10月1日(土)に舞台『アルキメデスの大戦』が東京・シアタークリエで開幕します。同名の漫画が原作で、2019年には映画化もされた人気作品。社会的な問題をテーマにした作品を世に送り続けている劇団チョコレートケーキのクリエイター陣が、今回は1930年代、第二次世界大戦前の日本の海軍の様子を舞台に立ち上げます。
戦艦大和建造をめぐって繰り広げられる攻防戦
『アルキメデスの大戦』の作者は『ドラゴン桜』や『インベスターZ』を生み出した、漫画家の三田紀房(みたのりふさ)さん。数学者の視点から第二次世界大戦を描くという、かつてない切り口の漫画『アルキメデスの大戦』。2019年夏には菅田将暉さん主演で映画化され、大きな話題となりました。
この度、舞台化にあたって脚本と演出を手掛けるのは、読売演劇大賞をはじめ数々の演劇賞を受賞し、いま演劇界が最も注目する劇団のひとつ、劇団チョコレートケーキのクリエイター陣。緻密な調査に基づき史実に隠されたドラマを描く古川健の脚本と、人間の心情を丁寧に描く日澤雄介さんの演出によって、舞台『アルキメデスの大戦』が劇場に立ち上がります。
『アルキメデスの大戦』で描かれているのは、第二次世界大戦前の日本の海軍の様子。1933年、日本は軍事拡大を進めていました。
戦意高揚を狙う海軍省は、その象徴にふさわしい世界最大級の戦艦を建造する計画を秘密裏に進めています。しかし、第一航空戦隊司令官の山本五十六海軍少将は、必要なのは大きな戦艦ではなく航空空母であると考えていました。
山本は、巨大戦艦建造派の海軍少将・嶋田繁太郎と対立。『新型戦艦建造計画会議』において発表された、嶋田派の造船中将・平山忠道が計画する大型戦艦の建造費が、異常に安く見積もられていることに気がつきます。不正を暴くため、協力者を探す山本。
そこで白羽の矢が立ったのが、100年に1人の天才と言われる元帝国大学の数学者・櫂直(かいただし)でした。しかし、軍を嫌い数学を偏愛する櫂は協力を拒みます。そんな櫂を突き動かしたのは、巨大戦艦建造によって大戦が加速しかねないことへの危機感と、戦争を止めなければならないという使命感でした。
櫂は意を翻し、帝国海軍という巨大な権力との戦いに飛び込んでいきます。
刻一刻と迫る決戦会議の日…。
櫂は、平山が主張する大型戦艦の建造費に隠された嘘を暴く数式に辿り着くことはできるのでしょうか。天才数学者VS帝国海軍、前代未聞の頭脳戦が始まります。
当時の贅沢品冷房やエレベーターも搭載!? 史上最大の戦艦大和
『アルキメデスの大戦』は、戦艦大和建造をめぐって繰り広げられる物語です。櫂が予算の不正見積もりを暴くことになった大型戦艦「大和」。
作中で櫂は、「大和」が戦争を加速させてしまう可能性と、自身が引いた図面で、その美しさを目の当たりにしたことで心が揺らぐ瞬間があります。実際の大和は、どのようなものだったのでしょうか。
第一次世界大戦後、日本は海軍軍縮条約が締結され、日本海軍の装備はアメリカ・イギリスの6〜7割までとすることが決定されました。そこで海軍が考えたのは、戦艦の数ではなく、性能で勝負すること。そして、第二次世界大戦当時造られたのが、世界最大の46センチ主砲を搭載する戦艦大和でした。主砲の威力は、30km離れた位置からでも戦艦を貫くほど!
敵弾を防ぐために船体に張り巡らされている鋼鉄板(装甲)も特殊。甲板を防御するものは23cm、船体側面は41cmと、とても分厚い鉄板で固められており、文字通り鉄壁を誇っていました。船首は波の抵抗を打ち消す作りになっていて、馬力を節約し、航続距離を増大させる働きが。
また、艦内設備と居住環境も抜群で「ヤマトホテル」とも呼ばれた「大和」。当時は病院や百貨店にしかなく、贅沢品だった冷房も、大和には弾薬庫を安全に守るために搭載されていました。そのため、冷房設備が冷蔵庫や居住空間でも使用できたり、手動運転ではあったもののエレベーターもついていたそうです!
帝国海軍のシンボルであり、史上最強で最大の戦艦であった大和。最後の任務は、沖縄戦の不利な戦争状況の挽回でした。片道分だけの燃料を積んで戦線に突撃し、意図的に座礁して戦い、弾薬が切れたら乗組員が歩兵として突撃する特攻作戦でした。
1945年4月7日、沖縄へ向けて航行中に数多くのアメリカ海軍空母機からの攻撃を受けた結果、沈没。3,000名以上の乗船員とともに海の底へと沈んでいきました。
映画『アルキメデスの大戦』も、舞台版も、時代背景や「大和」のその後を知ってから観ると、より多くのことを考えさせられる作品になっています。
舞台『アルキメデスの大戦』は10月1日(土)〜10月17日(月)東京・シアタークリエで上演。その後全国ツアーが予定されています。公式HPはこちら。
映画では櫂がひたすら部屋にこもって計算をしていたり、船のあらゆる長さを手動で測ったりと、映像だからこそ出来る細やかな動きが多い印象でした。舞台版では、それがどのように演出されるのか注目です!