2019年に開館した新しい劇場である東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)。『サンソン ―ルイ16世の⾸を刎ねた男―』、ミュージカル『ジェイミー』、宝塚歌劇 宙組公演、『劇団四季のアンドリュー・ロイド=ウェバー コンサート~アンマスクド~』など名だたる作品の上演が行われてきました。しかし、しばしば見切れ席や音響の悪さを指摘されています。どんなに良い作品でも、演劇は劇場で上演されるもの。演劇体験に影響を与える「劇場」について考察します。
見切れ席とは?見切れ席周辺では何が起こる?
舞台やコンサートでよく聞く「見切れ席」。ステージや演出の一部が見えない・見えにくい席のことを言います。劇場で見切れ席が発生するにはいくつかの要因があります。1階席で多いのは、客席の傾斜が少なかったり、配置が悪かったりするために、前列に座っているお客さんの頭が視界に入ってしまうパターン。前に背の高い方が座った場合、ほぼ視界を遮られることも稀にあります。1階後列では、2階席が突き出ていることで、舞台上部のセットや演技が見えないこともあります。2階・3階で見切れ席が生まれやすいのは、転落防止の手すりが高すぎて、座った時に舞台と被ってしまうケース。
制作開放席としてあらかじめ演出が見えにくいことを告知し、通常より安い金額で販売している場合はまだ理解が得られるでしょう。しかし、高額なチケット代を払ったにも関わらず、行ってみたら見切れ席だった…という時には不満が出て然るべき。また見切れを解消しようと前屈みになったり、頻繁に左右に動いてなんとか視界を確保しようとする方も出てきます。そうすると、その方の後ろに座る観客は更に見えにくくなるという悲劇の連鎖が起こるのです。
台詞が聞き取れない?!劇場の音響問題
東京建物 Brillia HALLで一番話題に挙がるのが、音響の問題ではないでしょうか。音楽や台詞など、演劇・ミュージカル・コンサートでは音が重要な要素を占めます。しかし、音を一番良い状態で聴けるスイートスポットが狭いため、音がこもって台詞や歌詞が聞き取りにくいのだとか。特にミュージカルでは音楽を楽しみに訪れる観客が多いため、音響の悪さは作品の評価に関わります。台詞や歌詞が聞き取れなければ、物語も分からなくなってしまいますし、集中力も途切れてしまいますよね。劇場だけでなく、東京ドームなどのコンサート会場で音が反響し歌がよく聞こえない、といった事例もあります。東京ドームはコンサート会場ではないため音響に課題があるのでしょうが、劇場は音楽と切っても切り離せない場所。最優先事項として対処を願いたいところです。
座席の座り心地も劇場によって違う?
劇場によって、座席の座り心地も異なります。演劇やミュージカルは長い作品だと3時間ほどかかります。休憩があるとは言え、ほとんど座りっぱなしの状態。椅子が硬いなどの理由からお尻や腰が痛くなってしまうと、“早く終わらないかな”と邪念が入ってきてしまいます。新国立劇場ではこの問題に対処するため、2019年からエアウィーヴ社と共同開発した特製の劇場クッションが設置されています。また前の列との空間が狭いと閉塞感がある上に、荷物の置き場所に困ることも。冬はコートなど防寒着もあるため、カバンやコートを抱きかかえながらの観劇は少々窮屈です。
劇場・座席によって観劇体験によくない影響が出ることもあれば、劇場という空間がプラスに働くこともあります。帝国劇場や日生劇場の荘厳な空間は建築物としても美しく、訪れるだけで非日常感が味わえます。エンタメがどこでもいつでも側にある時代だからこそ、“わざわざ劇場に訪れて演劇を観る”体験が良きものになるよう、祈っています。