12月16日(金)から、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで上演される舞台『沈丁花』。劇団「あやめ十八番」代表で作・演出家の堀越涼さんによる完全オリジナル脚本で、山田真歩さんと松島庄汰さんがダブル主演を務め、大沢健さんが松島さんの20年後を演じます。演劇メディアAudienceでは、堀越さんに舞台『沈丁花』の制作プロセスと見どころを伺いました。
読み合わせを終えて「こういう芝居が観たかった」という感触を得ました
―本読みの手応えはいかがですか?
堀越涼(以下、堀越) あやめ十八番では劇団員や常連のキャストがいますが、今回はほとんど「はじめまして」の人なので、芝居のイメージの共有のために、読み合わせの時間を3日間・各7時間ほど取りました。
―しっかり時間を取るんですね。
堀越 僕が以前所属していた「花組芝居」では歌舞伎の台詞回しを耳で覚えるために、一週間ほど読み合わせをしていたので、今回はたっぷり時間をかけて効果があったなと思います。舞台『沈丁花』は脚本だけを読むと静かな芝居に思われるでしょうが、僕は脚本には「!(エクスクラメーションマーク)」を入れないので、どこを強調するか、声の強弱、感情のすり合わせなど、3日間を終えてイメージの共有は手応えがありました。お客さんにはもちろん楽しんでほしいですが、最終的には、プロデューサーの宮本さんに「面白い!」と言ってもらう芝居をつくることが大事なので、良いスタートが切れました。
舞台『沈丁花』のあらすじ
雨。その姿は見えないが、その足音と気配がする。
この雨の正体は“化け物”である。
これから訪れる未曾有の水害を、まだ誰も知らないで居る。
油木正人(現代:大沢健)の事務所は今、激しい雨音と闇の中にある。
20年前。
旅行雑誌ライターの油木正人(過去:松島庄汰)は、偶然道に迷った先で「白花温泉」という名の小さな秘湯に辿り着く。そこで唯一の温泉旅館を営む早明浦やゑ(山田真歩)と出会う。
良質な湯に驚いた正人は取材を開始するが、温泉街にも関わらず観光客を呼び込む事に消極的なやゑら街の人々。
同じく湯に魅了されたと湯治に通う新聞記者の滝里純(藤原祐規)。
沈丁花香る温泉街で忘れえぬ時間が始まる。
過去と現代、ふたつの時間軸はリンクしながら、正人の遠い過去の記憶を呼び覚まし、
警報鳴り響く豪雨災害の夜とを繋ぐ。
舞台『沈丁花』のキャストと役柄を語る
―今回の舞台『沈丁花』のキャスティングについて教えてください。
堀越 キャスティングは宮本さんにお任せしましたが、「こういうイメージの人がいい」というのは伝えました。大沢健さんは昔一緒に舞台に立ったことがあって、大沢さんが主演で、僕はアンサンブルでした。藤原祐規さんは僕の芝居に出てもらうのは3回目で、以前、「なんてこの人の芝居は良いんだろう」と思っていたので、あやめ十八番にも出てもらって、今回も新聞記者の滝里純役をお願いしました。
―温泉旅館の女将の早明浦やゑ役の山田真歩さんはいかがですか。
堀越 本読みを重ねて、僕の中でイメージするやゑよりもう一段深く、ミステリアスさが増して、ご本人の魅力と役の魅力がうまくシンクロして、「そういう演じ方があるのか」と思いました。山田さんがつくってくれるやゑになりましたね。ご本人は5年ぶりの舞台出演ですが、稽古前にしっかり発声練習をされていて、誰よりも舞台俳優です。
―旅行雑誌ライター油木正人の30代を演じる松島庄汰さんは?
堀越 いろんな舞台をバリバリやられている俳優さんなので、基礎能力が高くて、今回の役にも非常に合っています。本読みでもレスポンスが早いので、演出家として共有がどんどんできているので、彼も手応えを感じてくれているはず。舞台『沈丁花』は、オリジナル脚本なので、イメージを自分でつくっていかなければならないのですが、役を構築していく作業を楽しんでくれています。
―松島庄汰さん演じる油木の20年後を大沢健さんが演じます。
堀越 とても高い技術をお持ちで好きな俳優さんですが、ごく自然に演じられていて、「百戦錬磨でさすがだな」と。僕も勉強させてもらっています。
―大沢さんは本読み前には、「同一人物を2人で演じるのは初めての経験なので、松島さんとすり合わせていきたい」と話していましたが、本読みを終えて、「あえて相似形にはしなくていいかな」と言っていたのが印象的でした。
堀越 作家では、人間は変わらないと描く人もいますが、僕は、「人間は変わっていく派」なんです。加齢とともに変化は必ずあって、油木の30代から50代という20年は想像もつかない時間ですが、子どものときからの20年より、大人になっての20年間は変化も大きい。大沢さんには人生を俯瞰で見る役が似合いますね。
僕は、「制限の中で見える個性」が個性だと思う
―堀越さんの演出方法を教えてください。
堀越 自分は、花組芝居で教わった古典芸能的な演出方法です。たとえば、日本舞踊を習いに行って、「あなたのフィーリングで踊ってみなさい」という先生はいないように、まずは「型」があります。型がある中でまったく同じことをやるんですが、AさんとBさんでは違うというのが古典芸能的な個性の出し方です。僕が、「こうやってください」というのを完璧になぞってやってもらっても、僕がやるのとはまったく違って、役はその俳優の方が合っているので、結局、その人の方が良くなる。そういう「制限の中で見える個性」が個性だと思います。
―演出の個性というのは意識しますか。
堀越 あまり考えないですね。面白いことだけやっていればいい。舞台『沈丁花』のテーマは社会的意義がありますが、そこを強調した作品は好きじゃなくて、観てもらって面白かったらそれでいい。演出の好みはありますが、僕のカラーを出そうとは思いません。昔、高校生に演出をつけたことがあるんですが、全力投球は泣けちゃうんですよ。ただただ一生懸命で、声が幼いから心の琴線に触れて、ボロボロ泣いちゃう。今回のキャストには、そんな心の琴線に触れるような芝居をやってほしくて、お客さんにはそれを体験してほしいなと思います。
インタビュー(後編)に続く
舞台『沈丁花』
【脚本・演出】堀越涼(あやめ十八番)
【音楽監督】吉田能(あやめ十八番)
【出演】山田真歩、松島庄汰、大沢健、藤原祐規、少年T、和合真一、宇佐卓真、アンサンブル
企画・製作:CCCreation
2022年12月16日(金)~12月20日(火)/KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
公式サイト
チケット(カンフェティ)
舞台『沈丁花』の稽古は、11月中旬、コロナ禍が続く中、慎重に感染予防に努めながら始まりました。天井が高く広い稽古場の真ん中に立ち稽古ができる舞台セットがあり、その周りにテーブルを配して、本読みをする俳優が一定の距離を取れるように配慮され、パンデミックの中でのエンターテインメントの作り方を実感しました。 演出家の堀越涼さんが台本のページ数を告げると、台本をめくる音がして、堀越さんが指をパチンと鳴らすと、本読みが始まります。声だけが頼りの本読みですが、堀越さんが身振り手振りを交えて演出していくと、役者たちが発する台詞も次第に熱を帯びてきて、物語が動き始めます。