まつもと市民芸術館にて11月、東京・吉祥寺シアターにて12月に上演される舞台『ハイ・ライフ』。東出昌大さん、尾上寛之さん、阿部亮平さん、小日向星一さんによる4人芝居で、日澤雄介さん(劇団チョコレートケーキ)が演出を務めます。ディック役の東出さんと演出の日澤さんに、本作の魅力と見どころを伺いました。
馬鹿馬鹿しいことを真っ直ぐな目で言える役者を選びたかった
−まずは『ハイ・ライフ』を選んだ経緯を教えてください。
日澤「まつもと市民芸術館と何か作品を作ろうと話をしていく中で、カナダやオーストラリアの芝居に興味があり、何本か候補の脚本を読ませていただきました。『ハイ・ライフ』は前から知っていた作品で興味は持っていたのですが、僕のやるものとは少し毛色が違う作品だったので手を出せずにいたんです。でもまつもと市民芸術館の方々が後押ししてくれて。折角、松本でやるなら、良い俳優を集めて挑戦しようと思いました。きっと僕1人だったら生まれていないと思います」
−東出さんにオファーされた理由は?
日澤「ディックという役は4人の中では頭脳派ではあるんですが、やっていることは馬鹿馬鹿しい、それじゃあうまくはいかないでしょということをやるんですね。その滑稽さと、馬鹿馬鹿しさをさも当然のように真っ直ぐ目を見てやれる人は誰だろうと考えました。無駄に説得力があるというか(笑)。説得するんだけど、説得するものはチープで、そのアンバランスな感じを表現できるのが東出さんなんじゃないかと。お顔が綺麗で背も高いし、舞台映えもします。物語の中心に立った時に一本筋が通るブレなさを感じたので、東出さんが良いと思いました」
−東出さんは、オファーを受けた時の印象はいかがでしたか?
東出「いつも戯曲を読ませて頂いからお返事するのですが、俳優の間でも松本では良い環境で芝居を作れると聞いていたので興味があり、お受けしようと決めました。共演する尾上寛之さん・阿部亮平さん・小日向星一さんとは過去に共演経験があるので、またみんなと一緒に松本で芝居を作れるのが楽しみで仕方ないです」
−日澤さんの演出した芝居を見たことは?
東出「あります。先日の劇団チョコレートの『ブラウン管より愛をこめて -宇宙人と異邦人-』も観に行きました。語り口も早いし凄いバランス感覚のある演出家さんだなと思いました」
−日澤さんは4人の俳優のバランスというのは意識されたのでしょうか?
日澤「あえてどれだけ悪いバランスになるかを考えました。整った感じにならないように。それでいて芝居の腕がある4人。4人芝居で会話の応酬なので、そこの技量は意識しています。僕は皆さんと初めてご一緒するので、滞在製作でがっつり携われるのが楽しみですね」
至って真面目にクズの道を突き進みます(笑)
−脚本を読んでみていかがでしたか。
東出「ここまで“掃き溜めに集う”ような、罵詈雑言や粗野粗暴に振り切っている役を演じたことがないので、それは凄く楽しみです。人間の極限だけど、高尚なシェイクスピアのような、人生とは、哲学とはとかが一切ないので(笑)。ただその中でお客様が見て、“人ってこういうところあるよね”とか思ってもらえるかもしれない。僕らはジャンキーとして精一杯やりたいと思います」
−普段の東出さんとは異なるキャラクターですが、どういう役作りをしようと考えていますか?
東出「実は僕とあまりかけ離れていないんですね(笑)。この作品は “人間とは”というところをひけらかすわけではないけれど、実際に舞台を見たら、何か気づきを与えるような発見があるから、これまでも上演され続けていると思うので。登場人物たちは僕の実生活とはかけ離れていますが、人間ってこうだよなという剥き出しの部分が描かれていると思うし、そこに共感をしているつもりです」
−台本を読んでみて感じた、物語の魅力は?
