今年で75回目となるトニー賞。今回は、最多11部門でのノミネートで話題の『A Strange Loop』、マイケルジャクソンの人生を描いた『MJ』、そしてボブ・ディランの楽曲を使ったジュークボックスミュージカル『Girl From the North Country』についてお届けします。

“自分とは何者か”。普遍的な問いに向き合う『A Strange Loop』

『A Strange Loop』は本作の脚本・作詞・作曲を務めるマイケル・R・ジャクソンの半自叙伝的なミュージカルです。2019年にオフ・ブロードウェイで初演、2020年にはピューリッツァー賞を受賞しました。

本作品は、『ライオンキング』を上演している劇場で案内係をしながらミュージカル作家を目指している、黒人・ゲイ・肥満体型な主人公アッシャーの物語。「自分とは一体何者か」という問いが投げかけられます。
商業ミュージカルを好まないのに、家族をライオンキングに登場するキャラクターの名前で呼んでいるという設定など、ユーモラスな脚本が特徴です。

本作は、ミュージカル作品賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、演出賞、装置デザイン賞、照明デザイン賞、音響デザイン賞、オリジナル楽曲賞、オーケストラ編曲賞と最多11部門でのノミネート。昨年は『ムーラン・ルージュ』が14部門ノミネート、最多10部門で受賞しました。『A Strange Loop』は、昨年の『ムーラン・ルージュ』を超えてノミネートされた全11部門で受賞なるか、注目です。

ジュークボックス・ミュージカルが2作品 『MJ』&『Girl from the North Country』

今年のトニー賞には、ジュークボックス・ミュージカルが2作品ノミネート。ジュークボックス・ミュージカルとは、ミュージカルの作品用に書き下ろされた曲ではなく、既存の楽曲を使ったミュージカルを指します。ABBAの楽曲をベースとした『MAMMA MIA!』はジュークボックス・ミュージカルの代表と言えるでしょう。

1作品目は、キング・オブ・ポップとして世界中を熱狂させたマイケル・ジャクソンの半生を描いた作品『MJ』。
本作は、ミュージカル作品賞、主演男優賞、脚本賞、演出賞、装置デザイン賞、衣装デザイン賞、照明デザイン賞、音響デザイン賞、振付賞、オーケストラ編曲賞と10部門にノミネートされています。

本作は、デンジャラス・ワールド・ツアーのあった、1992年までのマイケルの人生を振り返る物語。楽曲はヒット曲を中心に39曲も披露されるそう。「スリラー」では、父親役の俳優がマイケルを襲うゾンビのリーダーになるなど、マイケルが父に愛されていないという気持ちに苦しめられ、心に大きな傷が残ったことを仄めかします。また、マイケル役は幼少期・青年期・大人と3人の俳優によって演じられます。

脚本を務めるリン・ノッテージは、コンゴ国民共和国の内戦を舞台に戦闘で生き残った女性を描いた『Ruined』、そして現代アメリカの分断を描いた作品『SWEAT』で女性では唯一戯曲部門で2度ピューリッツァー賞を受賞しました。『SWEAT』は2019年に青年座によって日本でも上演されています。トニー賞では授賞式の表彰の合間にパフォーマンスが行われます。MJチームが参加するなら、MJの楽曲で大盛り上がりになるかも?!

2作品目は、ボブ・ディランが1960年代に発表した楽曲を用いてオリジナルストーリーでおくる『Girl from the North Country』。ロンドンでの上演で高評価を得て、ブロードウェイに上陸しました。本作は、ミュージカル作品賞、主演女優賞、助演女優賞、脚本賞、演出賞、音響デザイン賞、オーケストラ編曲賞の7部門にノミネート。

1934年、世界恐慌真っ只中のミネソタ州の田舎町の下宿を経営している一家の話。主人のニックは借金を抱えており、妻のエリザベスは認知症、娘のメリアンはどうやら妊娠している様子。下宿には、聖書売りの牧師、ボクサー、学習障害の息子を抱える夫婦や、ニックの愛人が暮らしており、状況は複雑。失意の中にも希望を見出そうと逞しく生きる人々が描かれています。
ディランの曲は本作中で全20曲使われていて、楽曲は物語の流れに合わせてではなく、象徴的な使われ方をされているそうで、楽曲には新しい文脈が与えられています。

トニー賞の授賞式の様子は6月13日(月)午前8時からWOWWOWにて生中継されます。詳しくはこちら

ミワ

同じジュークボックスミュージカルでも、楽曲の使い方が全く違うというのは面白いですね。授賞式直前トニー賞ノミネート作品特集、次回もお楽しみに!