちらを取るか、という取捨選択は大きな問題です。
『ラ・ラ・ランド』はラブストーリーだけでなく、一度でも何者かになろうと努力した人なら必ず共感できる、夢追い人の苦しみや残酷さをリアルに描いています。これが、私たち観客を掴んで離さない理由であり、時にほろ苦い思いをさせる理由なのです。
彼らにとってのハッピーエンドとは何なのでしょうか。恋を成就させることでしょうか。それとも一抹の望みにかけて、夢を叶えることでしょうか。何を取るのが彼らにとっての幸せだったのかと、観終わった後もその映画のことを考えてしまいます。
もちろん、『ラ・ラ・ランド』の魅力はストーリーだけではありません。キャッチーな曲やダンスはもちろん、映画中で切り取られる美しいLAの名所、ミアとセバスチャンだけで合計100回を超える衣装チェンジ、ミュージシャン役で出演している一流アーティストなど、挙げ始めたらきりがありません。 現代社会で生きる私たちは日々に疲れ切っていて、「夢」を抱えていたことなどすっかり忘れてしまっています。『ラ・ラ・ランド』はそんな私たちに、夢とロマンのエネルギーを注ぎ込んでくれます。