東出「映画化もされている作品で、映画のジャンルはコメディみたいですが、日澤さんはそうはならないと仰っていましたよね。途方もなくバカなことをやろうとする4人なので、一生懸命さを滑稽に思われるお客様はいると思うのですが、僕らは至って真面目にクズの道を突き進みます(笑)。それによって作品の疾走感やエモーショナル感をお客様に感じていただけるのではないかと思います」
日澤「僕は映画は見ていませんが、台本を読んだ肌触りからすると、滑稽で笑えるところはあるし、“バカな4人の銀行強盗”ということではあるんですけれども、コメディとは捉えていないですね」
−松本での滞在製作について期待することは?
日澤「僕は“滞在製作好き派”なので、期待は凄くありますね。一度北海道の市民劇で、45日間滞在したことがあって、その時の経験で言うと、時間が長いんです。演劇に関わる時間が長いし、稽古場での作り込みもしっかりできる。今回、スタッフ陣も信頼できる方々なので、皆さんの力を借りて創れるのが楽しみです」
東出「松本で同じ釜の飯を食って寝食を共にする、しかも俳優は男だけ。少人数で、ずっとみんなで喋っている戯曲なので、いろいろと実験したいです(笑)。そのくらいものづくりに没頭する機会を持てるというのは珍しいことなんです。30代中盤になって、時間もあって、仕事に対する体力も増えてきた今、みんなで1つのことに没入するというのは非常に充実した日々になると思うので、それは楽しみです。みんな個性的な役者なので、虎視眈々と色々と狙って稽古場に持ち込むんじゃないかなと思います」
今の時代とリンクする“現在性”も意識
−本作の演出のポイントは?
日澤「基本的には、俳優さんがどうしたらよく見えるかを考えて演出をしています。そうすれば、自ずと物語の筋はくっついてくるものなので。僕はいつも奇をてらった演出はしないですけれども、今回はこういう作品なので、いかに汚くするかというところは考えます。あとは、どこかで今とリンクさせる接点を見つけられると良いなと思いますね。暴力性なのか、4人の好き勝手自由に行動する根底にある貧困や閉鎖感のある社会なのか。どこかで今の日本と地続きにできると良いですね。どの作品をやる時にも“現在性”は考えようと思っているので」
−日澤さんは、東出さんのどんな部分を引き出したいと思われていますか?
日澤「僕はこの作品で初めて東出さんにお会いしたのですが、想像以上に面白い方です。もう少しクールだと思っていたんです(笑)。でも子供っぽい純粋な部分もある方なので、そこは引き出したいですね。真っ直ぐ理路整然と話しながら、その矛先がずれているとか、そもそもの道が違うところにいるとか、いかにずらしていけるかは探っていきたいです」
−東出さんが日澤さんの演出で楽しみにしているところは?
東出「粗野粗暴を受け入れてくれそうなので(笑)。例えばこのキャラクターたちは保護司にあてがわれた家にいるけれど、瓶ビールを開けたら蓋は放り投げるタイプだと思うんです。そういう粗暴なディテールについて現代は忌避する潮流があると思いますが、日澤さんは一回ぶっ壊すつもりでやっちゃうと思うので、ハチャメチャなディティールにこだわって、ものづくりしていきたいです」
日澤「そうですね。美術も実験劇場に合わせて遊ばせてもらっているので、前半はディックの家、後半は車の中を覗き見るような感覚になってもらえたら。密度の濃い芝居になるんじゃないですかね。お客様もかなり近距離で4人の芝居を堪能できるので、面白い体験になると思いますよ」
まつもと市民芸術館プロデュース『ハイ・ライフ』は2023年11月23日(木・祝)から26日(日)までまつもと市民芸術館 実験劇場、12月1日(金)から6日(水)まで東京・吉祥寺シアターにて上演が行われます。作品公式HPはこちら
東京夜光『悪魔と永遠』では人間の根底にある孤独や切実さを感じるお芝居が印象的だった東出さん。本作は「物語の進行がシンプルでずっと舞台上にいられるので、役に没入して、無我の境地でお芝居できる瞬間が多いんじゃないかなと思うと楽しみ」と語った姿が印象的でした。