Bunkamuraシアターコクーンにて、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんの新作が上演されます。同劇場では2017年の『陥没』以来、5年ぶりのKERAさん作品。出演者には、瀬戸康史さんや松雪泰子さんをはじめ、千葉雄大さん、伊藤沙莉さん、ラサール石井さんなど、注目の若手からベテランまで実力派キャストが名を連ねています。今回は東京と京都で上演される注目作『世界は笑う』に着目します。

喜劇役者が織りなす、「喜劇だけではない」人間ドラマ

『世界は笑う』の公式HPでは、現在下記のようにイントロダクションが公開されています。

舞台は、昭和30年代初頭の東京・新宿。敗戦から10年強の月日が流れ、巷に「もはや戦後ではない」というフレーズが飛び交い、“太陽族”と呼ばれる若者の出現など解放感に活気づく人々の一方で、戦争の傷跡から立ち上がれぬ人間がそこかしこに蠢く…。(中略) 戦前から舞台や映画で人気を博しながらも、時代の流れによる世相の変化と自身の衰え、そして若手の台頭に、内心不安を抱えるベテラン喜劇俳優たち。新しい笑いを求めながらもままならぬ若手コメディアンたちなど、混沌とした時代を生きる喜劇人と、彼らを取り巻く人々が、高度経済成長前夜の新宿という街で織りなす、哀しくて可笑しい群像劇。

Bunkamuraシアターコクーン『世界は笑う』公式HP, 2022

戦争から立ち上がろうとする者や、急速な時代の変化に戸惑ってしまう者、KERAさんが描く喜劇役者の人間ドラマ…ということで、一筋縄ではいかない物語になっていると思われます。

かつてブームも巻き起こした「昭和30年代」はどんな時代?

KERAさんといえば、昭和の東京をモチーフとして発表された「昭和三部作」に代表されるように、「昭和」という時代に関して深い愛情を公言されています。世間的にも「昭和30年代ブーム」として、1990年代より注目され始め、2005年公開の映画『ALWAYS 三丁目の夕日』が引き金となり、大きな盛り上がりをみせました。では、今回の舞台でもあり、多くの人々の関心を惹きつける「昭和30年代」とはどのような時代だったのでしょうか。

昭和31年の経済白書で記された「もはや戦後ではない」という言葉が一大流行語となった通り、農村から都市部への大量の人口移動や若者の集団就職が起きました。都市部では人口増加に伴った団地の建設が進み、新たな暮らしのスタイルが生まれ、生活面では「三種の神器」という言葉に代表されるように消費に対する考えも大きく変化。テレビや音楽などでは都会の華やかなイメージが訴求され、人々は都会への夢や憧れを増幅させていきました。加えて、昭和 34 年の皇太子がご成婚され、昭和 39 年の東京オリンピックなど国家的なイベントも開催。日本全体が一体感に満ち溢れた時代だったと考えられています。

当時を過ごしていた喜劇人についてKERAさんは『世界は笑う』の公式HPにて、「もちろん例外はあろうが、かつて、昭和のあの頃、笑いを生業にしていた人なんてのは、皆どこか常軌を逸していた」とコメントされています。そんな日本の大きな過渡期でもがく人々の力強さや葛藤は、今とはまた違った考えであったのではないか。特に世相を色濃く映し出すエンタメ界で生きた人々の感覚はより鋭いものであったのではと感じてしまいます。

『世界は笑う』は8月7日からBunkamuraシアターコクーンにて上演予定。『世界は笑う』のチケット購入はこちら

おむ

今回の舞台で登場する激動の時代を生きた喜劇人たちは、現代で生きる私たちに対してどんなメッセージをくれるのか、今から上演が非常に楽しみです。