東京の演劇シーンを支える劇場を劇場支配人自らが紹介する【TOKYO MY THEATER】――第1回の「本多劇場グループ 新宿シアタートップス」に続く2回目は、日本橋三越本店6階にある「三越劇場」です。前編でもご紹介した「三越劇場見学会」のガイド役をよく務めるのが、副支配人の齊木由多加さん。“劇場の語り部”的存在である齊木さんが、劇場を案内してくれました。

三越劇場に関わって7年。齊木さんの人生の幕も上がりました

――齊木さんはいつから三越劇場に関わっているんでしょうか。

齊木由多加(以下、齊木) 私は2015年に中途入社して7年目になります。「演劇が好きで、建築が好きで、百貨店も好き」というすべてが揃っているのは、世界中でこの三越劇場しかありませんので、自分の望む場所で仕事ができています。

写真:山本春花

――すごいですね。転職がまさに天職。望めば思いが叶うんですね。

齊木 三越が好きで中途採用に応募し、面談の際に希望職を聞かれたので、「劇場です」と答えましたが、その年に劇場採用はないので違う部門に行くと思っていたんです。しかし内示で「劇場はいかがですか?」と言っていただき、大変ラッキーでした。以来、劇場担当です。自分の母は、私が生まれる前に三越に勤めていて、親子とも三越のことが好きなので、縁が出来たなと思いました。

――素晴らしい転職エピソードをありがとうございます。劇場の仕事は楽しいですか。

齊木 コロナ前は公演制作から舞台装置の搬出入、上演中は受付、接客、客席案内まで、プレイヤーとして現場仕事をしていました。お芝居が出来上がるのも楽しいし、さらにお客様と話までできます。

客席の後方でお客様の歓声や拍手を聞いていると胸が熱くなります

――劇場スタッフとしては、演じ手側もお客様も全方位的に見守らなくてはならないので大変ですね。

齊木 演劇だと劇団が演目を届ける相談から始まって、公演の制作、搬入、仕込み、稽古、ゲネプロまでお手伝いをして、一緒にお客様を迎えて、客席の後方でお客様の歓声や拍手を聞いていると胸が熱くなりますね。千穐楽はスーツを脱いで搬出があるので、あまり浸っていられません(笑)。

――希望して劇場担当になって、それはそれは毎日楽しいですよね。

齊木 新派公演の演目『夜の蝶』のために転回舞台を作ったり、同じく新派公演の『日本橋』の演出プランの「客席に橋を架けたい」という希望を叶えたり、客席に雪を降らせたり、一緒に芝居を作っていくのも、産みの苦しみもありますが、実現するのは本当にうれしいです。

間口12.6m×奥行7.2mのプロセニアムアーチ(額縁)の舞台

――では、劇場内ツアーをお願いします。劇場入口からの白く眩しい空間と対照的な劇場内の雰囲気ですね。

齊木 劇場内は落ちついた雰囲気にするためにナチュラルグレーを基調として、客席には朱色の張り地を使っています。まず劇場内に入って見ていただきたいのは、左右の壁面で、彫刻は石膏で、石の部分は本物の大理石です。

写真:山本春花

――舞台の左右にはライオン像もありますね。

齊木 これも石膏でできた翼の生えたライオンの像です。三越と言えばライオン像ですが、このライオン像は表情が柔らかく、翼も生えているので、「劇場の守り神・女神さま」として大切にしています。

写真:山本春花

――舞台向かって右手のこの扉はなんですか。

齊木 開場当時の日本人の身長(150cm台)に合わせて作られた扉なんです。今の時代には身をかがめないと通れない扉ですが、舞台袖に抜けることができるので、今は演出として使用することもあります。

写真:山本春花

――天井のステンドグラスの意匠も素晴らしいですね。

齊木 1927年の開場当時のままで、国会議事堂の衆議院の議場の天井も手掛けている別府七郎作のステンドグラスです。

写真:山本春花

――遠くから舞台を見ると、舞台が額縁フレームに入っているように見えますね。

齊木 美しいですよね。よく見ていただくとプロセニアムアーチ(額縁)の真ん中に三越マークがあったり、マークの両サイドに王様がいたり、「隠し絵」がたくさんあります。

――齊木さんはどういう思いで、劇場見学会を開いていますか。

齊木 開場が94年前なので、なぜこういう意匠になったのか、デザインの意図などはほとんど残っていないので、調べていくことにロマンがあります。見学会に参加された方から、「お芝居が再開したら必ず戻ってきます」と言われるとうれしいですね。

パンデミックが終息して、再び、「創り手たちと作り上げていく景色」を

――舞台にも立たせていただき、緞帳(どんちょう)の裏にある「不撓不屈」や「火の用心」まで見せていただきありがとうございました。客席が本当に近いので、幕が開いたときの感動を疑似体験させていただきました。

写真:山本春花

齊木 三越劇場は来年春に95周年を迎えます。来春からの公演再開も決まりましたので、皆さまとともに素敵な春を迎えられるよう、丁寧に事前準備を重ねていますので、ぜひご来場ください。

――楽しみにしています。ありがとうございました。

三越劇場見学会~建築編~
華麗な装飾に彩られた三越劇場の場内装飾の世界――「建築編」では、各界より専門家をゲストに迎えて、深堀解説を聞くことができる見学会です。

2022年1月22日(土)14:00~ 横河建築設計事務所編
2022年1月29日(土)14:00~ ステンドグラス編
2022年2月11日(金・祝)14:00~ 横河建築設計事務所編
2022年2月23日(水・祝)14:00~ ステンドグラス編

会場:三越劇場(日本橋三越本店本館6階)
料金:1100円(税込)
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Makoto Kajii

劇場に入るドアに中をのぞける「小窓」があって、昔の「大人の社交場」の名残まで愛おしい三越劇場。日比谷にある日生劇場とは違った意匠や雰囲気など、“劇場のデザインを味わう”のにも適した劇場だと思いました。来年の春に公演が再開したら、幕間や終演後に今回ご紹介した歴史的意匠もぜひチェックしてみてください。