2020年に東宝が脚本・音楽の著作権を借りて上演した『シャボン玉とんだ宇宙 (ソラ)までとんだ』。主演は井上芳雄さんと咲妃みゆさん、そしてミュージカル界を支える俳優たちが脇を固める超豪華なキャスティングで、大盛況のうちに幕を下ろしました。俳優陣のコメントには、「デビュー作」「かなり思い入れの深い大切な作品」(※)といった言葉が並んでおり、その影響力に驚いた方もいるのではないでしょうか。
音楽座ミュージカルの旗揚げ公演として1988年に初演されて以来、心揺さぶる感動作として愛されてきた本作は、日本のオリジナルミュージカルの原点とも言える作品です。
いつの日か 夢はかなう 輝くこころあれば
舞台は1988年。作曲家を目指す三浦悠介と不遇な生い立ちでスリを生業とする折口佳代は偶然に出会い、惹かれあいます。作曲家デビューが決まり、夢がかなった喜びを噛みしめる悠介の横で、将来が描けない佳代。「いつの日か夢はかなう」。悠介の言葉に、佳代は忘れかけていた夢を思い出すのでした。
佳代の夢は、あたたかい家庭を築くこと。幸せに包まれるふたりはやがて、彼女に隠された秘密によって予想もしない運命の渦に巻き込まれてしまいます。
背負った運命によって引き裂かれても、愛を貫くふたり。どんな試練に揉まれても、大好きな人に会いたい、それだけで生きる理由になるのだと感じさせられるラブストーリーです。
昭和という時代を振り返って考える、人とのつながり
物語の始まりが昭和最後の年ということもあり、ビジュアルも人との距離感も、当時を思い起こさせる本作。バブリーなボディコンスタイルの服装や絶妙に昭和っぽいギャグなど、記憶にある世代は懐かしさを感じるエッセンスが散りばめられています。
現代から見たら違和感ありまくりの世界観。けれど、そこで展開する人間模様には令和の時代と重ねて観ることができるかもしれません。
スマートフォンや通信技術の向上でいつでも誰とでも会えてしまう今。人は誰かと繋がっていたい生き物だからこそ、ここまで技術が進化したのかもしれません。コロナ禍を通してリアルに会うことの重みを感じた人もいるように、どんなにコミュニケーションの手段が変わっても、その本質は変わらないことを『シャボン玉とんだ宇宙 (ソラ)までとんだ』は伝えてくれます。
筆者は学生時代、本作を音楽座ミュージカルの上演で知りました。平和だけど決して平等ではない世界で、人と出会い、社会を知っていく。生き抜くことは大変だけど、小さくても夢や希望が生きるエネルギーになる。言葉にすると陳腐になってしまいそうな聞き飽きたフレーズが、観劇後に自然と心に沸き起こってきたことを思い出します。