村上春樹さんによる同タイトルの長編小説を初めて舞台化する『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』。本作に出演する藤原竜也さん、森田望智さん、宮尾俊太郎さん、富田望生さん、駒木根葵汰さん、島村龍乃介さん、池田成志さんと、演出・振付を手がけるフィリップ・ドゥクフレさんが製作発表会見に臨みました。
「舞台に戻ってきてもらえるような作品にできたら」

日本を代表する世界的作家・村上春樹さんが36歳の時に発表し、世界中で愛される長編小説「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」。アルベールビル冬季オリンピック開・閉会式を演出し、サーカスと映像トリック、ダンスとが交錯する奇想天外な手法で世界を驚かせたフィリップ・ドゥクフレさんが演出を手がけ、主演に藤原竜也さんを迎え舞台化されます。
日本での公演の他、シンガポール・中国・ロンドン・パリでのワールドツアーが行われる『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』。日本から世界に発信される国際的プロジェクトの始動にあたり、フランス大使公邸で製作発表会見が行われました。

フィリップさんは本作の演出にあたり、「日本に来られる素敵な機会なので飛びついた」と明かし、「私たちが現在生きている世界というのは、色々なものが失われつつある世界だと思います。今回の舞台はハイブリッドに様々な世界が組み合わさっていますが、まさに現代の世界に似ていると感じます。失われた愛を求めていくという点では普遍的なお話でもあると思います。個人的には、娘が一角獣が大好きなので、それだけをとってもこの作品に取り組めるのは素敵なことです」とチャーミングに語ります。
また「いわゆる演劇でもなく、バレエでもなく、ミュージカルでもなく、でも同時にその全てでもあるような、そんな作品です。願わくば、新しい何かを、特別な何かをご紹介できたら」と意気込みました。

藤原竜也さんは“ハードボイルド・ワンダーランド”という世界で、組織に雇われる計算士であり、博士によって奇妙な世界に誘われる“私”を演じます。村上作品は蜷川幸雄さんの勧めで15歳の舞台デビュー当時から読んでいたそう。
本作を上演する意義について問われた藤原さんは「村上作品はシェイクスピアとも違う、三島由紀夫とも違う、我々の細胞の何かを揺るがせてくれる、蘇らせてくれる、目覚めさせてくれる確かなものがあって、常にドキドキさせてくれていました。しっかりとこの作品を、言葉を、世界の皆さんに届けたい。難しいことは言えないですし、演劇なんてちっぽけなものですが…ただ、頑張って作っていくんですよね。観たくなければ観なくても良いし、でも観てちょっとでも心が動けばそれで。だからぜひ劇場に来てくださいとは言いません(笑)。観たかったら来てください」と正直な心境を明かしました。

“私”が心魅かれる女性司書と、もう1つの世界“世界の終り”で“僕”が出会う“彼女”を演じるのは、NHK連続テレビ小説『巡るスワン』でヒロインを務めることでも話題の森⽥望智さん。
初舞台に向け、「キャストの皆さん、ダンサーの皆さん、そしてフィリップさんから日々学ばせていただき、凄く刺激的な毎日を送っています。司書と“彼女”に関しても色々な捉え方があると思うんですけれど、私自身としては、“彼女”は“私”が失ったものを体現している存在で、司書はそれを彷彿とさせる現実世界に生きている女性だと考えています。“私”と“僕”が惹かれる女性であるという共通点を持ちながら、同じ人なのか違う人なのか、捉えどころのない、観た人にとって余白の残る人物になったらと思いながら日々模索しています」と語りました。

宮尾俊太郎さんは、“世界の終り”で“僕”と切り離される影を演じます。本作の出演にあたり、「僕はバレエダンサーとして言語のない世界で表現させていただいてきましたが、身体的に言うならば“筋肉を使って空気を振動させて表現する”といったことでは違いは大きくはないかなと思っています。言語というのは、伝える相手がいて成立するものだと思いますけれども、舞踊は1人でも成立するもので、より自分の内側に向いたもの、より本能的であり、精神性というものがあると思うので、“私”の深層心理の世界に入っていく今回の作品においては、自己との対話というところでは言語を使い、より1人の内側に置いた精神性、本能的な部分というのは舞踊で表現できるのかなと今模索しているところです」と語りました。

