ローレンス・オリヴィエ賞受賞演出家のドミニク・クックが C・P・テイラーの戯曲をリバイバル上演し、ローレンス・オリヴィエ賞ベストリバイバル賞をはじめ 4 部門ノミネートされた話題作『GOOD』。1930年代のドイツを舞台に、“善き人”であるジョン・ハルダー教授が時代の荒波とともに徐々に変化していく様子を描いた作品です。日本版の『GOOD』-善き人-は演出に長塚圭史さん、主演に佐藤隆太さんを迎え、4月6日から世田谷パブリックシアターで幕を開けます。上演前に行われた初日前会見と公開フォトコールの様子をお届けします。

激流の時代の中で生きる「人間のおかしさ」を音楽と共に表現

舞台はヒトラー独裁が進む 1930 年代のドイツ。善良で知的な“善き人”ジョン・ハルダー教授が、過去に書いた論文を読んだヒトラーに気に入られたことをきっかけに、自身の意図とは関係なくナチスに取り込まれ、人生が変化していく様を描きます。

演出を務めるのは、数々の受賞歴を持ち、2021 年には KAAT 神奈川芸術劇場芸術監督に就任した長塚圭史さん。ジョン・ハルダー教授を佐藤隆太さんが演じます。

撮影:山本春花

初日前会見には本作に出演する佐藤隆太さん、萩原聖人さん、野波麻帆さん、藤野涼子さん、北川拓実さん、那須佐代子さんが登壇しました。

ドミニク・クック演出のリバイバル上演版はNTLiveで日本の映画館でも上映され、シンプルなセットと3人の俳優のみで構成された大胆な演出が話題となりました。今回の長塚圭史さん演出版の『GOOD』について佐藤隆太さんは、「生バンドが舞台上にいる、その力は強いと思います。この作品は舞台上がハルダーの頭の中のような描き方をしていて、ハルダーに音楽というのが密接に寄り添っているので。シーンによっては音楽が物語の流れと対極にあることもあるんですけれど、それなのにその曲が流れることによって物語をお客さんに届けやすくなるということがあって、演じていて面白いなと。演劇という生で届けるフィールドにおいて、豊かな演劇の力を感じる瞬間です」と魅力を語ります。

また「人間のおかしさというものを露わにした作品なので、時代は違えど皆さんに大きく共感していただけると思う。ぜひリラックスして劇場に足を運んでもらいたい」とアピール。

ハルダーの親友でありユダヤ人の精神科医モーリスを演じる萩原聖人さんは、「青臭いですけれど、みんなで努力して創り上げてきた」と本作への想いを語ります。モーリスについて「めちゃくちゃカッコいい歌を披露します」と佐藤さんが触れると、萩原さんは「僕の歌を楽しみにしていてください、みたいなことは口が裂けても言えない。そういうのじゃないです、やめてください本当に!」とアピールを辞退?!ただ佐藤さんは「僕は凄く楽しみにしているというのは書いて良いですから!」と記者に向けてアピールしてくださいました。

ハルダーの妻ヘレンを演じる野波麻帆さんは「台本をいただいた時は難しい作品だと思ったんですけれど、稽古場で皆さんと読み解いていく中で、とても幸せな時間を過ごせました。ぎゅぎゅっと濃い時間を楽しみながら稽古が進んで、あっという間に今日になってしまって、お客様がこれからどう感じていただけるか楽しみ」と稽古期間を振り返ります。

ハルダーの教え子である女子学生アンを演じるのは、藤野涼子さん。「お客さんとの対話によって私たちの役がどうなっていくのかすごく楽しみでもあり恐怖でもあるんですけど、このカンパニーで楽しく冒険をできたら良いなと思います」と本番に向けての意気込みを語りました。

北川拓実さんはナチス党の事務官をはじめとする3役を演じます。「複数役を演じること、何よりこんな豪華なキャストの皆さんと作品を作り上げていくことはプレッシャーで、僕なんかで大丈夫かなと思ったりもしたんですけれど、皆さんのお芝居をしている姿を見て学ぶことだったり、演出家の長塚さんからご指導頂いて、良い経験であり時間だと感じています」と本作への想いをコメント。

また北川さんは持ち前の歌唱力を活かしたシーンもあり、「挑戦したことのないジャンルの歌なので、苦戦はしたんですけれど。バランスボールでお腹を毎日鍛えて、良い声を出せるように備えてきたので、ぜひ楽しみにしていただけたら」と自信を覗かせました。

ハルダーの母親を演じる那須佐代子さんは、「台本をもらった時の“とても難しい大変な戯曲なんじゃないか”という印象と、今我々が取り組んでいる作品の抱えている印象がとても違う」と印象の変化を語ります。「テーマは重たいのですが、明るく楽しく素敵な作品になっているなというギャップをしみじみ感じています。稽古場は本当に笑いが絶えなくて、たくさん笑って稽古をしてきました。明日からお客様に見ていただくことで、この作品が一つまた成長するのを楽しみにしています」と意気込みました。

佐藤隆太が軽やかに演じる“善き人”ハルダー

グレーの壁に取り囲まれた舞台上には白い箱が点在し、本作のキーとなる「バンド」が音楽を奏でながら作品が進行していきます。大学でドイツ文学を教えるジョン・ハルダー教授は、時に頭の中に楽団と歌手が登場し、状況に合わせた音楽を演奏するという妄想について悩んでいました。

佐藤隆太さんは軽やかに客席に向かって語り掛けながら、生バンドとアイコンタクトを取りながら、徐々に作品の世界観を開いてゆきます。ヒトラーが台頭し始めた1930年代、認知症の母親、家事ができず無気力に過ごす自分に嫌気がさしている妻ヘレンといった家族の問題に悩まされながら過ごすハルダー。

唯一の親友で精神科医のモーリスは、ユダヤ人であることで、故郷ドイツにいられなくなるのではないかと不安を抱え、パニックに陥っています。自分の妄想についてモーリスに相談するハルダーと、自身の行く末を心配するモーリスの会話は互いに一方通行。ハルダーは「反ユダヤ主義は長くは続かないだろう」と楽観的に彼を宥め、「彼の問題に関わることはできない」とどこか自己中心的な考えを観客に明かします。

ある日、ハルダーは講義を受ける女子学生アンからこのままでは単位を取れないと相談を受け、自宅に彼女を呼ぶことに。夜遅く雨でずぶ濡れになったアンを見て、ハルダーは好意を寄せ、関係を持ち始めてしまいます…。

またハルダーの書いた論文がヒトラーの目に留まり、思いがけずナチス党と深く関わるようになっていってしまいます。自身を守るため、徐々に友人モーリスを裏切る形となっていってしまうハルダー。果たして彼は、“善き人”であり続けられるのか。私たちは同じ立場に立った時、どう生きるのか。

瞬間的に場面が切り替わりながら彼の行く末を刻々と描くシリアスさと、温かみある生バンドの融合により、唯一無二の存在感を放つ注目作です。『GOOD』-善き人-は4月6日(土)から21日(日)まで世田谷パブリックシアターにて上演。上演時間は約3時間(休憩15分含む)となります。公式HPはこちら

Yurika

佐藤さんは、萩原聖人さんが「佐藤隆太が1人で全カロリーを背負ってくれている」と称するほど、出ずっぱりでジョン・ハルダー教授を演じます。しかし会見中には共演者のコメントに相槌を打ちながら、明るく穏やかにカンパニーを引っ張る姿が印象的でした。