演劇と落語を掛け合わせ、新たな作品を創作するH&Aプロデュース企画が始動。その第1弾となる舞台『死神』が2026年4月に東京、5月に兵庫で上演されます。
プロデューサー2人が発案した「演劇と落語の掛け算」
H&Aプロデュースは、演劇プロデューサーの細川展裕さんと浅生博一さんが立ち上げたプロジェクトです。
細川さんは、いのうえ歌舞伎をはじめとしたオリジナル作品で演劇界を牽引する劇団☆新幹線を長きにわたりプロデュースしてきました。一方の浅生さんは落語好きなうえ、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』をベースにした2025年の音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード~いざ、出立!!篇~』でプロデューサーを務めるなど、日本の伝統芸能と縁があります。
そんな2人が落語家の立川志の春さんによる「シモハルの会」を観に行った際、数々の新作落語に触発されて「演劇と落語を掛け算した演劇作品を創作しよう」と着想を得たことから、H&Aプロデュース企画が誕生。プロジェクト名はお互いのイニシャルである「H」と「A」に由来します。
演劇と落語が舞台上でコラボレーション
落語とは話芸の一種で、噺の最後にオチをつけるのが特徴。演者は身振り手振りを交えながら1人で何役も演じ分け、聞き手の想像力を搔き立てます。思わず吹き出してしまったりちょっぴり恐ろしかったりと落語の演目はバラエティに富んでおり、古今東西親しまれてきました。
とりわけ近年、落語はさまざまなメディアを通じて発信され、話題となっています。2016年から2017年にかけて放送されたNHKの番組「超入門!落語 THE MOVIE」では、古典落語の音声に俳優が口の動きを合わせて演じるという手法により、リアルな映像化に挑戦。また、雲田はるこさんの漫画『昭和元禄落語心中』がアニメーション、ドラマに続き2025年にはミュージカル化を果たしました。こうした映像作品や舞台から落語に興味を持った方も多いのではないでしょうか。
そして今回、古典落語を新作の芝居に仕立てる斬新な発想のもとでH&Aプロデュース企画の“演劇×落語”シリーズが動き始めます。
企画第1弾でベースとなるのは、古典落語の『死神』。江戸時代から明治時代にかけて活躍した三遊亭圓朝(さんゆうていえんちょう)が落語にしたといわれています。借金を抱えた男と死神のやり取りを通じて人間の愚かさを面白おかしく描いた本作は、落語家によってオチが変わるところが醍醐味のひとつ。はたして舞台版ではどのようなオチが待っているのか、ドキドキしながら見届けましょう。
<あらすじ>
どん底続きの男、八五郎(牧島輝)。金なし、甲斐性なし、運もなし。「もう死ぬしかない」と覚悟した夜、謎の女・死神(水野美紀)が現れる。死神は「病人の生死は、病床に座る死神の位置で決まる。足元なら助かり、枕元ならアウト。足元の死神は呪文で追い払える」と告げ、呪文“アジャラカモクレンテケレッツのパー”を授ける。医者を名乗った八五郎は一時は名声を得るが、欲に負け禁じ手に手を出してしまう。その代償として死神に連れていかれた先は、寿命を示す無数の蝋燭の洞窟。今にも消えそうな一本。それが八五郎の命だった。さて、この男の運命やいかに。
“演劇×落語”で表現の可能性を切り拓く
舞台『死神』で作・演出を務めるのは、劇作家・演出家の倉持裕さんです。2000年に旗揚げした劇団「ペンギンプルペイルパイルズ」ではすべての作品で作・演出を担い、2004年の舞台『ワンマン・ショー』で第48回岸田國士戯曲賞を受賞。近年は外部への書き下ろしにとどまらず、舞台戯曲からミュージカル、ドラマに至るまでジャンルを問わず創作活動に取り組んでいます。
直近では、2025年12月に発表された第60回紀伊國屋演劇賞で竹中直人さんが個人賞を受賞した竹生企画第四弾『マイクロバスと安定』の作・演出を担当。ちなみに、H&A企画のプロデューサー2人がスタッフとして携わった劇団☆新感線のいのうえ歌舞伎『乱鶯』や『けむりの軍団』でも脚本を手掛けました。
経験豊富な倉持さんも、落語とのコラボレーションは本作が初めて。そこで落語家の立川志の春さんが脚本協力、さらにキャストとして参加し、作品の屋台骨を支えます。志の春さんは2002年に立川志の輔さんに弟子入りし、2020年には寄席で一番最後に出られる「真打」の地位に昇進。古典落語はもちろん、新作落語や英語落語などレパートリーを柔軟に広げながら、シェイクスピア作品を落語化したり独演会を開催したりと枠にとらわれない表現を模索しています。落語と演劇、それぞれの強みを知る2人がタッグを組むとあってますます見逃せません。
実力ある俳優陣がキャスティング
本作の主人公である八五郎役は、ここ数年ミュージカルや舞台での活躍がめざましい牧島 輝さん。2024年のPARCO PRODUCE 2024『ハムレットQ1』やミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』、2025年の『きたやじ オン・ザ・ロード~いざ、出立!!篇~』など多彩な作品に出演して経験を積み、チャーミングながら芯のある演技で評価されています。2026年2月1日まで全国ツアー中のミュージカル『十二国記』ではWキャストで楽俊役を演じた姿も、記憶に新しいところです。
タイトルロールでもある死神役には、シリアスからコメディまで幅広い役柄を演じ分けて存在感を示す水野美紀さんがキャスティング。2007年に楠野一郎さんとともに立ち上げた演劇ユニット「プロペラ犬」では主宰・脚本・演出を担当しており、舞台での活動にも注力しています。
このほか、5名のキャストが出演します。
1人目はアイドルグループ「乃木坂46」の元メンバーで、卒業後は俳優としての道を着実に歩んでいる樋口日奈さん。2025年には、いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼物語』で劇団☆新幹線に初参加しました。
2人目は、ドラマや映画、舞台など数多くの作品で世界観に溶け込みながらも個性を発揮している浅利陽介さんです。実力派バイプレーヤーにどんな役があてがわれるのか楽しみですね。
3人目の玉置孝匡さんは、作・演出の倉持さんが主宰する「ペンギンプルペイルパイルズ」に所属。外部公演にも積極的に参加しており、現在は2026年1月から3月まで上演される舞台『ピグマリオン-PYGMALION-』に出演中です。
4人目は、ミュージカルや舞台を中心に映像作品、声優など多岐にわたって活動する香月彩里さん。2023年からは映画制作に取り組み始め、初めて監督した短編映画『ヒューマンエラー』が国際映画祭のGolden Lion International Film Festival2024で最優秀女性監督賞を受賞。クリエイターとしてのさらなる飛躍に期待が高まります。
そして5人目に立川志の春さんを迎え、“演劇×落語”の舞台に一丸となって挑みます。
H&Aプロデュース第1弾『死神』は、2026年4月11日(土)から26日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA、5月2日(土)から5月4日(月・祝)まで兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて上演されます。チケットの一般発売は東京公演が2026年3月1日(日)、兵庫公演が3月29日(日)より開始。公式HPはこちら
1人の落語家が何役も演じ分ける古典落語と、複数の俳優がそれぞれの役を務める演劇。双方を掛け合わせたときにどんな化学反応が起こるのか、筆者としてもとても気になります。


















