2026年3月20日(金・祝)からついに始まる『フィフス・ステップ』。『インター・エイリア』、『ウォレン夫人の職業』、『ハムレット』に続くナショナル・シアター・ライブ2026の4作目です。本作はアルコール依存症に苦しむ男性の回復過程と、そこに隠されていた衝撃の真実があらわになる重厚な対話劇となっています。

ジャック・ロウデン×マーティン・フリーマンによる83分の対話劇

©︎Johan Persson

『フィフス・ステップ』の作者は、北アイルランド出身の劇作家で俳優でもあるデイビット・アイアランドさん。現代演劇界で“最も刺激的で「毒」のある劇作家”として知られています。

2018年には、ダークコメディ『アルスター・アメリカン』がエディンバラ・フェスティバル・フリンジで上演され、キャロル・タンバー・ベスト・オブ・エディンバラ賞を受賞。スコットランド劇評家協会賞では最優秀新作賞を含む3部門を受賞するなど、注目の劇作家です。

アイアランドさんがタッグを組むのは、演出家のフィン・デン・ヘルトックさんです。スコットランド王立音楽演劇アカデミーを卒業後、アーティスト主導の劇団「Groupwork」の共同芸術監督(Co-Artistic Director)として活躍しています。

本作の2人の出演者も、非常に豪華です。

アルコール依存症回復プログラム「12のステップ」の新入り・ルカを演じるのは、ジャック・ロウデンさん。2011年以降、映像作品を中心に数々のキャリアを重ねる一方で舞台でも活躍。2013年にヘンリック・イプセンの『幽霊』でローレンス・オリヴィエ賞助演男優賞を受賞し、イアン・チャールソン賞も受賞。2015年に出演した映画”Tommy’s Honour”でBAFTA Awards, Scotlandの最優秀男優賞にノミネート、ドラマ『窓際のスパイ』ではエミー賞にノミネートされています。

そしてルカのスポンサー(世話役)となるジェームスを演じるのは、イギリスを代表する名優のひとり、マーティン・フリーマンさんです。映画『ホビット』三部作で主演のビルボ・バギンズを演じるなど、日本でも知名度の高い俳優です。2024年には『レスポンダー 夜に堕ちた警官』での演技により、国際エミー賞最優秀男優賞を受賞しています。

「フィフス・ステップ」とは?依存症回復プログラムの“途中”を描く

©︎Johan Persson

アルコール依存症からの回復プログラム「12のステップ」。ステップ1から4までが“神”と“自分自身”との内なる対話であるのに対し、ステップ5では初めて、対話の相手に”他者”が登場します。

本作のタイトル『フィフス・ステップ』が描くのは、まさにその瞬間。長年プログラムに取り組んできたジェームス(フリーマンさん)は、新入りのルカ(ロウデンさん)のスポンサー(世話役)となります。

二人はブラックコーヒーを飲みながら、互いの物語を語り合います。

しかし、ルカが第5のステップ(フィフス・ステップ)=「告白の瞬間」に近づくにつれ、二人の間に築かれた信頼そのものを揺るがす“真実”が浮かび上がってきて……。

この作品は、脚本を務めたアイルランドさんのアルコール依存症の経験を基に描かれています。実体験に基づく本作だからこそ、ジェームスとルカの対話がどんな展開を呼ぶのか、目が離せません。

NTLive2026のラインナップに感じるメッセージ

今年度のナショナル・シアター・ライブのラインナップには、さまざまな立場に置かれた登場人物たちを通して、あるひとつのメッセージが込められているように感じています。

『ウォレン夫人の職業』では、女性の職種差別や当時の階級社会への問題提起が描かれました。

『ハムレット』では、スリランカ人俳優がデンマークの王子であるハムレットを演じ、多様な人種や属性を持つキャストたちが舞台を彩りました。

そして『インター・エイリア』では、性暴力事件を扱ってきた女性判事が、自分の息子がクラスメートに対するレイプの容疑者になってしまうという展開が描かれたのです。

職業の貴賤、属性の問題、親としての正しい行動など、私たちが日常のなかで「なんとなく見なかったフリをしてきた、でも確かにそこにある」問題たち。それらを、真正面から突きつけてくるラインナップではないでしょうか。

そして『フィフス・ステップ』もまた、そのひとつと言えるでしょう。演劇の世界でもあまり描かれてこなかった「男性が負った傷やその回復過程」が、この作品の核心にあります。私たち観客は、ルカとジェームスの対話から何を見出すのでしょうか。

NTL2026『フィフス・ステップ』は、2026年3月20日(金・祝)からTOHOシネマズほか全国の映画館で上映されます。詳しくは公式ホームページをご覧ください。

糸崎 舞

トップ英国俳優による対話劇というだけで胸が高鳴りますが、アルコール依存症という深刻な社会問題が描かれることで、作品から多くのメッセージを受け取れるのではないかと感じています。上映開始が今から楽しみです。