ミュージカルと聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?『レ・ミゼラブル』『オペラ座の怪人』など、何十年も上演され続けてきた作品のイメージが強いのではないでしょうか。私も少し前までは、ミュージカルといえば壮大なオーケストラ音楽と共に語られるヨーロッパが舞台の物語であり、それが「王道」なのだと思っていました。そう、推しの作品に出会うまでは。今回は劇作家リン=マニュエル・ミランダが描く作品世界の魅力をご紹介します!

誰が誰を演じてもいい。常識を覆し社会現象となった『ハミルトン』

© 2021 Disney and its related entities

幼い時からヒップホップに囲まれて育ち、フリースタイルラップグループでも活動していたリン=マニュエル・ミランダ。彼のミュージカル界での地位を不動のものにしたのは、社会現象となったミュージカル『ハミルトン』でした。

登場人物は全員白人の歴史物でありながら、あえて多様な人種で固めたキャストに、ヒップホップのビートとラップを中心に据えた新鮮なサウンド。とても「王道」とは言えない、これまでのヒットミュージカルの方程式から逸脱した本作は、瞬く間に評判を呼びました。

トニー賞での史上最多ノミネート記録に加え、その社会的意義を讃えられピュリッツァー賞まで受賞した『ハミルトン』は、現代ミュージカル界の文化的・人種的な偏見に真正面から立ち向かった作品としてその名を歴史に刻みました。

彼の作品に通ずる一つの問い

『イン・ザ・ハイツ』での作詞・作曲・舞台版主演、『モアナと伝説の海』の共同楽曲制作などに加え、直近ではネットフリックス配信のアニメ『ビーボ』の作詞・作曲・主演声優を手がけるなど、多彩な才能を持つミランダ氏。彼の作品には「レガシー」というテーマが度々登場します。

限りある時間の中で、人は何を成し遂げられるのか。生きた証として何かを遺すことができるのか。軽妙なラップとキャッチーなメロディの根底には、常にそんな問いかけが潜んでいます。

また、問いかけるだけで終わらないのもミランダ氏の特徴。例えば『ハミルトン』の上演に合わせ、教育プログラム “EduHam”を立ち上げました。低所得家庭からの生徒を多く抱えるアメリカの学校を対象に、国の歴史を学べる教材や、ミュージカルの創作プロセスを紹介するビデオなどを提供し、最後に『ハミルトン』の舞台を鑑賞する体験とキャストとのQ&Aセッションも付いた無償プログラムです。

作中で「レガシーを遺すためにどう生きるか」と問いかけながら、その問いに応じるように次世代を育てる行動を起こしていくミランダ氏の生き様は何よりも格好いいです。

親しみやすい人柄も魅力

ミランダ氏のもう一つの魅力は、大スターでありながらも少年のようにお茶目で親しみやすい人柄。SNSでは日々奥様の惚気を披露し、トーク番組では小さな息子さんの近況を嬉しそうに報告するなど、家庭的な一面もあります。2016年のトニー賞では、受賞スピーチの代わりに奥様への愛を綴った詩を朗読し、話題となりました。

Akane

今やブロードウェイの顔となったリン=マニュエル・ミランダ。ミュージカル界の常識を軽々と覆していく彼からは片時も目が離せません。今回ご紹介した『ハミルトン』はディズニープラスで配信中です。