イギリスでオリビエ賞を受賞したブロードウェイミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング 〜あの頃の僕たち〜』。1950年代のニューヨークを舞台に、3人の若者の友情、そして決別の理由を“逆再生”で辿るミュージカルです。人はいつ道を間違え、運命が変わってしまうのか?大人のほろ苦さが詰まった本作の観劇リポートをお届けします。(2021年5月・新国立劇場 中劇場)
40歳から20歳まで遡る“逆再生”ミュージカル!
『メリリー・ウィー・ロール・アロング』で挙げるべき一番の特徴は、時代を遡る構成になっていること。ハリウッドで成功しながらも過去を悔やむフランク、以前はベストセラー作家だったのに今や酒漬けの毎日を送るメアリー、そして劇作家として活躍するチャーリー。かつて大親友だった40歳の彼らの心はバラバラで、フランクとチャーリーは絶縁状態。彼らの人生に何が起きたのか、数年ずつ年月は遡り、20歳の出会いまでを描きます。
フランクは冒頭で「ただ1つの過ちを犯した」と述べますが、私個人としては1つの大きな過ちというよりも、小さなすれ違いが徐々に大きな決裂へと繋がってしまったように感じました。名声を求める者、自分らしさを追求する者、何かに依存してしまいがちな者。それぞれの想いからした選択が、少しずつずれていってしまった。私たち大人にとっては耳の痛い話で、今は疎遠になっている友人たちを思い浮かべます。20歳の3人が純粋無垢でキラキラと輝いている分、切ない気持ちにもなるのです。
イチオシは笹本玲奈×昆夏美の美し&切なすぎるデュエット
フランクを平方元基さん、チャーリーをウエンツ瑛士さん、メアリーを笹本玲奈さんが務める本作。思わず鳥肌が立つほど感動してしまったのが、メアリー・笹本玲奈さんと、フランクの元妻ベス・昆夏美さんのデュエットです。メアリーはフランクにずっと叶わぬ片思いをし続けており、目の前でフランクとベスの結婚を見届けることになります。メアリーとベスが同じ“恋心を歌う歌詞”を、正反対の心境で歌い上げる。その美しさと切なさに胸がギュッと掴まれました。
プロデューサー・ジョーを演じた今井清隆さんの渋くて力強い歌声も圧巻。フランクの人生を大きく変えてしまう女優ガッシー・朝夏まなとさんの妖艶なパフォーマンスも注目です。
ミュージカル界の巨匠であるスティーブン・ソンドハイムが作詞作曲をした本作。独特で難解な歌たちが、人生のほろ苦さを浮かび上がらせます。5月は新国立劇場にて、6月は愛知公演と大阪公演が実施予定です。詳細は公式HP をご確認ください。