ラストイヤーとなる2026年、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハリー・ポッター役を務めている上野聖太さん。2022年の開幕から本作に携わり続けている上野さんから観た作品の魅力とは?そしてカバーキャストから本役という変化を迎えた今、思うこととは。

ロングラン公演という新たなチャレンジに惹かれて

−上野さんは日本で舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が開幕した2022年から作中の配役のトラックのひとつであるME1(マゾーニ他)と、ハリー・ポッター役のカバーを務めてきました。オーディションを受けたきっかけは何でしたか。
「最初に惹かれたのは、この作品が無期限のロングラン公演であったことです。日本でロングラン公演に携わる機会はなかなかないので、俳優として新たなチャレンジができるのではないかと感じました。同じ作品、同じ役に向き合い続けたら何が体験できるんだろう…?と興味が湧きましたね。
もちろん『ハリー・ポッター』シリーズを知ってはいたのですが、子どもの頃はダークファンタジーな印象があってあまり観てこなかったんです。オーディションを受けることになって初めて作品をしっかり観たのですが、大人になった今だからこそ緻密なストーリーに気づくことができて、一気に魅了されました。
アンサンブルとして芝居やダンスのオーディションを受けている途中で、ハリー役の台詞を読むように言われることがあって。最終的に受かった時にマゾーニ/BOB役と、ハリー・ポッター役のカバーだと言われました。でもカバーということだったので、当時は実際に舞台に立つことになるとは全く思っていなかったです」

−上野さんはミュージカルでご活躍だった中、ストレートプレイ作品にロングラン出演することへの迷いはなかったですか。
「僕はもともと芝居がしたくて俳優になったので、ミュージカルをやっている時も、歌やダンスも根底は全て芝居だと思っているんです。だからそこまで垣根はありませんでしたし、『ハリー・ポッターと呪いの子』はワンドダンスなど踊りの要素もあります。実際にオーディションでもダンスの審査がありましたし、この作品は音楽のカウントで動く・喋るタイミングが細かく決まっているなど、ミュージカルと共通する部分が多いです。お芝居だけやってきた仲間がそこに苦労している様子も見ているので、僕はミュージカルで音楽やカウントに触れてきてよかったなと思いました」

−開幕時に印象に残っていることはありますか。
「この作品を観たことがないキャストが多かったので、初演を創る大変さはありました。また当時は全員がシングルキャストだったので、作品を俯瞰的に観る機会もなく、とにかく必死でしたね。開幕したら毎日の公演を続けながらカバーキャストの稽古も始まって、ロングラン公演の大変さを実感しました。とにかくがむしゃらにやっていたと思います」

演劇は、お客さんの想像力を信じることができる

−4年間作品に向き合い続けて、本作の魅力は何だと感じられていますか。
「一番は劇場で、その場で体験できる魔法だと思います。そこが僕自身もこの作品で一番好きなところです。そして、シングルキャストしかいないところから始まって、今は1つの役を色々な人ができるようになったことを思うと、4年間でとても強くなった作品だなと感じます。キャラクターそれぞれにおいても幅が広がっていっているのがすごく面白いですね。今年はハリーが10人もいますから!これって演劇でしかあり得ないことなんじゃないかなと思います。映像で毎年ハリーが変わったらお客さんも混乱しますよね(笑)。でも演劇では、お客さんの想像力を信じることができます。眼鏡、額の傷、スーツ、ブーツといったアイテムを身につければ、その人をハリーだと信じることができる。それは演劇の素晴らしさであり、色々な組み合わせで楽しめる本作の魅力になっていると思います」

−カンパニーの絆の強さというのは観客から見ても印象的な作品だと思います。
「空気感って客席にも伝わるものですよね。4年もいると、ちょっとした動き、例えば階段の動かし方とか、そういう部分にも阿吽の呼吸が生まれていきます。このメンバーだったらこうだな、というのが分かってくるのが面白いです」

−ロングラン公演を続ける中で感じた大変さはありますか。
「やはり人間良い日も悪い日もあるので、特に精神力は鍛えられました。海外のクリエイティブスタッフで振付補のヌーノ・シルヴァさんという方が、ウォーミングアップの最後に瞑想の時間を設けて、“心の中にロータス(蓮の花)を”と仰るんです。蓮の花は清らかな心や神聖さを象徴するもので、それを心の中に持って公演に挑むというのがとても大事だなと感じました。どうしようもなくイライラする日があったとしても、スイッチを切り替えて、仲間を信じて、舞台に向かう。そういうことを改めて教えてもらった作品です」

自分の命を投げ打ってでもやり遂げるハリーの勇気

−ハリーをどんな人物だと捉え、どのようなことを大切に演じられていますか。
「ジニーの台詞に“あなたは誰のためでも何でもする人よ”というのがあるんですけれど、ハリーというのは自分が正しいと思ったら突き進んでいける人だなとすごく感じます。それが例え敵視しているドラコのためであっても、助けることができる。自分の命を投げ打ってでもやり遂げる勇気に、周囲の人たちは惹かれるんだろうなと感じていますし、そこはすごく大事にしている部分です」

