スペイン映画界の名匠ペドロ・アルモドバルによる傑作映画を原作にしたミュージカル『神経衰弱ぎりぎりの女たち』。2010年にブロードウェイで上演され、トニー賞3部門にノミネート、2014年に上演されたウエストエンドではローレンス・オリヴィエ賞2部門にノミネートされた話題作です。待望の日本初演で主人公のペパを演じる望海風斗さんに、本作の魅力を伺いました。
ラテンのグルーヴが生む、明るくて切実な物語

−台本を読んだ印象はいかがでしたか。
「映画を観ていたので何となくのストーリーは理解した上で台本を読みましたが、映画版とはまた違う、舞台ならではの印象がありました。音楽が醸し出す異国情緒はありながらも、描かれているのはとても身近な物語に感じましたね。ペパの年齢が私自身とも近いので、一歩違えば自分もこうだったのかな?というような、不思議な親近感がありました」
−トニー賞の楽曲賞にもノミネートされた音楽についてはいかがですか。
「ラテンミュージックの、グルーヴ溢れるかっこいい音楽がいっぱいあるので、聞いている分にはすごく楽しいのですが、実際に歌ってみると日本語で歌う難しさを感じます。翻訳も難しかったと思うのですが、日本語でもこの音楽の良さが活きるよう、今模索しているところです。演出の上田一豪さんや歌唱指導の皆さんが一緒に考えてくださっているので、今まさに試行錯誤しているところです。明るいリズムの楽曲ばかりなので、そのエネルギーが舞台上でうまく作用するんじゃないかなと期待しています」
−ダンスシーンもあるのでしょうか。
「そうですね。アンサンブルキャストの皆さんのダンス稽古はとてもエネルギッシュで楽しそうでした。私も少し踊るシーンがありますが、本格的なラテンダンスに挑戦するのは今回が初めてなので、とてもワクワクしています」
−演出は上田一豪さんが手がけられます。
「これまで再演ものや海外スタッフがいる作品でご一緒してきたので、一豪さんと一から作品を創っていくのは初めてです。一豪さんのこだわりを聴きながら創っていけるのが楽しいですね。歌においては、“ここの音に気だるさがあって…”など、言葉の使い方や音のニュアンスにもひとつひとつに意味を持って演出してくださっています」
−共演者の皆さんについての印象はいかがですか。
「初共演の方ばかりなので、ご一緒するのが楽しみです。秋山菜津子さんや長井短さんとミュージカルでご一緒できるのは、なかなかない機会だと思うので楽しみですね」
恋を失い崩れていくバランス、それでも走り続ける

−望海さんが演じるペパという役柄について教えてください。
「彼女は恋人がいなくなってしまうというピンチに陥っています。これまでぎりぎりの中でバランスを保ってきた人物だと思うんですけれども、彼女にとって大きな支えであった恋愛というものが欠けてしまい、不安定な状態に追い込まれます。それでも沈まずに走り続ける姿がすごく素敵です。決して“普通”の人ではないかもしれないけれど、“こういう人、周りにもいるいる”と思っていただける要素も大事にしていきたいですね」
−今まで望海さんが演じてきた役柄とはどんな違いがありそうですか。
「最近演じたマリア・カラスやエリザベートはその人生を通して演じる中でその生き様をお届けしてきましたが、この作品は本当に数日の、数時間で起こった出来事です。その中でどう変化していくかを描いた作品なので、目の前の感情に素直に動いていけるんじゃないかと思います。
ペパは物語を経て、1つ手放せるものがあると思いますし、彼女が乗り越える姿に共感していただける女性は多いんじゃないかと思います。私はペパと同じような境遇になったことはないですけれど、なんだか友達が何かを乗り越えたようで嬉しかったんです。彼女自身に自分を重ねて観ていただく方もいれば、一緒に見守って“良かったね”と思ってくださる方もいるんじゃないかなと思います」
−確かに自分は恋愛にそこまで重きを置いていなかったとしても、ペパのように恋愛体質な友人って1人はいるものですよね。
「いますよね。“そんなことで仕事が手につかなくなるなんて”と思うかもしれないけれど、その人にとってはそれがとても重要だったり、それによって良いバランスが保たれていたりすると思うのです。それは恋愛以外にも置き換えられることかもしれません。そういうものが急に失われた時、人間ってどうなっていくんだろうとか、それでも前に進む姿にきっと共感していただけるんじゃないかと思います」
−コメディを演じる上では、どんなことがポイントになってきそうでしょうか。
「ぎりぎりな女性たちのぎりぎり具合に笑ってもらえたら良いかなと思うので、やる側としてはとにかく必死に生きるのみだと思っています。例えばペパは電話線を切って電話を投げるという大胆な行動に出るのですが、それ自体を面白く演じるというより、彼女の中では“今は電話を見たくない”“音を聞きたくない”という切実さから出てしまった行動なんです。はたから見ると“あり得ないでしょ”ということを必死にやることで、面白さに繋がったら良いなと思います」
『マスタークラス』『エリザベート』を経て見えた景色は

