永遠の少年・ピーターパンとウェンディたちがネバーランドを旅する物語『ピーターパン』。空を飛ぶシーンが印象的ですが、ウェンディはネバーランドに住むロストボーイズの “お母さん”役を務めるためにネバーランドに呼ばれたのをご存知でしたか?現代では違和感のあるこの設定を変え、ウェンディ視点に翻案されたのが今回の舞台『ウェンディ&ピーターパン』です。(2021年8月・Bunkamuraオーチャードホール)※ストーリーや演出に触れております

女性像を新たに捉え直した現代版ピーターパン

新進気鋭の劇作家エラ・ヒクソンさんが翻案を担当した『ウェンディ&ピーターパン』は、2013年にロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによってイギリスで初演を迎えた作品。原作の『ピーターパン』に登場する女性たちに対する“違和感”を色濃く強調しています。

例えばウェンディはネバーランドで少年たちに“お母さんになって”と言われることに強い戸惑いを示します。ウェンディの母ミセス・ダーリングも、夫に付き添ってパーティに顔を出すことや“義務”で家庭に縛られることに疑問を持ちます。またウェンディ・妖精のティンク・ネバーランドに住むタイガー・リリーの女性陣がフック船長に挑んでいく後半は見所の1つ。自分の意思を持ち、行動する強い女性たちが印象的な作品へと生まれ変わったのです。

フィジカルシアターと幻想的な衣装・セットに注目

豪華すぎるキャスト陣も話題の本作。ウェンディ役の黒木華さんは、想像力豊かでありながら強さも持つウェンディにピッタリ。ピーター役の中島裕翔さんは、身のこなしの軽さ、遊び好きで無邪気な姿を目一杯に表現しながらどこか寂しさを漂わせます。妖精ティンク役の富田望生さんは、ティンカーベルのイメージを一新!強さとユーモア、そして切ない恋心を秘める妖精に魅了されました。その他にもタイガー・リリー役に山崎紘菜さん、ミセス・ダーリング役に石田ひかりさん、ミスター・ダーリングとフックの2役に堤真一さんと演技力の高い実力派のメンバーに圧倒されます。(堤真一さんのフックはカッコ良すぎます!)

さらに『ウェンディ&ピーターパン』の面白いところは、演出家ジョナサン・マンビィさんによりダンスや身体表現を使った“フィジカルシアター”の手法を用いていること。ピーターパンの鍵となる“影”を複数人のチームとして表現し、彼らがフライングの手助けをしたり戦いに応戦したりします。まるで影が複数の顔を持っているかのよう。身体を持って物語の世界観を魅せてくれる演劇らしい手法は、想像力を掻き立てられます。

セットや衣装もこれまでのピーターパンのイメージとは異なり、幻想的で現代的なデザインに。セットを一目見ただけで、一気にウェンディたちの物語に惹き込まれます。ネバーランドで出会うタイガー・リリーはアジアンテイストのカッコいい衣装に生まれ変わり、フックが恐れるワニは“時間”の番人のような姿に。ファッショナブルなティンクやスタイリッシュなピーターなど、おしゃれすぎる登場人物たちに心躍りました。

Yurika

『ウェンディ&ピーターパン』は9月5日(日)までBunkamuraオーチャードホールで上演予定です。幻想的でファンタジックな世界観と役者たちの味わい深い表現力、そして女性たちの強く美しい生き様に魅了される一作です。チケットぴあでのチケット購入はこちら