1992年の同名映画を原作に、2010年にミュージカル化された『奇跡を呼ぶ男』。日本版演出にイギリスの新進気鋭演出家ジェニファー・タンさん、主人公のジョナス役に竹内涼真さんを迎え、2026年4月に東京建物 Brillia HALLにて日本初演の幕が上がります。本作でジョナスの妹サムを演じるのは、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『この世界の片隅に』『マリー・キュリー』など数々のミュージカルで観客を魅了し続ける昆夏美さん。本作への印象や役柄についてお話を伺いました。

ミュージカルらしい高揚感やリズム溢れる作品に

−お稽古期間を通して、本作への印象はいかがですか。
「メッセージ性もありますし、エンターテイメント性もあるので、どちらの意味でも楽しめる作品だなと思います。竹内涼真さん演じるジョナスと聖歌隊のエンジェルスが歌って踊るシーンもたくさんあって、すごくエネルギーをもらえる作品になっていますね。1幕からお客様と一緒にペンライトで盛り上がれるので、一体感を感じていただけると思います。楽曲が終わるとつい拍手をしたくなるような、高揚感に包まれる楽曲が多いですし、私自身も稽古を見ながら“ミュージカルだなぁ!”と思って楽しんでいます」

−アラン・メンケンさんが手がける音楽についてはどんな印象ですか。
「アラン・メンケンさんらしい楽曲もありますが、ゴスペルやリズム感を大事にした楽曲が多いので、『アラジン』『美女と野獣』などとはまた違った音色を楽しんでいただけると思います。私はゴスペルを歌うシーンはないんですけれど、リズム感がすごく大事な楽曲があって、グルーヴを感じながら、体の中でリズムを刻みながら歌うということに苦労しています。今まで出演してきた作品では壮大な、流れるような楽曲を歌うことが多かったのですが、歌唱指導の方からは今回リズムを学べると、壮大な楽曲も流れすぎずにリズムを転がして行けるようになるよとお話しいただいて、1つ1つの出会いが勉強になっているなと感じます。キャストの皆さんはゴスペルに合う声を持っている方が多いので、私は歌うのが恥ずかしいと思ってしまうくらい(笑)。でもいちミュージカルファンとしては、適材適所の方々が集まった作品だなと感じています」

これまでの役柄にも重なる、生きるタフさを持った女性サム

−演じるサムという役柄について教えてください。
「演出のジェニファーさんに言われているのは、サムはとてもタフな女性だということ。幼い頃に両親が亡くなって兄のジョナスと2人で生きていかなければいけず、生きていくためにお金が必要で、知恵を働かせて、伝道集会で嘘の奇跡を見せて献金を集めるようになります。悪いことだとは分かっていると思うんですけれど、生きるための仕事と割り切ってやっている部分もあります。ジョナスはマーラという女性やその息子ジェイクに出会って変わっていきますが、サムは直接誰かと出会って心が変わるきっかけがあるわけではありません。伝道集会でも演じる側ではなく、指示をする側なので、変わっていく人々を見ている、傍観者的な立ち位置の役柄だなと思います。変化していく人たちを見てサムがどう感じるか。そこはお客様に委ねる部分もあるし、私の中での正解も稽古で探っていきたいと思います」

−サムとご自身との共通点はありそうでしょうか。
「あまりないんですよね。私は人を束ねて指示を出すようなタイプでもないし、私は妹がいるので、兄がいるサムとは真逆です。全然違うからこそ、演じることを楽しめる役柄だなと思います。また、私が今までやらせていただいた役はタフに生きている女性が多かったので、そういう経験は生きるかなと思います。過酷な状況に置かれて生きてきて、周囲に弱さを見せずに踏ん張る女性というのはとてもかっこいいですし、今回のサムもとてもかっこいい女性だと思います」

−伝道師や信仰というのは馴染みのない日本人も多いかと思います。どうやって日本の感覚に落とし込んでいこうと思われますか。
「そこは私も最初心配していたところでした。ただ稽古をしていて感じるのは、何よりも奇跡について描いた、自分が信じていなかったことが目の前に起きるという話だということです。演出のジェニファーさんも、奇跡が起きたら人はどう変わるのかを強く押し出していきたいとお話しされていました。もちろん信仰に関するお話ではありますが、そこに馴染みがなくとも、共感していただける作品だと思います」

