『モーツァルト!』や『ジャージー・ボーイズ』など数々の舞台で活躍する中川晃教さんが主演を務める、全編オリジナル楽曲の新作ミュージカルが誕生します。ミュージカル『空白の響き』Blanked Soundが描くのは、時代も国も異なる3つの物語。舞台上にあるのは俳優の身体と声、そして1冊の本だけです。本記事では、3つの物語に込められた主題と、それを立ち上げるカンパニーの魅力に迫ります。
時代も国も異なる3つの物語が、ナビゲーターによって紡ぎ合わされる
ミュージカル『空白の響き』では、3つの物語が描かれます。
1つ目は、さまざまな偏愛を描いた文豪・谷崎潤一郎(1886-1965)の代表作『春琴抄』の世界です。佐助は幼い頃から盲目の三味線師匠・春琴に付き添い、彼女にとってなくてはならない存在になっていました。やがて、春琴が何者かによってその美貌を傷つけられた際、佐助は春琴の美しさを永遠に保有するため、自ら針で目を突いて盲目になることを選びます。
ミュージカル『空白の響き』では、厳しい折檻を受けながらもただひたすら春琴に尽くし続ける佐助と、やがて彼だけに心を開いていく春琴の姿が描かれます。
2つ目の物語の主人公は、19世紀のアメリカに生きたエミリー・ディキンソン(1830-1886)です。彼女はアメリカで最も人気の高い作家の1人で、生涯に約1800編の詩を書きましたが、そのほとんどが死後に発表されたものでした。
劇中では、少女時代のエミリーが、自分の書いた詩を批評家ヒギンソンによって「正しい」韻律に書き換えられ、世に出されるという痛みを経験します。創作の尊厳を傷つけられながらも、エミリーは暗い部屋の中、自分だけの言葉を探し続けます。
エミリーが生きた時代からほどなく、1975年から1979年のカンボジアでは、クメール・ルージュ政権によって、当時の国内人口の20%にあたる推定200万人が命を落としました。
カンボジア西部農村出身のフート・ボパナは、識字能力と深い知性のため迫害対象となり、労働キャンプへと送られてしまいます。強制労働に従事しながらも、ボパナは命がけで恋人への手紙を書き続けていました。
劇中では、収容所での壮絶な拷問にも負けず、「心だけはあなたのもの」と恋人への愛を綴り続けたボパナの誇り高い姿が描かれます。
彼らに共通しているのは、本作が光を当てる「誰にも聞かれなかった音楽、誰にも聞かれなかった言葉」を持っていることではないでしょうか。
一見ばらばらに思えるこの物語は、ひとりのナビゲーターの手によって紡ぎ合わされ、まったく新しいミュージカルとして立ち上がります。
主演・中川晃教と気鋭のクリエイターたち
ミュージカル『空白の響き』では、バックグラウンドの異なる3人のクリエイターが集結しています。
まずは、本作で主演を務める中川晃教さん。
2001年に『I WILL GET YOUR KISS』で歌手デビューしたのち、第34回日本有線大賞新人賞を受賞しました。その後、2002年にミュージカル『モーツァルト!』でタイトルロールを演じ、以来数々の舞台やミュージカルに出演されています。
2016年に出演した『ジャージー・ボーイズ』の主人公フランキー役では、第24回読売演劇大賞、第42回菊田一夫演劇賞を受賞するなど、演劇・ミュージカル界になくてはならない存在です。
中川さんは本作の一部の歌詞を音楽担当のWoody Pakさんと共作することが決まっており、作詞家としての一面にも期待が高まります。
音楽担当のWoody Pakさんは、本作の楽曲をすべて書き下ろします。中川さんとはミュージカル『DEVIL』での協働経験もあり、この経験が今回の作品作りにどのような影響をもたらすのか、興味が尽きません。
そして演出を務めるのは、1992年生まれの新進気鋭の演出家・タカイアキフミさんです。タカイさんは早稲田大学建築学科卒業後、大手広告代理店に勤務しながら演劇活動を始めたという異例の経歴を持っています。
日本社会が抱える問題を背景にしながら人々の「営み」を丁寧に描いてきたタカイさんにとって、ミュージカルの演出を務めるのは今回が初めて。今まで作品づくりのなかで大切にしてこられたという「現実にありながらも普段は感じることのない微かな希望や愛」が本作にどう生かされていくのか、非常に楽しみです。
島太星や剣幸ほか、豪華出演陣による究極のパフォーマンス
中川晃教さんをはじめとする、豪華俳優陣にも注目です。
2016年のデビュー以来、ニューヨーク・アポロシアターでの歌唱が高く評価されるなど、音楽とミュージカルの両面で躍進を続ける島太星さん。劇団文学座に所属し、俳優・作家・演出家としての顔も持つ松井工さんや、舞台・映像と幅広く活動し、バイオリニストとしても舞台に立つ橘未佐子さんなど、実力派が名を連ねます。
さらに、14歳で渡米後ブロードウェイに立った丘山晴己さんや、宝塚歌劇団宙組の元男役トップスターとして知られ、退団後も精力的に活動を続ける真風涼帆さん、宝塚月組の元男役トップスターであり『kohibumi concert』(恋文コンサート)をライフワークとして上演し続ける剣幸さんもキャスティングされています。
俳優の身体と声、そして最小限の小道具という究極のパフォーマンスを、これだけのキャスト陣で体感できるのは非常に贅沢な観劇体験となりそうです。
ミュージカル『空白の響き』Blanked Soundは、2026年7月5日(日)から7月12日(日)まで、KAAT神奈川芸術劇場大スタジオで上演され、その後2026年7月16日(木)から7月26日(日)まで、東京芸術劇場シアターウエストで上演されます。またシアターウエスト公演が好評につき、シアターウエストのプレビュー公演のチケット販売も決定しています。チケット情報など、詳しくは公式ホームページをご覧ください。
5月23日(土)10時〜一般チケット発売。チケットぴあでのチケット購入はこちら(PR)
「誰にも聞かれなかった音楽、誰にも聞かれなかった言葉」というキーワードに強く惹かれました。誰にも聞かれなかったけれど、確かにそこにあった音楽や言葉たち。それらを掬い上げたとき、一体どんなミュージカルが生まれるのでしょうか。そのまなざしの優しさと切なさが、今から胸に迫ってきます。



















