歴史ある宝塚歌劇団が贈る、LDH JAPANとの刺激的なコラボレーション。LDHが手がける人気コンテンツ『HiGH&LOW』シリーズの前日譚を描き、劇中歌を使用した、注目の舞台を観劇しました。(2022年9月・宝塚大劇場 宙組公演)※以下、若干のネタバレを含みます。

宝塚歌劇団×LDH JAPANのコラボレーション、『HiGH&LOW -THE PREQUEL-』のあらすじについてはこちらの記事でもご紹介しています。

ハイローシリーズから初の舞台作品!『HiGH&LOW -THE PREQUEL-』

LDH JAPANが手がける『HiGH & LOW』シリーズ(通称:ハイロー)。「SWORD」と呼ばれる地区を舞台に、グループ同士の抗争と絆を描いた、壮大なアクション大作群です。各グループのテーマ曲やストーリー展開の型があり、個性的なキャラクターとともにハイローらしい世界観が愛されています。

その前日譚となる宝塚歌劇の宙組公演『HiGH&LOW -THE PREQUEL-』では、ハイローの型を押さえつつ、「山王連合会」リーダーのコブラに焦点を当て、これまでになかったラブロマンスが加えられました。山王の仲間には内緒で、幼なじみの女性カナに振り回されるコブラの姿は、ハイローの世界観に新鮮な風を吹かせます。2人の関係は本作中で完結するので、ハイローを全く知らない方にも分かりやすいストーリー。舞台装置やミュージカルナンバーで宝塚の強みを活かしつつ、ハイローの世界観を最大限に表した舞台でした。

『HiGH& LOW』シリーズの原作を知っているとより楽しめる!その真意は?

ハイロー要素とタカラヅカ要素がてんこ盛り、なこの舞台。1時間35分の上演時間で、ロマンス、ハイロー、タカラヅカ!と慌ただしく展開します。ところどころで生じる脈絡のなさは否めませんが、原作に寄せたキャラクター、セリフ、アイテム、楽曲などの再現性の高さが舞台作品としての充実感をカバー。出演者は原作を研究して、再現性にかなりこだわっているそうなので、ハイローに詳しい方ほど、多くの見どころを発見できると思います。

本家ハイローとの共通点を見つけるのはもちろんのこと、「タカラヅカ化」した原作キャラクターの可笑しさにツッコミを入れながら鑑賞することができるのも、ハイローを知っていればこそ。筆者は『HiGH&LOW THE MOVIE』で予習したまでの初心者でしたが、それでも充分楽しむことができました。原作を知らなくても物語についていくことはできます。ただ、宝塚×LDHコラボレーションの魅力を味わうという意味では、できる限りの予習をオススメしたいと思います。

人気の挿入歌による生歌パフォーマンスも!宝塚らしさとLDHらしさが共存するミュージカルナンバーの数々

『HiGH&LOW』シリーズの人気を支える劇中歌も多数登場しています。疾走感のあるハイローのテーマ曲「Higher Ground」がかかると、舞台上のボルテージは上昇。全て生歌唱、生オーケストラ演奏に事前収録の打ち込み音を合わせての上演です。宙組自慢のコーラス力によって、LDHの楽曲が迫力のミュージカルナンバーにアップデートされていました。

各組のテーマ曲も、原作ではBGM的立ち位置ですが、宝塚版ではチームのメンバーで歌い上げ、見応えあるパフォーマンスを披露。原作以上に意味を持たせている曲もあり、作品の理解を深められるような化学反応さえ感じました。

宝塚版で使われている原作楽曲は次の通りです。
「Higher Ground」
「Do or Die」 山王連合会
「Whiteout」 White Rascals
「Run This Town」 Rude Boys
「Voice of Red feat. GS」 達磨一家
「Strawberry サディスティック」 苺美瑠狂
※「鬼邪高校」のテーマ曲は著作権上の都合で宝塚オリジナルの楽曲です。

この他、宝塚側で書き下ろした新曲も多数。ビートが効いたLDHサウンドとの一貫性まではないものの、宝塚らしいミュージカルナンバーの数々でした。コブラとカナが1日を大切に生きようと歌う「One Day, One Life Time」は宝塚版のハイローを象徴する1曲として、作品の核になっています。

宝塚の特殊性だからこそ実現した「HiGH&LOW」の舞台化

観劇して改めて、ハイローの舞台化は宝塚歌劇以外の選択肢はなかっただろう、と思いました。理由は2つ、専用劇場の舞台機構が活かせることと、女性劇団という特殊性があることです。

舞台機構の点では、盆、セリ、大階段という宝塚の舞台に欠かせない装置と、映像を活用して、原作のスケールの大きさやダイナミックさを表現した点が見事でした。例えば、コブラにとって大切な場所であるアーケードの上からの景色は、舞台の床が上下するセリを最大に引き上げることで高さを演出。映画でスピーディーなカメラワークで見せた乱闘シーンは、舞台床が回転する盆を回して転換。映像作品とは違う手法ながら、躍動感ある場面展開ができたのは、宝塚ならではの舞台機構の効果が大きかったです。

もうひとつの点は、出演者が全て女性という虚構性の高さ。特に格闘の動作が続くとその効果が発揮されているように感じます。原作ハイローの見どころでもあるアクションシーンは、映像作品ならではの「編集された迫力」があります。観客の視点が固定されてしまう舞台では、どんなに体当たりの乱闘が繰り広げられても、映像の見応えには敵いません。ハイローの豪華な歴代出演者で舞台化をしたとしても、その壁は乗り越えられない。それが舞台化の難しいところです。

ところが、宝塚歌劇での舞台化ならば「女性が演じる男性」という虚構の力を借りることができます。映像の印象が強い作品こそ、舞台上は別次元のものとしてすんなり受け入れられる。それが100年続く劇団の強みなのだと、宝塚歌劇の無限の可能性を感じさせられました。

宙組、宝塚大劇場公演『HiGH&LOW -THE PREQUEL-』/『Capricciosa(カプリチョーザ)!!』は宝塚公演、東京公演ともに前売りチケットは完売。9月26日(月)の宝塚大劇場での千秋楽公演のライブ配信、映画館でのライブ中継が実施されます。ご興味がありましたら、予習のうえご覧になってみてはいかがでしょうか?

ライブ中継、映画館でのライブビューイングについて、詳細はこちらのサイトをご覧ください。東京公演は2022年10月15日(土)から11月20日(日)まで実施されます。公演日程などの詳細は公式サイトをご確認ください。

Sasha

観劇してからというもの、ハイローのことも、宙組のことも、もっと知りたい・・・と完全に両者の魅力に完敗しております。特に、今回は『Capricciosa!!』というショー作品と2本立ての上演。クラシカルで宝塚らしい世界観のショーは、まるで30分前まで背中を丸めてオラついていた役者勢と同じメンバーだとはとても思えず、タカラジェンヌのなりきり力に舌を巻いた筆者なのでした。