「東京には魅力的で個性的な劇場がたくさんあり、毎日好きな演劇が観られる」と公言する芝居好きがたくさんいます。規模の大小にかかわらず、劇場を運営する人がいて、その舞台に立つ人がいて、演劇を楽しむ人たちがいる――劇場の今を伝える、劇場支配人が語る【TOKYO MY THEATER】。第2回は、来年2022年に開場95周年を迎える、比類なき歴史を誇る三越劇場。「三越劇場を愛して止まない」という熱量が伝わってくる副支配人の齊木由多加さんにご登場いただきます。

開場は1927年(昭和2年)。一言では言い表せない劇場の魅力

日本橋三越本店本館6階に、世界にも類を見ない“百貨店の中の劇場”があります。1923年(大正12年)に起こった関東大震災で、三越本店も大きな被害を受けましたが、再建にあたって、「建物の再建だけでなく、文化的な復興を」という想いから生まれた劇場です。

関東大震災から4年後の1927年(昭和2年)に「三越ホール」という名前で誕生した劇場は、邦楽や舞踊の会、講演会などをはじめ、戦後1946年(昭和21年)に再開されてからは歌舞伎、文楽、新派、新劇、落語などの伝統芸能まで広く上演されています。

キラキラと明るい空間から、赤い扉を開けて劇場内に入ると、なんとも荘厳な雰囲気がして、劇場は演目を見に行く場所ですが、「劇場も見に行く」というのは三越劇場ならでは。

写真:山本春花

――齊木さんにずばりお訊きしますが、「三越劇場の魅力」とは。

齊木由多加(以下、齊木) 舞台に立つ演じ手の感覚ですと、客席との距離感がちょうど良く、お客様からすると、静寂なシーンで出演者の吐息まで聞こえるという、「客席との一体感」だと思います。小さすぎず、大きすぎずの空間で、上演中、最後尾から観ていると、「劇場全体が演目の世界観に迷い込んでいる」ような不思議な感覚に陥ることもあります。

――昭和2年に完成したときはモダンな空間だったでしょうね。

齊木 当時の日本人の憧れの粋を集めた空間だったそうですね。豪華な空間なのに、古典芸能から芝居、ミュージカル、落語、歌舞伎、音楽、ファッションショーまで何でも受け入れる度量のある劇場だと思います。百貨店内の劇場なので制約も多いのですが、「それでもこの空間で演りたい」という声を多くいただいています。

座席の幅を拡張し、音響と照明設備は今年総入れ替えを完了

――場内の見事な装飾は後ほどご案内していただきますが、劇場内の保全や改修なども大変でしょうね。

齊木 場内装飾は開場以来、手を加えていません。また、2016年に日本橋三越本店本館が国の重要文化財に指定されたので、文化的な補修はしていますが、「この意匠を守っていく」のが基本です。ただ、当時の環境を活かしつつ、お客様に見やすい工夫は続けています。

写真:山本春花

――客席は張り地も素晴らしいです。

齊木 客席は時代に合わせて改修しています。開場当時の日本人の身長の平均は150センチ台だったそうで、今より客席の幅は狭かったのですが、現在は幅を広げて、1階が402席、2階が112席の計514席です。座席の張り地は3年前に貼り替えています。昔は700席近くあった時代もあり、戦後すぐの歌舞伎公演では補助席を入れて800席近くになったこともあるそうです。

――音響や照明設備はいかがですか。

齊木 自信を持って演目をお届けできる空間にするために、照明はムービングライトを導入し、音響もメインスピーカーと補助スピーカーを入れ替えて、新しい演目に対応出来る機材を備えました。以前は、構造上、2階席に音が届きにくかったのですが、照明バトンの一画にスピーカー設置することで、2階席の後ろにも臨場感のあるクリアな音が届くようになりました。何年もかけて議論してきた結果が出てうれしいです。

自分が観客だったら、「2階席の最前列12番」に座りたい

――この連載では、「お気に入りの座席」に座ってもらっていますが、齊木さんのお気に入りは?

齊木 自分はあまり座ったことはありませんが、選ぶなら2階席の真ん中最前列ですね。三越劇場はロイヤルボックスがないので、皇室の方がご臨席いただくときには最前列真ん中にお座りいただきます。最前列に座ると、1階席の反応も、2階席の声も聞こえて素晴らしい体験ができます。

写真:山本春花

――齊木さんのお話を聞いていると、「劇場は人生を豊かにする場所」だなと思います。

齊木 三越劇場は戦争を挟んで、時期によって変化してきた歴史があります。伝統はしっかり守りつつも、新しい時代の演目にも果敢に挑戦してきていますが、それは劇場として自然なことだと思います。

後編に続く


三越劇場見学会~建築編~
華麗な装飾に彩られた三越劇場の場内装飾の世界――「建築編」では、各界より専門家をゲストに迎えて、深堀解説を聞くことができる見学会です。

2022年1月22日(土)14:00~ 横河建築設計事務所編
2022年1月29日(土)14:00~ ステンドグラス編
2022年2月11日(金・祝)14:00~ 横河建築設計事務所編
2022年2月23日(水・祝)14:00~ ステンドグラス編

会場:三越劇場(日本橋三越本店本館6階)
料金:1100円(税込)
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Makoto Kajii

後編でご紹介しますが、齊木さんにガイドされて、編集長とカメラマンと一緒に舞台の上に立ちました。眼前に誰もいない客席が広がって、なんとも言えない感覚を味わいましたが、その夜、夢を見ました。ポール・マッカートニーが率いるウイングスのアメリカツアーにバックコーラスとして参加していて、「JETS」という曲のコーラスを気持ちよく歌っているんです(笑)。野外ステージから見るオーディエンスは果てしなく、その最後尾まで届くようなコーラスは、いつしか大合唱になっていました。夢ってほんと不思議です。