劇場で生の舞台を鑑賞する醍醐味は、観客もその舞台を作る一員となって、拍手や笑い声をその場で演者に届けられること。ミュージカルの舞台ではミュージカルナンバーが終わるタイミングで拍手をすることも多いです。
俳優が放つエネルギーに胸がいっぱいになったとき、思いっきり拍手を届けたい。でも劇の進行を妨げたらいけないかな…「拍手の止め時」に迷った経験がある方も多いのでは。そんな時、ミュージカルの本場では、観客の熱狂が落ち着くまで時間を取ることもあるのです!
名作ミュージカルの証、「ショー・ストッパー」
「ショー・ストッパー」という言葉をご存知ですか?直訳すると「ショーを中断するもの」という意味。演劇やミュージカルの上演で、台詞やミュージカルナンバーに心を打たれた観客が賞賛の拍手を送り、舞台の進行が一時的に止まってしまう現象を指しています。そこから派生して、特に盛り上がるミュージカルナンバー自体を「ショー・ストッパー」と呼ぶようにもなりました。
「ショー・ストッパー」と呼ばれるミュージカルナンバーには、観客が「これが観たかったんだ!」と思うようなものが挙げられます。たとえば、ディズニーが初めて手掛けたブロードウェイ・ミュージカル『美女と野獣』の「変わりもののベル」という曲。原作アニメーションの躍動感が見事に展開するナンバーですが、初めて観客を入れて上演した際、期待を上回るその完成度に、観客の拍手はなかなか止まらず「ショー・ストップ」になったそうです。同作では大ナンバー「ビー アワ ゲスト」も「ショー・ストッパー」のひとつ。見応えのあるダンスと豪華絢爛なファンタジーの世界観に毎回大きな拍手が贈られます。
他にも、『アラジン』の「フレンド・ライク・ミー」、『レ・ミゼラブル』の「民衆の歌」など、そのミュージカルを代表するナンバーのほとんどをショー・ストッパーと呼ぶことができます。
この日を待っていた…!社会情勢が影響して「ショー・ストッパー」に
拍手には発表者に賛同する気持ちや寄り添う気持ちを表現する力があります。自分の気持ちを示したい、という観客側の想いが「ショー・ストッパー」の現象を作り出すのです。
2021年9月、新型コロナウイルスの影響で閉鎖されていたブロードウェイの劇場が再開した際にも多くの作品で「ショー・ストッパー」現象が沸きおこりました。そのひとつを映像とともにご紹介します。
筆者も大好きな『ウィキッド』では、オーヴァーチュアが流れた瞬間から観客の歓声が劇場に響き渡りました。幕が上がり、シャボン玉に乗ったグリンダが登場すると瞬く間に客席は総立ちに。拍手の嵐でオーケストラの演奏も止まってしまいます。グリンダの最初の台詞は「It’s goog to see me, isn’t it? (私に会えてよかったでしょう?)」。長くこの瞬間を待っていた観客の興奮ぶりに、1分以上にわたって会場内は「ショー・ストップ」になったのでした。
『ウィキッド』で盛り上がる曲といえば、「自由を求めて」や「あなたを忘れない」ですが、1年以上続いた中止期間に積もった気持ちを表すかのように、再開初日にはほとんどの曲が「ショー・ストッパー」になったそう。再開の喜びや苦しい期間を耐え抜いた俳優への称賛など、観客の想いが溢れていたのですね。「ショー・ストッパー」はキャスト・スタッフに贈る観客からのパフォーマンスと言うべきかもしれません。
日本ではミュージカルやお芝居ではカーテンコールまでは静かに鑑賞している方が多く、歓声もあまり聞こえません。そのぶん集中して舞台に没頭できるのが良いところです。郷に入れば郷に従え。海外で舞台鑑賞をする際は観客側の文化を知って、とびきりのエンターテイメントを楽しみましょう!