モーツァルト作曲の名作オペラ『フィガロの結婚』。井上道義総監督・指揮、野田秀樹演出による上演は、オペラと演劇をいいとこ取りした、贅沢な舞台でした。(2020年11月・東京芸術劇場コンサートホール)
フィガロがフィガ郎? 遊び心満載の仕掛け
最大の特徴は、物語の舞台を幕末の長崎に読み替えたこと。外国人と日本人の文化の対立という設定を暗喩し、日本語と外国語、それぞれの想いを自国の言葉で歌い上げることで演出にメリハリをつけ、文化の違いまで浮き上がるという仕掛けです。
役名もフィガロは「フィガ郎」、婚約者のスザンナは「スザ女」と、外国人と日本人の区別を分かりやすく表現。さらに庭師がストーリーテラーとなり、観客や、指揮を振るう井上監督にまで(!)語りかけ、オペラビギナーも楽しめる工夫があちこちに。野田秀樹らしい遊び心が満載です。
超贅沢なラブコメ『フィガロの結婚』
物語は、スザ女の新婚初夜を奪おうともくろむ伯爵の陰謀と、それを防ごうと奮闘するフィガ郎、スザ女の話を軸に、横恋慕、冷えた夫婦愛、思春期の衝動と、恋のトラブルが次々に巻き起こります。その盛り沢山の内容を上質なオペラで歌い上げることで、ともすれば下世話になりかねない内容を華やかに昇華しており、質も量も兼ね備えた、まさに「贅沢なラブコメ」とも言える高い普遍性に達しています。
それを見事に表現するキャスト陣も素晴らしく、特にスザ女役の小林沙羅さんは、賢くたくましいスザ女像を見事なオペラで歌い上げ、チャーミングな魅力で舞台の空気を作り上げていました。
演劇的なアイデアが満載、それにしっかりと応えるオペラと生演奏。
初心者からオペラファンまで、誰もが楽しめる、オペラの古典を現代に蘇らせた圧巻の舞台でした。