−昨年は『マスタークラス』『エリザベート』で好演され、第33回読売演劇大賞の大賞・最優秀女優賞や、令和7年度(第76回)文化庁芸術選奨 文部科学大臣新人賞の受賞もありました。俳優として大きなターニングポイントとなる1年だったのではないかと思います。
「作品に挑む前は、2作品をやり終え、大きな山を乗り越えた先の景色を楽しみに頑張った部分があります。でも実際にやってみると、乗り越えた先だけでなく、その過程そのものがすごく楽しく、学びの多い時間になりました。やり終えた今、具体的に何が変わったのかは正直よく分からないのですが、作品に向き合うにあたって、自分がもっとわがままに、作品に没入しても良いのかなと思えるようにはなりました。
宝塚歌劇団を退団して以降、男役とは全く違う役を演じられる楽しさはあったものの、女性としての意識をどこかでしっかり持っておかないと破綻してしまうのではないかという不安や、初めて“座長”と言われるプレッシャーを感じたりしていました。でも『マスタークラス』『エリザベート』を通して、作品に没入していけばいくほど、役の色が濃くなっていくし、それが作品創りの面白さかなと感じました。自分にとっては苦しい部分もありますが、苦しいところまで行って、お客様に最善の形でお届けできるのがベストだなと思い始めています。そういう意味では色々なことに気を遣いすぎなくても良いのかなと感じました」
−賞という形で評価を受けたのはいかがでしたか。
「私の中では本当に大きな山だったので、それが自分の実感だけでなく、形として評価していただけたのはとても励みになりました。この1年やってきたことが間違いじゃなかったんだなと思えたのですが、まだまだこの先、いくつもの大きな山をいっぱい登っていきたいと思っているので、あまり喜びすぎてはいけないという気持ちもあります。でも私にとっても思い入れのある2作品でいただけたのは心から嬉しかったですね」
−望海さんが役に没入していく時に大切にされていることは何でしょうか。
「作品によってアプローチの仕方が違うように思います。『エリザベート』であれば、音楽によって役の心情が流れていくところが大きかったので、音楽を大切にすることを一番にこだわりました。一方で、『マスタークラス』は言葉の説得力、言葉にどれだけ実感を持てるかというところに重きを置いていたかなと思います。
あとは、自分が納得できていない部分があると役としても感情が流れていかないので、演出家の方とお話ししたり、演じる中で色々な可能性を探ったりするようにしています。役の範囲の中で、もしかしたらこういう可能性もあるんじゃないか?こうしてみたら何か変わるんじゃないか?というトライは稽古場で常にするよう心がけています」

衣装:ジャケット(ALLSAINTS)ブラウス(レジーナロマンティコ)パンツ(ローレンラルフローレン)イヤリング(アビステ)靴(MANGO)
−本作は何がポイントになりそうですか。
「バランスだと思います。ペパは仕事をしていてキャリアをしっかり築いている一面もあるので、そういう部分と、どこかずっとぎりぎりだった部分とのバランスを見せていくことが求められると思います。今までどうやってバランスを取ってきたのか、それがどうやって崩れていくのか。そこを丁寧に描くことが大事になってくると思います」
−本作を楽しみに待っている方へのメッセージをお願いします。
「もしかしたらご自身に当てはまったり、周りの人に当てはまったりするような、身近な物語になっていると思います。音楽によってシリアスになりすぎないところもミュージカルの魅力だと思うので、ぜひ劇場で楽しんでいただけたらと思います」
ミュージカル『神経衰弱ぎりぎりの女たち』は2026年6月7日(日)から21日(日)まで東京・日本青年館ホールにて上演。6月26日(金)から28日(日)まで福岡・博多座、7月2日(木)から6日(月)まで大阪・SkyシアターMBS、7月10日(金)から12日(日)まで愛知・御園座にて上演されます。公式サイトはこちら
異国情緒溢れる世界観やエネルギッシュなコメディ感がありながらも、どこかで特に女性ならば“あるある”と共感できる瞬間が詰まった作品となりそうです!役者として進化し続ける望海さんの新たな姿に期待が高まりますね。



















