ミュージカル座は、「新しい国産ミュージカルの創造と普及」を目的として旗揚げされた劇団です。沖縄戦を理解するために修学旅行の事前学習にも活用されている『ひめゆり』、ホストクラブを舞台にしたコメディ『ロイヤルホストクラブ』など、これまでもバラエティに富んだ国産ミュージカルを生み出し、ミュージカル初心者にも演劇ファンにも親しまれています。
そんなミュージカル座の新作が、2023年3月8日(水)から12日(日)まで東京IMAホールで上演される『東京ミュージカル』。大都市・東京の過去と現代を紡ぐ注目のミュージカルです。
東京のこれまでとこれからを描く2幕編成
経済発展の目まぐるしい東京には、震災や空襲に見舞われて何度も絶望と再生を繰り返してきた歴史があります。今年で関東大震災の発生した1923年から100年。災害、戦争、そして感染症などそれぞれの時代に実際に起こった悲劇の中で、東京で生きる人々の幸せを求める姿を描いたのが『東京ミュージカル』です。
当作は2幕編成になっており、1幕では東京の過去、2幕では東京の現在が物語の軸になります。1幕の舞台は関東大震災から復興し、太平洋戦争へ向かう過去の東京です。
4人家族の染谷一家には2人の娘がいて、次女の茜は東洋音楽学校に通うジャズ好きの女学生。太平洋戦争が開戦するとジャズは敵対音楽であると非難され、大好きな赤い服も着られなくなってしまいますが、茜は作曲家志望の青年・清と恋に落ちます。
長女の成美は昭和15年に開催予定であった東京オリンピックへの出場を目指す水泳選手です。しかしオリンピックは戦争によって中止になり、さらに成美は昭和20年の東京大空襲で足に大怪我を負ってしまいます。
陸軍報道部で働く父の上史郎、国防婦人会で活動する母の鶴も、軍国主義と皇国民育成が活発化する社会の中でそれぞれの成すべきことに悩み苦しみます。
国民が生活、教育、生命の全てを捧げるも、昭和20年8月15日に日本は敗戦。焼け野原となった東京に立つ人々が何を思うのか、現代を生きる私達には明確に想像できないであろう姿に注目したいところです。
時代は流れ、2幕の舞台は現代の東京。こちらでは父・母・2人姉妹の伊藤家の人々が登場し、それぞれの役を染谷家と同じキャストが演じます。
次女のはるか(1幕の茜役キャスト)は赤い服が好きなメジャー歌手、長女のかえで(1幕の成美役キャスト)はパラリンピックに出場する水泳選手。彼女たちにはそれぞれ恋人がいて、恋や夢に向かって突き進む姿、立ち止まる姿は生きる時代は違えど1幕に登場した人物たちとどこか重なります。
1幕に比べて平和な世界に感じられる2幕ですが、ご存知の通り現代にも国際問題や政治の不正など問題は数知れず。それらが物語に絡んでいくようです。
ベテランミュージカル作家と若手作曲家の注目タッグ
脚本、作詞、演出、振付を担当するのは、ミュージカル座の代表であるミュージカル作家のハマナカトオルさん。ミュージカル座を代表する作品の1つである『ひめゆり』もハマナカさんの作品で、同じく太平洋戦争を描いたミュージカル『スウィングボーイズ』では戦禍に見舞われる若きジャズマンの姿を描いています。
ハマナカさんはこれまでも国産ミュージカルだからこそ感じられるリアリティを作品に投影させてきました。だからこそ、舞台と同じ世界を生きているという親しみ、また現代人には計り知れない戦争の苦しみを当作でも体験できるのではないでしょうか。
そんなハマナカさんと今回初めてタッグを組むのが、若手作曲家の石渡裕貴さんです。テーマパークやキャラクターショーで数多くの音楽を手掛ける石渡さんは、芸術企画団体・一茶企画においてオリジナルミュージカル作品の作曲と音楽監督を担っています。
当作はベートーベンの「第九交響曲」をモデルに全編が音楽で構成され、全体が4つの楽章に分けられるミュージカルです。ハマナカさんと石渡さんが作り出す物語と音楽には、目も耳も離せなくなりそうですね。
ミュージカル座『東京ミュージカル』は2023年3月8日(水)から12日(日)まで東京IMAホールにて上演予定。チケット詳細は公式HPをご確認ください。
ミュージカル座の新作ミュージカル『東京ミュージカル』についてご紹介しました。偶然なのか必然なのか、東京大空襲が起きた3月10日と東日本大震災が起きた3月11日にも舞台の幕が開く予定です。自身の体験を思い返したり祖父母以前の世代が経験した日々に思いを馳せたり、当作をきっかけに、いつもの東京の街に違う景色を見いだせるかもしれませんね。