新国立劇場主催公演史上、初の一人芝居となる舞台『ガールズ&ボーイズ』。ミュージカル『マチルダ』の脚本でも知られるデニス・ケリーによる傑作戯曲で、演出に稲葉賀恵さん、主人公の女性役に真飛 聖さんが初タッグで挑みます。お二人に本作の魅力を伺いました。
真飛 聖の“惹きつける存在感”が一人芝居のカギに

−まず本作への参加が決まった時、戯曲を読んだ時の心境をお聞かせください。
稲葉「本作は元々新国立劇場で2020年に上演が予定されており、当時はいち観客として楽しみにしていたので、コロナ禍で中止になって残念だなと思っていました。今回新国立劇場 演劇芸術監督の小川絵梨子さんとお話ししている中で、この作品はすごく絵梨子さんにとっても思い入れがある作品だということを伺いましたし、戯曲を読んで、絵梨子さんが芸術監督の任期中にやりたい理由が私なりに理解できました。1人の人間が、どんなことがあっても絶対に前を向くことができるという、希望というのか、人間の不可思議さ、何かを失っても生きていく人間の力の極地が描かれている作品ですし、それは絵梨子さんがこの数年やられてきたクリエーションの根幹のようなテーマだと感じました。だから“絵梨子さんがやらずに私で良いんでしょうか”という想いと、託してくださる嬉しさを感じました」
真飛「普段、台本を読む時はまず客観的に読んで、そこから自分の頂いた役を理解していくのですが、序盤から自分がもう戯曲の世界に存在しているような感覚になって、途中からは声を出して喋っていました。そして読み終わった頃には、既にやることを決めていました。面白いからやろう、楽しそう、とかそういうことを考える前に、直感的に自分の中に入ってきて、すでにその時間を生きていた。烏滸がましいですが、これは私がやるものだ、というような。そういう戯曲に出会ったのは初めてでした。
宝塚歌劇団に入ると決めた時も、出会った瞬間に“ここに入る”と自分の口が言っていたのですが、それと似たような感覚でした。出会うべくして出会ったというか、このタイミングで、今までの人生を生きてきたからこそ出会えた作品のように思います」
−取材時は立ち稽古に入ったばかりとのことですが、稽古の感触はいかがですか。
真飛「稲葉さんからはカウンセリングルームのような場所にしたいというのを伺っていて、お客様が一人芝居を観に来たと身構えるより、みんなが色々なことを抱えながらも集まって、まずは私が喋るので聞いてください、といったフラットな場になることをイメージしています。稽古場でもスタッフの皆さんのお顔を見ながら台詞を言っているのですが、皆さんがキラキラして見てくれるんですよ。主人公の「わたし」は、取り留めのないことも喋るけれど、全部肯定してくれるような感じで。100%味方という顔で見てくださるので、こっちも嬉しくなって喋るんです。本番も稽古場と同じように“お客様”というよりは、“みんな”という感じの距離感でやれれば、怖がらずにできるのかなと想像しています」
稲葉「舞台って俳優を観にくるものだと思うんです。だからこそ好きなんですけれど、その中でも、舞台のどこにいてもどうしても気になってしまう人というのがいると思っています。そうした中で、真飛さんはその存在感、ある種の「したたかさ」みたいなものが圧倒的だなと感じています。立ち稽古を見て、もはや一人芝居のために生まれてきたんじゃないかなと思いました。というのも、一人芝居で見続けてもらうには飽きさせないようにしなければいけない。もちろん演出でもそうしなければいけないですが、飽きさせないようにしていることがお客様に見えてしまうのは少し恥ずかしい。だから何よりも俳優がそこに立っていなければいけないのですが、真飛さんが立つ姿を見て、これは大丈夫だなという思いになりました。“ここにいる”という強度が一人芝居には必要なんだなと、私も立ち稽古をしてみて気がつきました」
−真飛さんの存在感、惹きつける力というのは、近年の映像作品へのご出演を通しても感じますね。
真飛「ちょこまか動いているから(笑)。でもそう言っていただけるのは嬉しいです。宝塚時代、下級生の頃って名前がない役から始まるんです。その時は色々なところにちょこちょこ顔を出して、自由に動いていました。それを面白がってくださる方もいたのですが、ある時、大先輩から“トップになってからつまらなくなった”と言われて、凄くショックを受けました。恐らくトップという立場を担わせていただいた重責と、はみ出しがちだった自分を律しなきゃいけないという気持ちでがんじがらめになっていたのだと思います。その先輩からは“退団したらもっと自由に行け”とアドバイスいただいたのですが、退団してドラマに出るようになっても、つい歩幅を合わせてしまいがちでした。でも最近は、ようやく本来のちょっといい加減な自分が出始めたというか、せっかく選んでいただいたのにもっと気にしないでやらないと失礼だという気持ちになってきて、そうしたら段々と面白くなってきました。それがここ数年の感覚で、ようやくこのまま続けても良いのかもと思えるようになってきました」
一人なのに、会話が生まれる。想像力で魅せる豊かさ

