自分は自分、他人は他人。いくら頭で分かっていても、時に人の成功は眩しく見える。大人になればなるほど、叶わなかったことを肯定するのは難しい。そんな人間の劣等感をシニカルに描いた舞台、『あの子より、私。』の観劇リポートをお届けします。(2022年1月・よみうり大手町ホール)※ネタバレにご注意ください

みんな、劣等感を抱えて生きている

モデル出身でカリスマ美容家の夕美(黒谷友香)は、家族と共に別荘の見学会に参加。遅れて見学会にやってきたのは、かつての友人である楓(遊井亮子)。元々女優志望だった夕美は、女優として成功した楓と距離を置いていて、偶然の再会に戸惑います。一方場の空気を読みがちな楓も、明るく気取らない夕美へのコンプレックスを持っていて…。2人の過去を、現在の2人の娘が演じることで、年齢を超えた人間の劣等感を炙り出します。

はたから見ればしょうもないプライドでも、本人にとっては心の壁。常に一歩引いた目線で女性たちを見守り、「だるい」と一蹴する夕美の息子・彗(基俊介)もまた、カリスマミュージシャンである父の存在に悩んでいる。女性は妬みがちという固定概念も鮮やかに覆し、全ての人間におけるトピックスなのだと提示されます。

シニカル?コミカル?不思議な空気が漂う作品

2つの家族と一緒に見学会に参加したのが、カメラマンのルミ(松岡依都美)と料理雑誌の編集長・初美(しゅはまはるみ)のレズビアンカップル。その場をすぐに自分達のペースに持っていってしまうルミと初美の様々な言動が、登場人物たちの心の奥底にある想いを引っ張り出してきてしまいます。作品のスパイスとなる重要な2人。自由に意見をぶつけ合える2人と、自尊心ゆえに素直になれない2つの家族との対比関係をもっと濃く描くと作品が分かりやすくなったかもしれません。

また不動産屋の金澤(異儀田夏葉)はコミカルさを演出する役どころに見えたのですが、筆者はあまりキャラクターが掴めず、空回りしているように感じてしまいました。作品のテーマは興味深く、各キャラクターに個性もあったのですが、全体的に会話のテンポを捉えにくかったのが残念でした。

Yurika

よみうり大手町ホールでの観劇は初めて。木の温かみを感じる会場で、座席も見やすく休憩なしの約2時間も快適に観劇できました。『あの子より、私。』は27日までよみうり大手町ホールで、2月には大阪公演が予定されています。※1月18日現在の情報です。最新の公演情報は公式HP をご確認ください