マヌエル・プイグ作の1976年出版ベストセラー小説を原作として、1990年代にミュージカル化、トニー賞ミュージカル作品賞などを多数受賞したミュージカル『蜘蛛女のキス』。映画化もされ、不朽の名作と呼び声高い作品が主演・石丸幹二さんにて上演!今をときめく劇団チョコレートケーキの日澤雄介さんが演出を務めた本作の観劇リポートをお届けします。(2021年12月・東京芸術劇場)※ネタバレにご注意ください

小説・映画・ミュージカルで愛されてきた不朽の名作

アルゼンチンの作家マヌエル・プイグが手がけた小説『蜘蛛女のキス』は、1981年に本人の手により戯曲化。1985年にエクトール・バベンコ監督によって映画化され、主演のルイス・モリーナ役を演じたウィリアム・ハートはアカデミー主演男優賞を獲得しました。そして1990年代にミュージカル化、以降世界中で上演されてきた人気作品です。音楽と歌詞は、『キャバレー』『シカゴ』などのヒット作を生み出したジョン・カンダーとフレッド・エブのコンビ。今回の日本上演では、読売演劇大賞優秀演出家賞(2014、2017年)を受賞するなど今注目度の高い演出家・日澤雄介さん(劇団チョコレートケーキ)が初めてミュージカル作品を手掛けました。

ラテンアメリカの刑務所の獄房、映画を愛する同性愛者のモリーナと同室になったのは、社会主義運動の政治犯バレンティン。暴力も厭わない壮絶な環境の中で、モリーナが心の支えにしていたのは大好きな映画と、大女優オーロラの存在でした。人生も価値観も異なるモリーナと距離を置いていたバレンティンでしたが、次第に心を通わせるように。モリーナの語る映画の世界にも惹き込まれていきます。

しかし、モリーナは刑務所の所長から、バレンティンの仲間に関する情報を引き出すよう取引を持ちかけられます。所長の圧力に耐えながら、バレンティンを守ろうとするモリーナ。諦めない所長はバレンティンの仲間との接触を期待し、モリーナを模範囚として仮釈放することにします。

荒々しい牢獄と対極で描かれる、華やかな映画の世界

まず本作を観劇して衝撃を受けたのは、目を覆いたくなるような悲惨な牢獄の生活と、モリーナが心に思い浮かべる映画の世界との対比構造。モリーナが愛する映画スターのオーロラは、まるで宝塚歌劇団のような華々しさ。まさしく宝塚・星組のトップスターを務めた安蘭けいさんが、華麗に観客を惹きつけます。一方、牢獄の現実世界は拷問を受けるなど、映画ではとても見られなかっただろうと思われるシーンが続きます。この対比構造は、舞台だからこそ実現したものでしょう。

酷い現実を生き抜くために、心の豊かさを保とうとするモリーナの生き方は、奇しくもコロナ禍という未曾有の環境の中で演劇・ミュージカルを通して、希望を見出そうとする自分自身に重なります。さらにモリーナは、同性愛者として周囲の偏見にも晒されていた。過酷な現実の中で、映画に浸れる時間は至福の時だったに違いありません。それが例え、現実逃避であったとしても。

一風変わり者に見えながら、愛と優しさを持ち合わせ、強く生き抜くモリーナを演じたのは石丸幹二さん。最初はモリーナが語る映画オタクっぷりについていけなかったのですが、徐々に作品を観劇していく中で、モリーナに惹かれていっている自分に気づきます。石丸さんの圧倒的な表現力、歌唱力がモリーナの人間性の豊かさを形成していくのです。

モリーナの運命を大きく変えることとなるバレンティンを演じたのは、村井良大さん(相葉裕樹さんとWキャスト)。革命家として決して仲間を裏切らない芯の強さと、モリーナと向き合っていく人間としての誠実さが伝わってきました。

Yurika

こんなミュージカル観たことない!と思わず口にしてしまったほど衝撃的な作品『蜘蛛女のキス』。演出はもちろん、上演される時代によっても変化していく作品なのでしょう。上演は12月12日まで、東京芸術劇場プレイハウスにて。