『エリザベート』は、ウィーン発のミュージカルとして世界中で大ヒットし、日本でも繰り返し上演されています。独特の世界観と併せて人気を集めているのが、劇中で歌われる数々の名曲です。そこで、この記事では『エリザベート』の劇中曲から3曲に注目。その魅力について、筆者の見解も交えて紹介します。
ミュージカル『エリザベート』とは
数あるミュージカル作品の中でも、1992年の初演以来、世界各国で愛され続けている『エリザベート』。オーストリア=ハンガリー帝国最後の皇后であるエリザベートを主人公に据え、彼女の波乱に満ちた人生を描いています。
日本では1996年に宝塚歌劇団で初めて上演され、同劇団の代表作となりました。その後、2000年には東宝版の公演が行われ、何度も再演されています。原作のウィーン版と宝塚歌劇団版、東宝版ではそれぞれ演出や楽曲が異なるので、見比べると面白い発見があるのではないでしょうか。
また『エリザベート』の物語では、「死」の概念を「トート」というキャラクターで表現しているところが大きな特徴です。魂の自由を求め、ありのままに生きようとするエリザベート。そんな彼女に惹かれ、死へと誘うトート。エリザベートを愛しながらも、皇帝の役目を優先しなければならないフランツ。3人の思惑が滅びゆくハプスブルク帝国の歴史と絡み合い、壮大な愛と死のドラマを展開していきます。
『エリザベート』の作品については、こちらの記事でも詳しく特集しているのでぜひご覧ください。
トートに惹きつけられる名ナンバー「最後のダンス」
「最後のダンス」は、第一幕を大いに盛り上げる楽曲のひとつ。華やかな宮廷舞踏会のシーンから一転して、黄泉の帝王であるトートが登場し、エリザベートに対して「最後にお前を手に入れるのは私だ」と宣言します。
怪しい曲調にのせて語られるのは、エリザベートの不安を煽り、ハプスブルク帝国の滅亡を匂わせる言葉。「死」であるトートによって恐ろしさの増す歌詞が、エリザベートだけなく観客の緊張感もぐっと高めていきます。
また、サビの部分ではトートと共にダンサーが激しく踊り、運命に翻弄されるエリザベートの未来を予感させるかのようです。そして、曲のラストでトートが「最後に勝つのは俺さ」と力強く歌い上げるところは、まさに鳥肌もの。トートのキャラクターを強烈に印象付けるだけでなく、抗いがたい魅力をも感じさせるこの曲は、何度聞いても背筋が震えます。
ルドルフを悲劇へ誘う「闇が広がる」
『エリザベート』の第二幕で見どころとなるデュエットソングが、「闇が広がる」です。
シリアスなイントロで始まり、エリザベートの息子ルドルフとトートによる激しい掛け合いが繰り広げられます。特にルドルフとトートの声が重なり合うサビには圧倒され、思わず聞き惚れてしまうほどです。
父のフランツと政治的思想で対立してしまい、宮廷から離れて旅に出てばかりの母・エリザベートには頼りたくても頼れない。不安定な立場に置かれ苦悩するルドルフにとって、トートの「立ち上がれよ」という鼓舞が唯一の拠り所になっていく様子が、曲を通じて伝わってきます。また、この後ルドルフに訪れる悲劇を思うと、歌詞の一つひとつが胸に刺さります。
容赦のない運命と、そこに飲み込まれていく人間の切実な感情を見事に表現し切った楽曲です。
エリザベートが決意を表す「私だけに」
『エリザベート』では、自分らしく生きるために闘い続けたエリザベートの姿が描かれています。その生き様がよくわかる楽曲といえば、「私だけに」ではないでしょうか。
宮廷では常に周囲の目にさらされ、自由に好きなこともできない生活。さらに王家の決まりに従うように求める姑のゾフィーとは折り合いが悪く、夫のフランツでさえエリザベートの完全な味方ではありません。しかし、エリザベートは「死」に逃げるのではなく、困難に立ち向かう道を選びます。
「たとえ王家に嫁いだ身でも、命だけは預けはしない。私が命委ねる、それは私だけに」
エリザベートの決意が込められた歌詞は、聞く者の心を強く揺さぶります。自ら運命を切り拓こうとするエリザベートに励まされた、という方も多いでしょう。曲を聞くたびに、エリザベートのように何があってもひたむきに生きたい、と思わずにはいられません。
今回紹介した3曲だけでなく、『エリザベート』には耳と心に残る楽曲ばかり。コミカルな歌い回しに魅了される「キッチュ」や、民衆のエネルギーが爆発する「ミルク」など、挙げればキリがないくらいです。名曲ぞろいの『エリザベート』、ぜひ一度観劇してみてくださいね!