ニューヨーク港に浮かぶリバティ島。ここに立つ自由の女神は、かつて世界各地から船に乗ってやってきた多くの移民たちにとって、最初に自由の国へ迎えてくれるアメリカそのものの象徴でした。今もその自由の国ではさまざまなルーツを持つ人々が暮らしています。人種の違いから生まれた社会のうねりが、『ウェスト・サイド・ストーリー』を筆頭に、多くのミュージカル作品に影響を与えたことは言うまでもありません。そんなアメリカらしいブロードウェイミュージカルが、またひとつ、日本で上演されることになりました!

人種のるつぼの萌芽を描いたミュージカル『ラグタイム』 

今年、日本で上演されることが決定したミュージカル『ラグタイム』。1998年にブロードウェイで開幕し、同年のトニー賞で13部門にノミネート、最優秀脚本賞・最優秀オリジナル楽曲賞など4部門を受賞した、大ヒットブロードウェイミュージカルです。

原作はE.Lドクトロウによる1975年の小説。多くの移民がやってきた20世紀初頭、激動の時代のニューヨークが舞台になっています。

タイトルにある「ラグタイム」は当時流行していた新しい音楽。黒人音楽をベースに、シンコペーションを取り入れて、生じたズレから生まれるウキウキ感が魅力の音楽ジャンルです。

この作品では、時代を象徴する「ラグタイム」の旋律を軸に物語が展開し、ユダヤ人、黒人、白人、それぞれのルーツをもつ3つの家族が固い絆で結ばれていきます。自由の女神が、その目で見た歴史の一幕かもしれない、アメリカらしい物語です。

『ラグタイム』あらすじ 激動の時代に生きた人々が望んだ未来とは

1902年のアメリカ、ニューヨーク。娘の未来のためにラトビアから移民としてこの地に足を踏み入れたユダヤ人のターテ、ピアニストとして活躍する黒人のコールハウス・ウォーカー・Jr.、豊かな暮らしを送る白人のマザーが、同じ空の下、暮らしています。

コールハウスの恋人は彼に愛想を尽かし、彼との間に生まれた赤ん坊を、白人の家の前に置き去りにしてしまいます。その家に住む正義感にあふれるマザーは、夫が不在のうちに赤ん坊を拾い上げ、家に迎え入れることに。ある日、街で偶然出会ったターテとマザー。移民である自分にも敬意をもって接するマザーに、ターテは好感を抱きます。

一方、今や「ラグタイム」を奏でるピアニストとして注目され始めたコールハウスは、フォード車を買うことができるまで稼げるように。ところが、黒人であるために、車を焼き討ちされてしまいます。人種差別に対する窮状を訴えるコールハウスの話には、誰も耳を貸さないのでした。 差別や偏見に満ちた世界を変えていこうとする登場人物たちの姿。それは、彼らが望んだ未来を生きる私たちが、今、改めて向き合いたい人々の物語なのかもしれません。

豪華キャストも期待を寄せる!『ラグタイム』日本初演への意気込み

豊かなメッセージを美しい旋律で綴る本作の日本初演には、石丸幹二さん、井上芳雄さん、安蘭けいさんの出演が決定。石丸さんと井上さんはなんと本作が初共演となります。

『パレード』での心震える名演も記憶に新しい石丸幹二さんが演じるのは、ユダヤ人のターテ役。娘のためにラトビアからアメリカにやってきた移民のひとりで、慣れない環境で奮闘する人物です。

ご自身もブロードウェイで本作を観劇したという石丸さんは、楽曲について「アメリカの異なる人種たちが、与えられた場で必死に生き抜こうとするエネルギーを表しているんだと、今、改めて音楽に触れ、ひしひしと感じています」とコメント。音楽的な難しさにも触れ、大作に挑む意気込みを表明しました。

ミュージカル主演のほか、番組司会などでミュージカルの魅力を伝える機会が増えている井上芳雄さんが演じるのは、コールハウス・ウォーカー・Jr.役。新時代の到来を目指す黒人ピアニストであるコールハウスは、これまで井上さんが演じてきた役柄にはない新たな人物像かもしれません。

「いろんな価値観が変化している今、僕たちがこの物語をどうお客様にお届けできるか。大きな意味があるチャレンジ」だと本作に挑戦できることへの期待をにじませました。

そして安蘭けいさんは裕福な白人家庭の母親、マザーを演じます。社会の流れに反して、人種の偏見を持たないマザー。その正義感あふれる役柄は、『スカーレット・ピンパーネル』を代表作に持つ安蘭さんにぴったりな人物です。

「今までなぜ日本で上演されてこなかったのか、不思議でならないミュージカルです。満を持して上演される『ラグタイム』カンパニーの一員として携われることを本当に光栄に思っています。皆様の期待に応えられるよう精一杯頑張ります」と力強いコメントで日本初演への意気込みを語りました。

そして、日本初演の演出を担当するのは、藤田俊太郎さん。社会が加速的に変化した時代背景を踏まえて、「『ラグタイム』は遠い国の遠い過去の話なのではなく、特に2020年以降を生きる私たちの現在形の作品」と捉えています。「決して悲しいシーンばかりではなく、未来への夢が詰まったエンターテインメントを是非、楽しんでいただけたら」と日本初演への想いを語りました。

ミュージカル『ラグタイム』は、2023年9月、東京・日生劇場にて日本初演を迎えます。10月にはツアー公演で、大阪・梅田芸術劇場 メインホール、愛知・愛知県芸術劇場 大ホールにて上演。公演の最新情報は、公式作品ホームページをご確認ください。

Sasha

今、アメリカは分断の時代と言われ、政治思想や人種の違いが引き起こす不当な事件が絶えません。そして忘れてはならないことは、それは決してアメリカだけが抱える問題ではないということ。自分と違う人を受け入れ共存していく、そんな未来を願った人物たちの祈りが、このミュージカルには込められています。