−戯曲は観客に向かって語りかける「チャット」と、別の登場人物との会話が描かれる「シーン」が入り混じっています。
稲葉「チャットとシーンは、不可抗力で誰かが変えていくのではなく、彼女自身が舞台上を創作の現場として見せている空間として捉えています。だからシーンでも見られていることを意識している形で作っています」
真飛「一人なので相手の台詞は聞こえないですが、私が会話していると、観ているみんなも“こういうことを相手に言われたんだな”と想像すると思います。そのシーンが続いていくと、段々とみんなも慣れていって、想像が速くなっていくと思うんです。だから1人だけれど、みんなでやっているという感覚に陥っていくと思います。誰かが存在して本当に喋っているよりも、もしかしたらリアルな何かが生まれるのかもしれません」
稲葉「凄く素敵なことを言ってくださいました。想像した方が豊かなことってあると思います。本当にその場に人がいて、何かを喋ったら、もうそれでしかない。でも想像力を羽ばたかせることができるのが演劇の一つの魅力だと思います。観客にとっても、あまり分かりやすいものばかりを見せられ続けても面白くなかろうに、という思いもあるんですよ。だから私の演出は、観客に委ねるというか、ある種、突き放してしまうようなところがあります。観客にも一緒に考えて欲しいのだと思います」
−本作の主人公はあけっぴろげな語り口で、真飛さんが言うイメージのない言葉もあります。
稲葉「そこが一番の醍醐味ですよね。ギャップが見せられるので。それに“そういう恥ずかしい面もあるよね”ということがマイナスにならない戯曲だと思います。私自身も以前はプライドが高くて出来ないことを出来ないと言えないタイプだったのですが、どんなに頑張って出来ますと言っても結局出来ないものは出来ないんですよね。年齢や経験と共に諦めがつくようになりましたし、人に頼った方が面白いことだってあるんだなと気づけるようになりました。そういった人間の多面性がポジティブに反映されているので、良い意味でのギャップを見せられる作品だと思います」
真飛「日本人は隠しがちなセクシュアルな内容も含まれていますが、今は時代も変わってきましたし、“私はこうだよ”ということをオープンに見せることでお互いの心の距離がグッと縮まることも多いと思います。私は一見怖そうに見えるかもしれませんが、仲良くなると聞きたがりで、みんなの話を聞くのが好きです。そういう部分ではこの作品の主人公と共通しているところも多いと思います。言いにくいなと思う台詞はあまりないですよ」
観客と共に創るアトリエ空間に

−本作では1人の女性の視点から、“男性の暴力性”について描いた作品でもあります。
稲葉「デニス・ケリーは“男性の暴力性”について描きたかったと初演当時のインタビュー記事などには書いてありますが、決して男性・女性の二元論ではなく、関係性における力について、コントロールについての話を書きたかったのであって、そこは履き違えないようにしなきゃという思いがあります。女性の演出家がこの作品をやることでカテゴライズされてしまう面もあると思うので。
男性女性のどちらが悪いということではなく、1人の人間が理解できないことに直面して、なんでそんなことをするんだろう、自分はなぜこういう人生を歩み、その出来事は自分にとって何の意味があったのだろうと考えていくことが大事だと思います」
真飛「最初に台本を読んだ時は、確かに男性のお客様は肩身の狭い想いをするかもしれないと思ったんです。劇場を出る時に誰とも目を合わせられなくなるんじゃないか、とか。でもお稽古が始まってみて、そういうことではないなと思いました。批判したいわけでも否定するわけでもなく、稲葉さんがおっしゃるように、関係性における支配を描いているのだと思います。そして生きるエネルギーや、前向きに向いている彼女の姿を伝えたい作品なので、きっと性別は関係なく、人としてそれを受け取っていただけると思います」
−舞台美術への構想についてもお聞かせください。
稲葉「最初の美術打ち合わせから“脳内のリハーサルルーム”というキーワードを言い続けています。彼女自身の部屋を具体的に見せて語ることもできますが、彼女が自分を再構築する場所と考えると、部屋はその場所ではないように思いました。自分の中での様々な記憶を手繰り寄せて、掛け合わせて、ピタゴラスイッチのように実験していく場所−そこに観客を招待しているようなイメージです。ある場所が固定されているよりも、一緒に作っているアトリエのように見えると良いなと思っています」
真飛「稽古の段階では、本番ではないかもしれない小道具を使ってみたり、子ども役も大人に演じていただいたりして、リアルに感じているところです。稽古場で色々と体験して体に入れていくことで、本番ではそれらがなくても皆さんが想像できるように、見えてくるように演じていきたいと思います。本番では舞台上に自分しかいないと思うと怖い部分もありますけれど、それを面白がっている自分もいます。お客様を巻き込んで作品を創っていきたいですね。そしてWキャストの増岡裕子さんとは全然違うものが出来上がると思うので、ぜひどちらも観て楽しんでいただきたいです」

舞台『ガールズ&ボーイズ』は2026年4月9日(木)から4月26日(日)まで新国立劇場 小劇場にて上演されます。出演は、真飛 聖さんと増岡裕子さんのWキャスト。公式HPはこちら
お二人は撮影時もインタビュー時もとても明るくほがらかな雰囲気をお持ちで、戯曲には鋭さもありますが、きっと舞台上でも心地よい空間づくりが行われるんだろうなと感じました。真飛さんは映像作品でもいつも「何か気になる存在」でいらっしゃるので、一人芝居での佇まいがとても楽しみです!




