−一方で、ハリーは完璧ではない一面もありますよね。特に本作では父親として未熟なところもあります。
「ハリーは失敗もするし、ヘマもするんですけれど、それでも立ち向かっていく姿に、僕も舞台に立ち続ける勇気をもらっています。考えてみると、ハリーというのは本当に不憫な人なんですよね。ハリー自身は何もしていないのに、生き残ったということで気がついたら世界を救ったヒーローになっているし、もてはやされたが故にドラコに目の敵にされてしまう。さらにはヴォルデモートに命を狙われてしまうわけですから。何かをして恨まれるわけではない、なぜか周りにそうされてしまうというのが可哀想なところです。でもハリーは失敗もする普通の男の子だからこそ、多くの人の共感を呼ぶのかなと思います」

−様々な人がハリーを演じてきたのを見た上で、ハリーを演じるというのはどのような心境でしたか。
「色々なバリエーションを先輩たちが見せてくれたので、気張らずに演じることができたと思います。色々なハリーの可能性があって、自分のハリーで良いんだなということを知っていたので、そこは勇気づけられました」

“希望”になれるかは今後の頑張り次第

−本役として初めて舞台に立った日のことは覚えていらっしゃいますか。
「もちろんです。これまでもハリーとして舞台に立っていたので、やることは変わらないのですが、市村正親さんのダンブルドアと初顔合わせだったことがとても印象深かったです。ミュージカルをやってきた僕としては、ずっと背中を見てきた方ですから。ミュージカル・レジェンドの市村さんと、ハリーとダンブルドアとしてお芝居をしているというのはとても感慨深かったです」

−カバーから本役になるということに対して、反響も大きかったと思います。どのように受け止められましたか。
「今までミュージカルのアンサンブルを一緒にやってきた仲間たちは、やはり本役でクレジットされることの意味をよく知っていますから、僕以上に喜んでくれました。井上芳雄さんにもラジオ番組で“ミュージカルや演劇をやっている俳優の希望だね”と言っていただいて、すごく嬉しいと思いつつも、“希望”になれるかは今後の僕の頑張り次第だなとも感じています。ここからどうハリーを演じていくか、そしてこの先にどう俳優として活躍していくかが重要だと思うので、今は身の引き締まる思いです」

−昨年はロンドンに本作を観劇に行かれていましたね。
「日本でやっている一部制の『ハリー・ポッターと呪いの子』は熟知していますが、二部制は初めて観たのですごく新鮮でした。もちろん戯曲は読み返して観に行ったのですが、実際に観たことのないシーンを観ていると、全部がご褒美のように感じましたね。想像力を掻き立てられましたし、キャラクターへの理解がより一層深まりました。
公演後、出待ちしてハリー役の方とお話しする機会を得られたのですが、偶然その方もカバーキャストの方だったんです。普段はスウィングやアンサンブルとして他の役を演じられていると聞いて、“僕もそうだよ、1ヶ月空いて役をやる時は集中力が必要で大変だよね”と盛り上がりました。別の国に、同じ状況の人がいるというのがとても面白かったですし、改めて、世界的な作品に携わっているということを再認識しましたね。ニューヨークやハンブルクにも同じような人がいるのかなと思うと、すごく心強かったです」

−最後にメッセージをお願いします。
「世界的に上演されている作品ですが、アジアで今上演しているのは日本だけです。最近はよくイマーシブや没入型という言葉が浸透してきていると思いますが、僕がこの作品を初めて観た時、これはアトラクションだなと思うくらい、『ハリー・ポッター』の世界に没入できる、魔法を体感できる作品になっています。この作品をまだ観たことがない方は、観ていただければ“こんな作品は今まで観たことない”と感じていただけると思うので、ぜひ観にきていただきたいです。
これまで4年の間に観にきてくださった方も、ラストイヤーになりますし、ハリーを始め、カムバックとなるキャストも多くいます。今継続して演じているキャストとカムバックするキャスト、新たに加わるキャストが融合することで、更なる変化が最後に起こると思いますので、ぜひまた色々な組み合わせで観ていただけたら嬉しいです。みんなで安全に駆け抜けたいと思いますので、最後まで見守っていただければと思います」

撮影:山本春花

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は東京・TBS赤坂ACTシアターで上演中。公式HPはこちら

Yurika

カンパニーへの愛や思いやりに溢れた言葉が印象的だった上野さん。ミュージカルをやられてこれたからこそ、カウントや音楽の中での芝居に慣れられているという視点も新鮮でした。そして光栄なことに、舞台上での撮影という貴重な機会をいただきました。ハリポタファンにはたまらない暖炉の上に腰掛けていただいたお写真など、本作ならではのカットがたっぷりです。