12月9日(土)からよみうり大手町ホールで幕を開ける日本初演ミュージカル『ジョン&ジェン』。1985年から現代にかけてのアメリカで変わりゆく社会を背景に、1幕は姉ジェンと弟ジョン、2幕は母親になったジェンと息子のジョンの関係性を描いた「2人ミュージカル」です。ジョン役を演じる森崎ウィンさんが本作の魅力と期待を語りました。

セリフ外のバックボーンを深めることで、「間」が生きる作品に

−作品のオファーを受けた時のお気持ちをお聞かせください。
「オファーを頂いたミュージカルへの出演は5作品目になるのですが、パルコプロデュースで2人ミュージカルというところに惹かれました。台本を読んでみて、“これは子役がいるってこと…?違うよな?”と思うくらい幅広い年齢を演じると共に、1幕と2幕で同じ名前の別の人物を演じるということで、非常にやりがいがあるのではないかと感じました」

−5歳〜18歳まで演じるとのことですが、いかがですか?
「演出の市川洋二郎さんは“ウィンくんはそのままで行けるんじゃないか”と仰っていたので(笑)、彼の言葉を信じてそのまま行こうかなと思います。Wキャストの田代万里生さんは幅広い年齢の役柄をご経験されているらしいので、稽古場でお話を聞いてみたいです。映像とは違って約2時間の中で見せていくことが求められるので、色々と学んでいきたいですね。共演者の皆さんはベテランの方々なので、良い意味で肩を並べようとせず、素直に、市川さんと脚本を信じて飛び込んでいきたいです」

−楽曲の魅力についても教えてください。
「かなりセリフに近いメロディーラインで作っている作品だなと感じます。歌うというよりも芝居に近くて、1曲ずつというよりも全体を通して1曲であるという感覚です。物語と共に見る楽曲だなと思うので、全部繋がった時に自分がどう感じるかが楽しみではありますね。ただ歌う側としては、とても難しくて、歌うのが2人のみ、楽器も少なくて、実力を試される楽曲です。感覚よりも計算的に稽古していかないといけないと考えていて、それが完成した時に楽曲の真の魅力が自分の中に落とし込まれるんじゃないかなと思います」

−演出の市川洋二郎さんと作品についてお話しされたことは?
「ワークショップで市川さん・田代さんと、作品のバックボーンについて想像を膨らませた時がありました。この作品はジェンが自分を受け入れて進んでいく物語だと思うのですが、大人になってから自分が間違っていたと認めることは難しい瞬間があると思うんです。特に家族に関しては。そういうところにメッセージ性があるのではないかとお話しされていたのが印象的でした。ジョンも1幕と2幕で別の人物を演じることになるのでとにかく“難しい”という言葉が出ているのですが、ステージングも含めて市川さんの中では出来上がっているらしいので、“とにかく信じて”と稽古前から言っていただけたことは貴重だし、恵まれた環境にいるなと思います」

−具体的にどのようなバックボーンを話し合われたのでしょうか?
「1幕のジョンとジェンが姉弟の時、両親はどういう人なのか。父親はなぜ暴力的なのか。母親はそれをずっと支えているけれど、それはきっとジェンがいるからだよね。その後にジョンは生まれているから、ジョンは父親のことが好きだけど、ジェンは父親の嫌なところも見ているから…みたいなことを語り始めると止まらなくて。セリフ1つ1つについて調べて質問して、と深めていくことが稽古前に出来ていると、本番で「間」が生きてくるんです。特に舞台はそうだと思います」

−台本は日本語だけでなく、英語と日本語のセリフを並べて載せられている珍しい台本ですね。そこは市川さんのこだわりがあるのでしょうか。
「僕もこれはびっくりしました。彼には自信があるからだと思うし、凄く信頼に繋がりましたね。それに日本語のセリフだけ読んで“どっちのニュアンスなの?”と分からない時に、英語を読むことで、例えば“これは皮肉的に言っているんだな”とか、役者へのヒントにもなると思うんです。前回出演した『SPY×FAMILY』でも原作を読むということは大切にしていたので、驚いたと共に素敵だなと思いました」

相手のことを思って嘘をつくジョンに感じる切なさと愛おしさ

−1幕のジョンと2幕のジョン、全く異なるキャラクター像ですが、それぞれに共感できることはありますか?
「1幕のジョンは、家族に対して悩みを持っている姿や、妹弟間でも考えが違う部分に共感しますね。2幕のジョンは母親から締め付けられて、独り立ちできないところに共感しました」

−台本を持って、印象に残ったシーンは?
「ジョンがサンタクロースを信じたフリをして、クリスマスのプレゼントを喜んだフリをするところは印象に残っていますね。相手のことを思って嘘をついたりするのって、生きていてあることじゃないですか。それを象徴するシーンだと思います。母親に対する“またか”という気持ちと、客観的に見ると切なさや愛おしさもありますよね」

−別の人物ながらも1人の俳優が演じることで観客からは重なって見える瞬間も多いと思います。2人のジョンをどう演じようと思われていますか?
「恐らく、この作品は皆さんジェンの目線で見ると思うんです。だからこそジョンがオーバーラップして見えてくると思うんですよね。だからジェンから見るジョンというのを提示する・理解する必要があるのではないかと感じています。2人のジョンのパーソナリティの違いは、セリフの中にきちんと現れているので、変に演じ分けようとしなくても出てくるものだと思っていますね」

−『ウエスト・サイド・ストーリー』や『SPY×FAMILY』などを経験して、ミュージカルに対する向き合い方に変化はありますか?
「様々な現場を経験して、できること、出せる音が増えてきました。分かることが増えてくると稽古で早めに逆算して考えられるようになっています」

−映像作品でも活躍している中で、ミュージカルの現場に求めていることは?
「やはり生モノなので、その日にしか生まれない物語があることですね。全編通して演じることや、その場のお客さんとの対峙も重要なので、それをやり遂げることや、やり遂げた時の自信のつき方は映像とはまた違うと感じています」

−本作を今の時代、今の日本に届ける意義をどう捉えますか?
「ジェンが自分を受け入れて、自分を許して進んでいく物語は、国や人種を超えて共通するものだと思うんです。今の日本だからということよりも、こういう素敵な作品というのは国や言語、国境関係なく、伝えていくべき作品になるのではないでしょうか」

撮影:鈴木文彦

ミュージカル『ジョン&ジェン』は12月9日(土)から24日(日)まで東京・よみうり大手町ホール、26日(火)から28日(木)まで大阪・新歌舞伎座にて上演されます。ジョン役は森崎ウィンさん・田代万里生さん、ジェン役は新妻聖子さん・濱田めぐみさんのWキャスト。作品公式HPはこちら

Yurika

多方面で活躍している森崎さんらしい、「映像や声の仕事で得られた「音」を作品に活かしていきたい」という言葉が印象的でした。