アメリカ・ルイジアナ州のニューオリンズで、1973年に発生した「アップステアーズ・ラウンジ放火事件」。放火による火災で、32名の命が奪われた事件です。今回は、この事件を題材にしたオフ・ブロードウェイミュージカル『The View Upstairs』の日本初演版、『The View Upstairs-君が見たあの日-』の観劇レポートをお届けします。(2022年2月・日本青年館ホール)

ゲイのファッションデザイナーが「同性愛が罪とされた時代」にタイムスリップ

主人公のウェス(平間壮一さん)は、ファッションデザイナー。若者に人気のインフルエンサーでもあります。故郷でショップを開くため土地を購入するのですが、そこはなんとさびれた廃墟。あまりの惨状にむしゃくしゃして、“クスリ”を飲んでやけくそになったウェスは、窓に引っかかったぼろ布を引っ張ります。

すると次の瞬間、1973年の「アップステアーズ・ラウンジ」というゲイバーにタイムスリップ。「同性愛は罪である」と言われていた時代へ。ウェスはバーで出会った青年・パトリック(小関裕太さん)に心惹かれます。しかし、この場所が廃墟になってしまった「ある出来事」は刻一刻と近づいていました。

ウェスは、「インフルエンサー」として「人に見せるための自分」ばかりを追及したために弱音や本音が吐けずに迷う青年。取り繕ったような明るさの影に見える暗い部分を、平間さんが巧みに表現しているのが印象的でした。

ミュージカル俳優として頭角を見せる小関裕太と阪本奨悟

小関さんを舞台作品で拝見するのは今作が初めて。難解な楽曲を堂々と歌い上げる姿に感動しました。また、歌声も優しく、日本青年館ホールの広い空間にも負けない伸びやかさも感じました。

阪本奨悟さんが演じたフレディは、とても可憐な雰囲気を感じる青年。しかし一転して、ドラァグクイーン“オーロラ”としてのステージは、とてもパワフルで歌声にも迫力があり、客席も一体となって楽しむことができました。

地盤をしっかりと固めてくれるベテラン勢

岡幸二郎さん演じるウィリーは、バーの人々の良き理解者でありながらも、急にありし日の思い出をドラマチックに語りだすなど、コミカルな印象が強い役柄。そんな中でも圧巻だったのは、舞台終盤の『絆』という楽曲。岡さんはソロパートを担当しているのですが、一体そのスマートな体型のどこからあふれているのだろうかと思うほどの声量にただただ圧倒されました。

東山義久さんは、キーパーソンとなるデールを演じています。バーで「厄介者」として扱われるたび、人知れず心を痛めている様が手に取るように分かる繊細なお芝居が非常に印象的でした。東山さんは、普段は舞台のどこにいても非常にオーラと存在感がある方です。しかし、今作に関しては、本当にそこに存在しているのかどうか分からなくなるほどのはかなさを感じました。

『The View Upstairs-君が見たあの日-』は実際にあった事件を基にした作品であり、結末は重く辛いものです。しかし劇中に登場する人々は愛すべき人ばかり。そして何より音楽が非常に楽しく、舞台作品として魅了されながら足跡をたどることができます。東京では13日まで、大阪では24日〜27日まで上演予定。さらに、9日18:00〜ライブ配信あり。16日までアーカイブ配信もあります。詳細は公式HPをご確認ください。