“ハードボイルド・ワンダーランド”の博士の孫娘であり、藤原さん演じる“私”と地下世界を旅するピンクの女を演じるのは富田望生さん。「とても魅力的な人物を演じられることを本当に光栄に思っています。小説に対する世界の創造の膨らみ方、ピンクの女という女性に対してどのような印象をお持ちかは、読んだ方それぞれによって違うのではないかなと思っています。実際に稽古を進めていく中で、私自身が感じていた小説に対する思い、ピンクの女に対する思いというのが良い意味で皆さんと違い、色々な角度からスパイスと潤いをいただく時間になっています。まだ答えは見つかっていないですが、キャストの皆さん、ダンサーの皆さんと共に、そしてフィリップさんの頭の中を覗きながら、ピンクの女の冒険、“私”との冒険を見つけることができるのではないかなと思ってとてもわくわくしております」と心境を明かしました。

“世界の終り”の“僕”は駒木根葵汰さん、島村龍乃介さんがWキャストで演じます。駒木根さんは本作が初舞台ということで、「1つの役を2人で演じる(Wキャスト)というのも初めての経験で、島村くんと一緒に色々な意見を出し合いながら、より良いキャラクターになるよう日々精進しています。成志さんにも色々お手伝いいただいて、みんなで作品を作り上げているという感覚を体感しています。自分が出ていないパートを観ていると、こんなに美しいものができるんだなと本当に完成が楽しみですし、皆さんにより良い舞台を届けられるようにこれからも努力していきたいと思います」と意気込みます。

島村さんは初めての海外公演に向け「本当に凄く緊張をしているんですけれども、海外で僕がどう見られるのか、どう評価されるのか、わくわくしています。来年の日本公演を通して、自分がどう成長しているのかが楽しみです。海外は、言葉や文化というのは日本とは全然違うと思っているんですけれども、舞台の物語を届ける力というのは世界共通なのかなと思っています。言葉だけでなく、仕草や振りをこれからの稽古で詰めていって、皆さんに素敵な物語をお届けできたら」とコメントしました。

“ハードボイルド・ワンダーランド”の博士と“世界の終り”の大佐を演じる池田成志さんは「博士は科学に対して純粋無垢な人だと考えています。“僕”と“私”が2つの世界でこうなってしまった状態を作った張本人なんだけれども、とても無邪気にそれをなぜなんだろう、どういうことなんだろうと追及している人です。一方大佐は、“世界の終り”に住んでいて、心や全てを捨てて安らぎの世界で生きているんだけれども、“僕”に出会ってちょっと心を動かされているんじゃないかと思います。非常に繊細な2人、そしてフィリップさんが作る美しい世界で、村上さんの原作も不思議でナイーブな世界なんですけれども、私は普段非常に雑で大雑把ないい加減な芝居をやっているので、その繊細さをどうすれば良いんだろうと、非常に今もがいている状態で苦しんでいます(笑)。その結果をぜひご覧いただければと思っております」と語りました。

まだ全貌が見えない本作ですが、フィリップさんは「映像が入っていたり、バレエが入っていたり、音楽もたくさん入っているような作品になります。期待をしている点といえば、あまり劇場にも向かわなくってきているお客さんをまた舞台にまた引き寄せる、戻ってきてもらえるような作品にできたらと思っています。様々な要素が盛り込まれた面白い作品になると思いますが、村上作品ですから、やはり詩的にも素晴らしい作品になっています。とにかく自分は何て幸運なんだろうと噛み締めています」と語り、作品への期待を高めました。

Sky presents 舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は2026年1月10日(土)から2月1日(日)まで東京芸術劇場プレイハウスにて上演。
その後、2月6日(金)から8日(日)まで宮城公演(仙台銀行ホール イズミティ21)、2月13日(金)から15日(日)まで愛知公演(名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール)、2月19日(木)から23日(月祝)まで兵庫公演(兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール)、2月28日(土)から3月1日(日)まで福岡公演(J:COM北九州芸術劇場 大ホール)を実施。
さらに、4月にシンガポール公演(エスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ)、7月に中国公演(上海・北京・蘇州 ※予定都市)、10月にロンドン公演(バービカン・センター)、パリ公演(シャトレ劇場)が行われます。公式HPはこちら
壮大な物語でありながら、どこか現実と地続きのようにも感じる「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」。本作がどのように舞台上に出現するのか、楽しみです。


















