吉岡里帆さん主演の舞台『スルメが丘は花の匂い』の演出・脚本を務めるなど話題作を手掛ける、お笑いコンビ・かもめんたるの岩崎う大さん。岩崎さんは、芸人であり劇団かもめんたるの主宰でもあります。
また、演劇・コントユニットダウ90000は10月に予定している第4回演劇公演『いちおう捨てるけどとっておく』のチケットが、発売開始後約10分で即完売するなど注目の存在。
演劇とお笑い、コントの違いとは?シームレスに活動する2つのユニットに迫ります。

演劇とコントの違い

劇団かもめんたるとダウ90000。今をときめく2つのユニットは、コントも演劇も手がけています。コントは、演劇のショート版のようにも思えますが、コントと演劇は何が違っているのでしょうか?

「コント」とは元々フランス語で、「短い物語・寸劇」という意味。イギリスのミュージックホールやキャバレーなどのショータイムの間を繋ぐものとして行われていたコントが、日本のコントの基盤になっていると言われています。台本作家がコントを作成し、演じる俳優は声真似やモノマネをしながら、時事的なネタをズバッと言うのが元々の形だったようです。

コントは社会風刺や政治風刺をする高等な娯楽。1800年代、当時全ての人が新聞を読めるとは限らなかったため、文字が読めなくても社会の動きをいち早く知ることができる手段でもありました。

しかし、日本に入ってくると、コントはキャバレーの幕間に見せるコメディ色の強いものに変化。社会風刺的な意味はかなり薄くなっていました。浅草で発達し、様々な文化と混ざり合って現在の形になったようです。

コントと演劇は、とても近い存在ですが、異なる部分もあります。演劇では、物語のスタートからゴールの間に「葛藤」があり、ゴール地点では主人公の精神的な成長や、主人公と他の人物との関係性の変化があります。成長や変化が大きいほどドラマチックな物語になり、少ないと日常を切り取ったような穏やかな物語になります。演劇では、登場人物の内面をいかに大きく成長させ、互いの関係性を変化させるかが重要です。

一方コントの場合は、10分前後のものが一般的で、短い時間の中で成立させることもあり、大抵のものは成長や変化がなく展開されます。オープニングでお互いの関係を全て説明し、変わらない関係の中で天丼などの「お約束」を繰り返して、笑いを取ったり、物語を展開していきます。

業界が注目する若手8人組ユニット ダウ90000

ダウ90000は、日本大学芸術学部出身のメンバーで結成され、2020年に旗揚げされた男女4人ずつの8人組ユニット。平均年齢はなんと23歳!
メンバーは主宰の蓮見翔さん、園田祥太さん、飯原僚也さん、上原佑太さん、道上珠妃さん、中島百依子さん、忽那文香さん、吉原怜那さん。ワンシチュエーションコメディを得意としており、「M-1グランプリ2021」では準々決勝に進出し話題になりました。ダウ90000は、「劇団」とも「コント集団」とも名乗らず、演劇の本公演もコントライブも開催するなど、演劇とお笑いの垣根を越えて活動しています。
『ゴッドタン』や『あちこちオードリー』など数々の名番組を生み出したプロデューサーの佐久間宣行さんや、東京03の飯塚悟志さん、いとうせいこうさん等、数々の著名人も実力を認める存在です。

ダウ90000の特有の面白さを感じられるコントの1つに、「独白」というネタがあります。独白とは、登場人物が相手との会話なしに心情や考えを述べる台詞を指します。1人が独白している間、ほかの演者には独白している人物の声は聞こえていないように演出されることが多いです。(独白について詳しくはこちらの記事をチェック

しかし、ダウ90000のコント「独白」では、独白が終わる前に話し掛ける、1人を残して7人が一斉に独白する、特定の1人だけ周囲に独白が聞こえてしまう等、演劇のお約束としての「独白」を覆していくような光景が展開されました。
蓮見さんが脚本を当て書き(演じる俳優を想定して脚本を書くこと)していることもあり、男女4人ずつという珍しい構成で、個性豊かなメンバーだからこそ作れる笑いが人気。また、YouTubeの積極的な活用が、若い世代を中心に支持される理由の1つとなっているようです。

コント動画だけでなく、「ダウ90000900000000」というラジオや、最近はYouTuberのような企画なども配信していて、それぞれのキャラクターがよく分かり視聴者が親しみやすいことが特徴です。ダウ90000『いちおう捨てるけどとっておく』は10月5日から19日新宿シアタートップスにて上演です。

岩崎う大の独自の笑いのセンスが存分に発揮 劇団かもめんたる

劇団かもめんたるは、お笑いコンビかもめんたるの岩崎う大さんと槙尾ユウスケさんの2人に加え、小椋大輔さん、もりももこさん、土屋翔さんとオーディションで選ばれた個性豊かな俳優たちが所属しています。演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチさんに「演劇ファンにこそ観てもらいたい」と高く評価されている劇団。シニカルな笑いの中に、人間愛が滲む作風が特徴です。

劇団主催のお笑いコンビ・かもめんたるは、2013年にキングオブコントで優勝した実力派コント師。脚本・演出を務める岩崎さんは、劇団かもめんたるの作品「GOOD PETS FOR THE GOD」(2019年)と「君とならどんな夕暮れも怖くない」(2020年)が、岸田國士戯曲賞候補作にノミネートされるなど、劇作家・演出家としても近年注目を集めています。また、吉岡里帆さん主演舞台『スルメが丘は花の匂い』の作・演出も手掛けました。

大勢で何かをすることが得意ではなく、バラエティ番組に馴染めなかったという岩崎さん。そんな時に、同じサークルだった小島よしおさん、そして事務所の先輩のカンニング竹山さんからも「劇団をやったらどうか」と言われ、2015年に岩崎さんが脚本・演出を務める劇団かもめんたるが始動しました。

岩崎さんは、自身のバラエティ番組出演経験から、「コントとバラエティは似て非なるものだけど、演劇とコントはもう少し近い距離感」と言います。劇団にしたことで作品や表現の幅が広がり、岩崎さんが面白いと思っていて表現したいものを理想の形のまま広めることが出来ているそう。
かもめんたるもYouTubeを積極的に活用しており、かもめんたるのコント、劇団かもめんたるでの様子が上がっています。

また、岩崎さんは「う大脳」という個人のチャンネルも持っていて、こちらはお笑い、映画、アニメ、小説など、あらゆるエンタメ作品を岩崎さん独自の視点で掘り下げていく動画が配信されています。岩崎さんの思考を知ると、かもめんたるの作品がより楽しめるようになるかもしれません。

劇団かもめんたる第12回公演が、2023年1月25日〜29日に池袋・あうるすぽっとにて上演が決まっています。

ミワ

演劇のコメディ作品とはまた違う、「コント」というものについて、改めて魅力を感じました。ダウ90000とは同世代なので、特にこれからの活動に注目しています!