『オズの魔法使』や『スタア誕生』で知られるミュージカル女優・ジュディ・ガーランド。その愛らしさと生まれ持った才能で、小さいときからステージで活躍をしていました。今回は、そんな彼女の苦悩を描いた映画『ジュディ 虹の彼方に』(2019)をご紹介します。
“才能”という苦悩
2歳から舞台に立たされていたというジュディ・ガーランド(以下、ジュディ)は、3姉妹の末っ子として1922年に生まれました。ショービジネスで、生計を立てていたピアノ弾きの母と歌手の父。3姉妹のなかで、もっとも才能を発揮していたのがジュディでした。
しかし、その生まれもった才能が、家族をバラバラにしてしまいます。その才能は、母のステージママっぷり(子供に過度のプレッシャーを与えながら芸能をサポートする母を指す)に拍車をかけ、ジュディを苦しめる存在に。
その後、『オズの魔法使』のドロシー役になったことで、まだ少女だったジュディはトップスターという過酷な運命を辿ることになりました。体型維持や、寝ることも許されないハードなスケジュールのために、薬を飲まされ続けます。サポートしてくれるはずの母は会社と結託し、娘に自由を与えません。
本作は、そんな幼少期から大人になるまでのトラウマを抱え、ステージを憎み、それでもステージを愛したジュディが描かれています。
スポットライトが、希望の光だった
映画『ジュディ 虹の彼方に』の舞台は1968年。大人たちに薬づけにされ、トラウマを抱えたジュディは子供を連れ、彷徨っていました。家もなく、お金も底をついてしまったジュディ。愛する子供たちを元夫に預けることにしました。子供たちと再び生活を共にするため、ロンドンでの仕事を受けます。ジュディは、無事にショーを成し遂げ、子供たちと暮らせるようになるのでしょうか…。
ときに哀しく、ときに美しく、観客を魅了するジュディのショーは圧巻のシーンです。
レネー・ゼルウィガーの圧倒的な演技
本作の見どころといえば、なんと言っても第92回アカデミー賞で主演女優賞を獲得したレネー・ゼルウィガーの素晴らしい演技。歌も代役を使わず、歌唱力を見せつけました。
レネー・ゼルウィガーというと『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)の愛されキャラのイメージが強い筆者。今作での真逆なキャラクターの熱演ぶりには感動してしまいました。
特に、ショーのシーンで見せた、精神的に不安定なジュディの痛みは観ているこちらにも伝わるほど。良いことがあった日には、嬉しい曲を、嫌なことがあった日には、悲しい曲を。
ジュディの、圧倒的な美しい歌声とともに流れる歌詞の字幕には、思わず目がうるっと。特に名曲でもある「オーバー・ザ・レインボー / 虹の彼方に」を歌うシーンは本作のクライマックスです。
才能に恵まれながらも、その才能に苦しめられ、痛みを味わったジュディ。彼女が身をもって話す言葉には、深みがあります。
大切なことは、目標に辿り着くことではなくそこまでの道のり。もっと言えばコツコツと歩くその日々だけで十分なのだということを、ジュディは教えてくれました。
トップスターから一転、お騒がせ女優として嫌われ者になってしまったというジュディ。レネー・ゼルウィガーは、そんなジュディのゴシップ的な一面ではなく、ありのままの人間的なジュディへの敬意をもって演じたのだそうです。 作品を見終わって、ハリウッドで活躍した子役スターを思い出しました。例外なく、どのスターも破滅に向かっていた歴史を見ると、ショービジネスで働く子供に与える影響は大きいんだなと感じます。身も心も苦悩を抱えながら挑んだ作品を、これからも大切に見続けたいと思いました。