2020年のコロナ禍に、ミュージカル俳優・西川大貴さんによって構想され、2021年にはポエトリーリーディング、ワークショップ公演など、様々な形で発表してきた『雨が止まない世界なら』。今回はコンセプトアルバムとして6月30日に発売されます。いち早くアルバムを聴いた筆者の個人的レビューをお届けします!

コロナ禍で止まってしまった世界を表現した『雨が止まない世界なら』

2020年、コロナ禍で演劇界が公演中止などに追い込まれてしまった時、始まったのが『雨が止まない世界なら』の企画。ミュージカル俳優・西川大貴さんの「”世界が止まってしまった”状況下の、花屋さんや傘屋さんなど様々な職業の人の歌を繋げて、ソングサイクルを作れないかな?」という呟きから生まれたそう。

ロックダウンで“世界が止まってしまった”状況を、“雨が止まない世界”と表現した『雨が止まない世界なら』。今回のコンセプトCDは、作詞を西川大貴さん、作曲を桑原あいさん、そして豪華な20名のキャストのみなさんでお届けします。CDについての詳しい記事はこちら

「雨」を楽しむ主人公、「雨」に悲痛な思いを託す主人公。みんなひとりだけれど、みんな仲間。

「海に潜ったクジラ」「空に飛ばす手紙」(田村芽実さん)は同じ少女が主人公の曲になっています。「海に潜ったクジラ」の時には、曲の最後の方で女性の声がして、病院かどこかの施設にいるのだなと思って聞いていると、M15で少女は病院にいることが分かるという構成になっていました。

ポエトリーリーディングでは、ミュージカル俳優・熊谷彩春さんが朗読を担当。熊谷さんが演じる少女は幼い頃から病弱で入院していて読書が趣味の少女といったイメージ。一方、今回のコンセプトアルバムで歌唱を担当した田村芽実さん演じる少女は無邪気で好奇心の強いキャラクター。空想が好きな少女の印象で、病院のベッドから抜け出してしまいそうです。木琴で弾かれている伴奏のキラキラした印象と、田村さん演じる少女のワクワク感がこちらにも伝わってきます。

人々が、雨の止まない世界を怖がっている中で、「海に潜ったクジラ」で登場する時には唯一雨にワクワクしていたり、「空に飛ばす手紙」では“頑張らなくていいから生きててほしいです”と真っ直ぐに言葉にしたりと、少女の素直さが際立って伝わってきました。

「東京漂流」(咲妃みゆさん)は、ポエトリーリーディングでは、南沢奈央さんによって、本音がつい漏れ出てしまったように読まれていてとても好きだった作品。今の時代、声を上げることは確かに重要だけど、“もう進みたくも変わりたくもないの本音は 変わってしまう事が多すぎて アップデート機能は結構です 私は私のままじゃダメですか”という主人公の想いが語られます。

今回詩に音楽が加わり、伴奏の強弱によって、彼女の中の本音と建前の部分が表されている印象を受けました。芯のある咲妃みゆさんの声で歌われた「東京漂流」は、ポエトリーリーディングで聞いた時よりも、より切実な叫びに心が揺すぶられ、一層好きな作品になりました。


それぞれの楽曲を1つのアルバムとして通して聴く中で、曲の所々で入るラジオが、誰もが同じ時を共有していることを強調しているように感じました。今、世界は降り止まない雨に包まれているけれど、みんな同じ状況にいるのだなと思ったところで、全出演者によるM19「世界は変わってない」が流れ、“僕らはひとり きっとひとりだ なんてひどいことだろう でも仲間だね”とキャストたちが歌います。

音と声を頼りに想像していく楽しみ

前奏のメロディを頼りに、“この曲は怪しい感じがする”“これはデュエットかも”と考えたり、どなたが歌っているか想像したりする時間も楽しく、CDならではだと思いました。また、CDという形で届けられているからこそ、私たち観客には、曲の主人公たちが、どのような状況でその歌を歌っているのかを想像する余地が残されています。ソングサイクル・ミュージカルという、まだ日本では新しい形のミュージカルを提示していく上で、観客に委ねて想像してもらう部分が大きいことは、良かったのではないかと思います。

西川さんは、「コロナ禍の空気感を俳優も観客も体感しているうちに形に残すため、そして、多くの人に作品を届けられるようにCDの形をとった」と言います。CDのジャケットやブックレットにも凝って作られているそう。手に取るものだから、紙で作っていて、「紙の質感の変化も含めて、数年後に振り返った時に「あの時はこんな空気感だったな」と思い出してもらえるような作品にしたい」というコメントが印象的でした。


ソングサイクル・ミュージカル『雨が止まない世界なら』コンセプトアルバムはこちらから。

ミワ

曲を聞いて、どういう話なんだろうとポエトリーリーディングを聞きに行った曲も。リーディングと、曲が付いたものとでは、俳優が違うこともあり、全く別の印象を受けました。CDだと気に入った曲を何度も聞き返せるのが良いところです!