12月9日(火)から日生劇場で開幕するミュージカル『十二国記 -月の影 影の海-』。小野不由美さんによる壮大なファンタジー作品の初舞台化で、主人公・中嶋陽子を柚香 光さん、加藤梨里香さんが2人で演じ、演出を山田和也さんが手がけます。開幕を前に囲み取材と公開ゲネプロが行われました。

「強くなりたい、ぜったいに負けない」

1991年に『魔性の子』(新潮文庫)刊行で始まった、異世界〈十二国〉を舞台とした壮大なファンタジー「十二国記」シリーズ。本舞台ではシリーズ本編の第一作『月の影 影の海』が描かれます。

主人公は、女子高生の中嶋陽子。両親の期待に応え“良い子”であろうとする、陽子は学校でも周囲に合わせてばかり。同級生と“同じ”であろうとする彼女ですが、人とは違う生まれつきの赤毛によって「実は陰で遊んでいるのではないか」と疑われることも。

そんな時、突如ケイキ(相葉裕樹さん)と名乗る金髪の男が現れ、異世界へと連れ去られてしまいます。「見つけた、あなただ」「許すとおっしゃい」。

ケイキ(景麒)に言われるがまま、異世界に連れ去られた陽子は髪の毛がより赤く、体つきは筋肉質に変化してしまいます。自分の容姿の変化に驚き、「帰りたい」と泣く陽子(ヨウコ)でしたが、彼女には次々と壮絶な試練が。

本作では我々が住む世界の陽子を加藤梨里香さん、異世界に連れされた後の陽子(ヨウコ)を柚香 光さんが担当。 “普通”の高校生だったヨウコが悩み傷つきながら成長していく様子を、2人によって演劇的に描き出していきます。

柚香さんが圧巻の殺陣裁きを見せながら、加藤さんが陽子の心情を切々と歌い上げ、2人が向かい合い言葉を交わすことで陽子の心の葛藤を表現。

多くの人と出会い、裏切られるで世界の無情さを知っていく陽子が、自分自身と向き合い、自分の味方は自分であるということに気がついていく様が丁寧に描かれます。

厳しい旅路の中、彼女にとっても私たち観客にとっても大きな癒しを与えてくれるのが「楽俊(らくしゅん)」。ネズミの半獣で、キラキラとした瞳と愛くるしいフォルムが印象的なパペットと共に、太田基裕さん、牧島 輝さんがWキャストで演じます。

一挙手一投足を逃さず見ていたくなるほどキュートな佇まい。公開ゲネプロで楽俊を演じた太田さんは、澄んだ発声で台詞を自然と際立たせながら、彼の温かみあるキャラクター像を魅力的に演じているのが印象的でした。

ヨウコの心が折れそうな時、どこからともなく現れ、「痛みは一瞬だ」と囁くのは蒼猿(玉城裕規さん)。ヨウコの弱さ、絶望を映し出す、心の影を象徴するような存在です。

舞台セットは、製作発表でもキーワードとして出てきた「モップ」と呼ばれるストリングカーテンの装置が印象的に使用されます。「虚海(きょかい)」と呼ばれる広大な海を渡り、十二国のある異世界へと誘われるシーンでは、モップが大きく回転。映像を映し出すスクリーンとしても機能します。

ヨウコを襲う妖魔(ようま)、十二国に住む異形の獣たちは、パペットを用いて人力で表現し、柚香さん、加藤さんは舞台上を駆け回って妖魔と対峙します。

自分は何者なのか、自分に何ができるのか。彼女の心の内が丁寧に描かれることで、異世界の物語でありながら、観る者一人ひとりの“自分自身への問い”へと重なっていきます。幾度も迷い、傷つきながらも前へ進むヨウコの姿は、今を生きる私たちの背中をそっと押してくれるはずです。

陽子の一人称で描かれる物語を大切に

囲み取材には、柚香光さん、加藤梨里香さん、演出・山田和也さんが登壇しました。

「自信作ではありますけれど、緊張しています」と心境を明かした山田さん。初の舞台化にあたり、「小野不由美さんの原作小説が素晴らしいので、とにかくその素晴らしさを、舞台・演劇・ミュージカルのやり方でお客様に届けるということに一番気を配ってきました。舞台には舞台のやり方、方法、ストーリーの展開があると思う。そこで小説を読んだ時と同じ感動や興奮を味わってもらえるように。原作の小説が主人公の陽子さんの一人称で書かれているというのがすごく大事なことだと思うので、舞台でも陽子さんの視点で物語が進んでいき、お客様も陽子と一緒になって異世界に行って、見たこともない人、見たこともない街に進んでいく、冒険を感じていただければ良いなと思いました」と語ります。

また原作者である小野先生は通し稽古の映像を観たそうで、「原作者も感動しているということを是非ともカンパニーに伝えてほしい」というメッセージがあったことが明かされました。

柚香さんは「ヨウコが次から次へと襲い掛かる試練に立ち向かって、気づきや希望があったと思えばまたすぐに次の出来事があって、怒涛の旅路を皆様に一緒に体験していただいて、共感していただいて。そして彼女の成長を見守っていただいて、心を寄せていただけるように」と意気込みます。

加藤さんは「最初に大きな妖魔と戦うシーンで、舞台上全部を使って戦いながらとんでもない歌を歌うという(笑)。そこを頑張ってきたので見ていただきたい」とアピール。「演劇的に人力を使って表現していること、そしてお客様に想像していただいて、全てが完成する作品になっているところがすごく面白いし、やっていても楽しいなと思うところです」と魅力を語りました。

また稽古場でのエピソードを問われると、「楽俊が癒しになってくれて。パペットのお顔がものすごく可愛いんです。いつも楽俊にも挨拶をする人が多くて、癒されていました」(加藤さん)、「稽古場の端っこにいるんだよね。(本番では)視線泥棒だと思います、ずるいと思う(笑)」(柚香さん)と楽俊の存在がカンパニーにとっても大きな存在だったよう。

最後に柚香さんから「原作のファンの皆様にも、ミュージカルファンの皆様にも、皆様に楽しんでいただける作品になるよう、一丸となって取り組んでいます。『十二国記』という素晴らしい作品に携われて光栄です。皆様に観に来て良かったと思っていただけるよう、大切に大切に演じてまいりますので、どうぞ応援のほどよろしくお願いします」とメッセージが送られ、会見が締め括られました。

撮影:晴知花

ミュージカル『十二国記 −月の影 影の海−』は2025年12月9日(火)から29日(月)まで日生劇場にて上演。2026年1月6日(火)から11日(日)まで福岡・博多座、1月17日(土)から20日(火)まで大阪・梅田芸術劇場 メインホール、1月28日(水)から2月1日(日)まで愛知・御園座にて上演されます。公式HPはこちら

原作小説の中で印象的な言葉が、本作でも大切に使用されているのが印象的でした。本作ならではの用語も多いので、個人的には原作を読んでから観ることをお勧めします!