『ミッション:インポッシブル』や『スカーフェイス』など、数々の名作を世に送りつづけてきたブライアン・デ・パルマ監督(以下デ・パルマ監督)。そんな巨匠デ・パルマ監督が手がけた伝説のミュージカル映画をご存じでしょうか? カルト的人気を誇り、デ・パルマ監督の出世作とも言われているミュージカル作品、それが『ファントム・オブ・パラダイス』です。今回は、その魅力に迫ります。

ミュージカルでお馴染みのアノ名作がベースに!

ミュージカル作品として有名な『オペラ座の怪人』。見たことがあるという人も多いのではないでしょうか。本作は、そんな『オペラ座の怪人』や『ファウスト』など、古典がベースになって構成されています。そう聞くと、ファントムの切なくも悲しいラブストーリーが頭に浮かびますが……こちらのファントムはちょっと違うストーリー。

舞台は、ロックの殿堂「パラダイス劇場」。そのパラダイス劇場で、初舞台を飾るアーティストのオーディションから物語は始まります。鮮やかな舞台をバックに、最初に登場するアーティスト「ジューシー・フルーツ」。軽やかなステップを踏みながらテンポの良い「Goodbye, Eddie, Goodbye(グッドバイ、エディ、グッドバイ)」を歌うシーンには、思わず引き込まれてしまうほどです。

実は、彼らが軽快に歌うこの曲にこそ本作を物語る歌詞がつづられています。その歌詞というのは、不遇な幼少期を過ごしたエディという売れない歌手が妹の病のため、自分の命と引き換えに曲をプロモーションするという悲劇。ご機嫌に見えたパフォーマンスですが、曲はなんとも悲しい内容。エンタメ業界とは、命すらも商売道具になってしまう恐ろしい一面を明かす一幕なのです。

煌びやかな舞台に潜む、闇。悪魔との契約​​

『ファウスト』での、悪魔との契約は有名ですが、本作でも悪魔との契約が重要なキーとなっていきます。「ジューシー・フルーツ」が所属するデス・レコード社の社長でもあるスワン。悪魔と契約をしているスワンは、オーディション会場に現れた、冴えない男の曲に目をつけます。その男というのが、音楽の才能はあるがプロモーションの才能が皆無の主人公ウィンスロー(ファントム)です。

そして、ウィンスローが歌った曲「Faust(ファウスト)」は、スワンのたくらみによって盗まれてしまいます。その後もスワンの悪行は止まりません。無罪の罪で刑務所に送られてしまうウィンスロー。なんと、そこではすべての歯を抜かれ銀歯にされてしまいます。騙されたことに気がついたウィンスローは刑務所を脱獄、デス・レコード社へと突撃するのです。

しかし、さらなる悲劇がウィンスローを襲います。不慮の事故によりレコード・プレスの機械に顔を挟んでしまうのです。顔の半分が潰れてしまったウィンスローは、デス・レコード社の衣装室にあった奇妙な仮面を被り、パラダイス劇場に住み着く『ファントム・オブ・パラダイス』となるのでした—。

時代を超えて愛され続ける傑作ミュージカル映画

ファントムと化したウィンスローですが、彼の不幸はまだまだ続いていきます。その悲劇の中で見えてくるのは、エンターテインメントの裏に隠された悲惨な真実。ただ残酷な話で進むのではなく、映画好きな人であれば思わぬパロディシーンも挟まれていることでクスッとさせられる場面があるのも魅力です。

デ・パルマ監督の存在を知らしめる事となった本作。オープニングでは、大きいレコードをモチーフにしたテーブルやきらきらした舞台の演出。女性たちによるスワンへの枕営業のシーンではお得意の覗き技法が使われており、デ・パルマ監督のマジックを随所に感じる映像となっています。

そして、なんといっても完成された音楽の数々。それもそのはず、音楽を担当しているのはスワンを演じるシンガーソングライターのポール・ウィリアムズなのです。カーペンターズに楽曲提供をしていることでも知られる彼が作り出した音楽は、この映画が愛されることになったひとつの功績であるとも言えます。

菜梨 みどり

デ・パルマ監督と言えばギャング・マフィア映画。そう思い浮かべるのは、きっと私だけではないはずです。そんな監督の出世作がミュージカル映画だということに、驚きを隠せませんでした。デ・パルマ監督の芸術的なカメラワークにも感心させられますが、やはりミュージカル映画といえば音楽です。メロディアスな音にのせる意味深な歌詞は、聞き入ってしまう曲ばかり。芸術的すぎるゆえに、怖さも否めない本作ではありますがカルト的人気を誇るだけの魅力がつまっています。古典やホラー映画を取り入れている本作、考察してみたり、題材を深堀してみたり、さまざまな楽しみ方ができる作品です。