2007年にトニー賞を8部門受賞したロック・ミュージカル『春のめざめ』。2009年には劇団四季でも上演され、話題となりました。戯曲は今から100年以上も前、1891年に書かれたもの。7月には、浅草九劇での上演が決定しています。『春のめざめ』が時を超えて、今も上演され続ける理由を見ていきましょう。

センセーショナル、問題作…。世の中の世相を映しだす『春のめざめ』

『春のめざめ』はドイツ人の劇作家フランク・ヴェデキントによって1891年に書かれた戯曲。19世紀、産業革命によって急速な成長を遂げたヨーロッパの社会を背景に、時代の歪みによって抑圧された少年少女たちの姿を赤裸々に描いた作品です。

“社会の抑圧に押し潰される子どもたち”、そして“性へのめざめ”を真っ直ぐに描いている本作は「問題作」とのレッテルを貼られ、上演までに15年もの歳月を費やしました。しかも上演は、「過激」と判断された複数のシーンがカットされた状態で行われました。現在までの約100年間の間にも、上演される度に世の中の世相を写す鏡かのように、評価が二転三転してきた珍しい作品です。

その後、ロック・ミュージカルとして2006年〜2009年までブロードウェイで上演、2007年の第61回トニー賞でミュージカル作品賞をはじめとする8部門で受賞しました。日本では、ミュージカル版として、劇団四季が、2009年〜2010年に上演、ストレートプレイとして、2017年と2019年に白石晃さんの演出で上演されました。


劇団四季では上演当時、「センセーショナル」な作品、「異色のロックミュージカル」と言われた本作。主演を演じたのは、『ブラッド・ブラザーズ』や11月には『東京ラブストーリー』への出演が決まっている柿澤勇人さんでした。若手俳優たちを起用し、ミュージカルには珍しくハンドマイクやスタンドマイクが使用されたり、舞台上の上手・下手に“ステージシート”と呼ばれる客席があり、アンサンブルも実はその席に座っていて、コーラスでいきなりマイクを持って歌う、というような演出が話題となりました。

抑圧された少年少女たちの姿をストレートに表現

本作は、19世紀末のドイツが舞台。思春期真っ只中の10代の少年少女の姿が描かれています。

ギムナジウム(9年制の学校)で規則・成績ともに厳しく、退屈な学校生活を送っているメルキオールとモリッツたち。学校では知識を詰め込まれるだけで、生徒は自分たち自身で考えることを許されていません。優秀なメルキオールは理不尽な教師や、矛盾する宗教観に不満を覚えています。一方、モリッツは落第の危機を抱えています。更に、ある「悪夢」に悩まされていて余計に勉強に身が入りません…。

ヴェンドラは自分の姉に二人目の子供が生まれることを知り、母に「赤ちゃんはどうしたらできるの?」と聞いても「コウノトリが運んでくるのよ」とはぐらかされるばかり。衝動を抑える方法を知らない少年たちと、無知な少女たち。子供達を抑圧する大人が引き起こした悲劇の物語です。

虐待、大人から子供への抑圧、妊娠・中絶、正しい性教育の必要性など、数世紀前の作品でも現代に通じる問題が描かれています。今から100年以上も前に書かれた戯曲が現在も上演される理由の1つには、現代にも通じる教育の課題が描かれていることがあるでしょう。

本格的なミュージカルを小劇場の距離感で

浅草九劇が行っている九劇ミュージカル企画は、本格的なミュージカルを小劇場の距離感で楽しめる企画として昨年始まりました。第一弾はオフ・ブロードウェイミュージカル『キッド・ヴィクトリー』を上演。今回第二弾として『春のめざめ』を上演します。本作の演出を務めるのは、第一弾から引き続き奥山寛さん。ミュージカル『エリザベート』や『モーツァルト』等で俳優としても活躍しています。

九劇ミュージカル版の『春のめざめ』は、ワークショップオーディションを経て選ばれた、実力ある若手ミュージカル俳優たちを迎えての公演となります。全配役ダブルキャストでの上演です。主役のメルヒオール役は、ミュージカル『エリザベート』の少年ルドルフ役でデビューし、『メリーポピンズ』に出演中の石川新太さんと、映像から2.5次元舞台にミュージカルと幅広く活躍されている平松來馬さんが務めます。ヒロインのヴェンドラ役には、ミュージカル『アニー』のアニーなど幼少期からミュージカルで活躍されている栗原沙也加さん。また、幼少期から映像作品に舞台にと活動してきた北村沙羅さんが決まっています。

ミュージカル『春のめざめ』は、7月12日(火)〜7月31日(日)浅草九劇にて上演です。7月12日(火)と13日(水)はプレビュー公演となります。また、本公演はダブルチーム制のため、日程表をご確認ください。公式HPはこちら

ミワ

演出家によって全く違う作りになる作品なので、今回の浅草九劇版のミュージカル『春のめざめ』はどのような演出が施されるのか楽しみです。