『魔法にかけられて』は2008年公開のディズニー映画。「むかしむかし、あるところに」から始まる典型的なおとぎ話…かと思いきや、キャラクターたちが現代のニューヨークに迷い込み、実社会の人々を巻き込んで物語が展開します。アニメーションと実写が見事に融合した本作を見終わると、イマジネーションの力を信じてみたくなる、そんな不思議な魔法にかけられる作品です。

ディズニープリンセス史上、最大の試練?!真実の愛のキスは存在するのか

近年のディズニーはクラシック・アニメーション作品の実写化が増え、お馴染みの物語にリアリティある人物描写を補強した、大人も楽しめるストーリーで夢と冒険を届けてくれますよね。その潮流の始まりとも言える『魔法にかけられて』は、ディズニーが長年描いてきた「真実の愛のキスで結ばれる恋愛観」に一石を投じました。現代のニューヨークという殺伐とした世界において、真実の愛のキスとは幻でしかないのかー

運命の人を信じて疑わない無垢な人物と、堅実に計画的に恋人との関係を育もうとする人物。価値観は違えど、人を好きになるということと向き合う彼らが導き出す、新時代の「ディズニー・マジック」に注目です。

本作の主人公は、魔法の王国・アンダレーシアの森の奥で、動物たちと暮らす美しい娘・ジゼル。冒頭のアニメーションパートでは、森の中で運命的に出会ったエドワード王子と互いにひと目で恋に落ち、「デュエットを歌って」結婚を決め、ウェディングドレス姿でお城へ向かいます。しかし、結婚に反対する王子の継母の罠により、「魔法の井戸」へと突き落とされてしまいます。

物語の世界を飛び出し、実写の人間の姿になったジゼルが現れたのは、ニューヨークのど真ん中、タイムズスクエア。あるはずのないお城を目指して路頭に迷う彼女に手を差し伸べたのは、小さな女の子を連れた、離婚専門の弁護士・ロバートでした。「付き合って5年目の彼女と再婚を考えている」と言うロバートには、ジゼルが語るロマンチックな恋愛観は通用しません。動物と話し、感情のままに歌い出すジゼルに手を焼くロバートでしたが、次第に打ち解ける二人。そこへ、次々とアンダレーシアの登場人物たちが現れ、ニューヨークの常識を覆す出来事へと発展していきます。

ディズニー映画のパロディとオマージュ探しで楽しさ倍増!

ディズニーがセルフパロディした作品、としても有名な本作の目玉は、全編に散りばめられた、歴代ディズニー映画を彷彿とさせるエッセンスの数々。お馴染みのアニメーション映画で見たことのあるシーンやカット、人物がこれでもかと登場します。

たとえば、初期のプリンセス映画の定番である、華美な装丁の物語本のページをめくって始まるオープニング。ナレーターは『メリー・ポピンズ』のジュリー・アンドリュース(吹き替え版は松坂慶子さん)が務めています。実写パートでは、ジゼルは動物たちと協力して掃除をし(『シンデレラ』)、エドワード王子はテレビを「魔法の鏡」と勘違いし(『白雪姫』)、アリエルやポカホンタスの声を務めた声優がカメオ出演しています。ディズニーファンの心をくすぐる仕掛けを探してみるのも、この作品ならではの楽しみ方のひとつかもしれません。

動物が集まり、ミュージシャンは音を奏でる プリンセスの歌のちから

おとぎの国の住人・ジゼルが感情のままに歌い出せば、動物が集まり、ストリートミュージシャンはメロディを奏で、ミュージカルシーンが始まってしまいます。アニメーションの世界では自然な流れでも、現代のニューヨークではありえないこと。なのに、気がつけばやっぱりジゼルの周りには音楽が溢れ、プリンセスが持つ魔法のちからを現実世界でも存分に発揮します。

「真実の愛のキス」や「想いを伝えて」など、ディズニープリンセスらしさ全開の楽曲は、ディズニー映画音楽の巨匠、アラン・メンケンとスティーヴン・シュワルツが手掛けたもの。たおやかでいてコミカルなメロディは、一度聴いたら耳に残ること間違いありません。

BGMとして流れるインストゥルメンタル曲にも過去作品へのオマージュは忘れません。「美女と野獣」をはじめ、有名なディズニー音楽のフレーズが差し込まれるなど、サウンドトラックを聴いているだけでも他のディズニー作品の気配を感じられます。そのシーンでは、オマージュされた過去作品のカメラアングルを意識しているなど、何かしらの関連が暗示されています。目だけではなく耳でもヒントを探して、「隠れディズニー」を見つけてみて下さいね。

Sasha

今でこそ、実写版のディズニープリンセスは当然の流れですが、『魔法にかけられて』公開当時は目新しさに溢れ、ディズニー映画が新しいフェーズに入ったのだと、生意気にも思っていました。随所に映るニューヨークの景色にも癒される本作。海外旅行に行けない今、少しでも異世界感を味わいたいあなたにぴったりの作品です。