−様々なことが起こる世の中で、何か良いことが起こってほしい、と願う気持ちは誰もが持っているものですよね。
「そうですね。私は、奇跡というのはそう簡単には起こらないものだと思っています。私自身に起こった奇跡は、デビューをさせてもらったこと。日常で奇跡を感じることはあまりありません。でも奇跡は簡単に起きないからこそ、絶対に叶えたいと信じる心や、それを手繰り寄せる準備が必要だなと感じます。そこは私たちが生きている中でも身近に感じられる感覚かなと思います」

エネルギッシュな演出家&竹内涼真がカンパニーを牽引

−演出のジェニファーさんは本作が日本で初演出となります。どんな印象を抱かれていますか。
「これまで様々な海外の演出家さんとご一緒してきましたが、ここまでパワフルな方は会ったことがないです。“良い作品にしよう”という思いが強く、稽古時間の1分も無駄にしたくないというエネルギーがすごいんです。振付家のアレックス(アレクザンドラ・サルミエント)さんと共に、休む間もなく動き続けていらっしゃって、今日はここまでやると決めたら何がなんでもやり切る。稽古がすごいスピードで進んでいくので、置いていかれないように一生懸命付いて行っています。驚いたのは、私たち日本人がアメリカ人の役をやるにあたって、違和感なくシームレスに演じられるのかを気にしてくださったこと。そういう着眼点を持って話し合う時間を設けてくださる演出家さんに会ったのが初めてだったので、すごく素敵だなと感じました」

−ジョナス役の竹内涼真さんの印象はいかがですか。
「涼真さんもすごくエネルギッシュな方ですね。伝道集会のシーンを見ていると、こういうエネルギーで語られたらそりゃ人は信じるよなぁと感じます。ミュージカル出演は2作目とのことですが、歌もお上手ですし、やっぱり何でもできる方なんだなと思いました。この作品はジェニファーさん、アレックスさん、涼真さんが引っ張ってくれている感じがすごくします。ジョナスは台詞量も多いですし、歌って踊るので、涼真さんのファンの方にもとても喜んでいただける作品になると思います」

−日本初演を作り上げる難しさもあると思います。
「レプリカ版ではなく一から作って行っているので、本当に新作を作っている感覚です。ジェニファーさんも“毎日変更します”と宣言されていましたし、だからこそ稽古がスピーディに進んでいるんだと思います。元々歌う予定がなかった楽曲を歌うことになったりもしました。良い作品にするため、幕が開くまでは変更が続いていくと思います」

−舞台セットはどんなイメージでしょうか。
「中西部のアメリカのイメージで作られたセットで、大掛かりなセットが建てられるというよりも、盆を使ってセットが出てくる構成になっています。盆の動かし方、スピードが変わるだけで絵が変わるので、そういった調整も続いています。ただジェニファーさん、アレックスさんが見せたい絵はいくつか決まっていて、そこに合わせて調整したり試したりしているので、安心して付いていっています」

−最後にメッセージをお願いします。
「ブロードウェイで上演された作品ではありますが、新作という感覚で作品作りが行われています。素敵なメッセージ性もありますし、ミュージカルらしいエンターテイメント性もある作品です。そこに見合ったエネルギーあふれるキャストの皆さんもいて、総合的に見応えのある作品になると思います。様々な情報が簡単に得られる今、原作映画はあるもののミュージカルについての情報はあまりないこの作品が、きっと新しい素敵な出会いになると思います。ぜひ楽しみに劇場にいらしていただけたら嬉しいです」

撮影:山本春花

ミュージカル『奇跡を呼ぶ男』は2026年4月4日(土)から4月24日(金)まで東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)、5月1日(金)から5月3日(日)まで大阪・フェニーチェ堺 大ホール、5月8日(金)から5月10日(日)まで福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホール、5月15日(金)から5月17日(日)まで愛知・名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)にて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

製作発表会見でも音楽とカンパニーのエネルギッシュさが伝わってきたミュージカル『奇跡を呼ぶ男』。ペンライトを振って、積極的に“騙され”、奇跡を目撃したいと思います!