『WICKED』の代表曲と言えば「Defying Gravity(自由を求めて)」。主人公エルファバの心の中でむくむくと沸き起こる正義感を表す歌詞と、上昇していくメロディに、勇気をもらえる1曲です。その英語詞には彼女の繊細さや力強さの裏に刻まれた痛みを感じられるフレーズも。今回はそんな表現を抜粋してご紹介します!

01 目を閉じて、自分の直感を信じて今飛び立つ

最初に取り上げるのは、力強く自分の信念へ突き進むエルファバの最初の一歩を象徴するこちら。

「It’s time to trust my instincts/ Close my eyes and leap!」

生来の魔力と緑色の肌のせいで除け者にされてきたエルファバにとって、唯一の夢はオズの魔法使いに弟子入りすること。しかし、皆が讃える魔法使いの本性は、自分の偉大さを演出するため、仮想敵を作ろうと企むペテン師でした。事実を知り逃げ出した彼女は、憧れていた魔法使い自身によって「悪い魔女」として追われることに。

この箇所を和訳すると、「自分の直感を信じて、目を閉じる。そして飛び立つの」という意味になります。権力に立ち向かう己の運命を噛み締め、じんわりと受け入れていくエルファバの静かな決意を感じる歌詞です。

02 既に手元にないものに固執していた過去を捨てて

「Too long I’ve been afraid of/ Losing love I guess I’ve lost/ Well, if that’s love/ It comes at much too high a cost!」

こちらは「愛を失うことを恐れてきたけれど、その愛はすでに失っていたみたい。それが愛だとしたら、随分と高い代償ね。」というフレーズ。解釈は様々ですが、「認められたい、愛されたいと願っても見返りを得られなかったのだから、追われる身の私が失うものは何もない」と言い切る清々しさを感じます。

同時に、オズの魔法使いへの失望を読み取ることもできるでしょう。虚構を夢見てエルファバが費やした無駄な情熱と時間。その絶望が、曲中において彼女を正義の道へ加速させたと言えるのではないでしょうか。

03 羽ばたくチャンスは誰にでもある

最後は、彼女が空へ舞い上がった後に歌うフレーズ。

「As someone told me lately/ “Everyone deserves the chance to fly!” 」

「誰かが私に言ったように、『羽ばたくチャンスは誰にでもある』のよ」という意味です。

ここで言う「誰か」とは、オズの魔法使いのこと。一つ前の曲「Sentimental Man (センチメンタルマン)」でエルファバを歓迎した彼は

「So Elphaba, I’d like to raise you high/ ‘Cause I think everyone deserves the chance to fly」 (エルファバ、君を育てよう/ 『羽ばたくチャンスは誰にでもある』と私は思うのさ)

と歌います。

直前に魔法使いが語った言葉をそのまま引用することで、エルファバは自力で大空へ羽ばたける魔力の持ち主であることを、彼らが恐れるべき存在であることを誇示するのです。まるで宣戦布告のようなこの歌詞は、両者が争いを続ける第二幕へと物語を繋げる役割をも担います。自力で勝ち取った魔力を武器に、オズ社会に立ち向かう彼女の勇気が引き立つフレーズですね。

Sasha

ひとりで立ち向かうにはあまりにも大きすぎる権力にも屈せず、自分の直感を信じたエルファバ。彼女のように信念を貫き通せば、捻じ曲げられた私たちの社会を動かすこともできるかもしれない。「Defying Gravity」は私たちにそんな希望を感じさせる、究極のエンパワメント・ソングです。