『ガラスの仮面』『三谷版 桜の園』など舞台作品で活躍し、現在『ハリー・ポッターと呪いの子』にジニー・ポッターとして出演中の大和田美帆さん。11月には父親である大和田獏さんと共に、記念公演『BAKUMIHO』を行われます。子どもたちに向けた音楽イベントや朗読などの取り組みも精力的に行われている大和田美帆さんに、今の活動について、そして演劇への想いについて、お話を伺いました。
未来であり希望である子どもたちに、想像力豊かに育ってもらいたい
−親子ユニット“BAKUMIHO”はどのようにして生まれたのでしょうか。
「母が亡くなってから、2人で何かしたいねと言っていたんです。私自身は障がいのある子どもや病気の子どもたちに向けてコンサートなどをやっているのですが、父がそれに参加したいと言ってくれて。彼は朗読が上手なので、2人で絵本の朗読をして歌も歌うユニットを組もうと考えました」
−“BAKUMIHO”という名前に込めた思いについても教えてください。
「BAKUMIHOは2人の名前を組み合わせており、真ん中に“KUMI”が入っています。常に母の存在を感じながら、私と父がもっともっと前を向いて、色々な方に喜んでいただけるような活動をしていきたいという思いを込めました。この間は老人ホームに行かせていただいたのですが、呼んでいただけるならどこでも行きたいなと思っています」
−老人ホームや子どもたちに向けての活動を行う思いとは?
「先日お伺いした老人ホームは子ども食堂をやっていたことがきっかけで、やはり子どもにという思いが1番大きいです。子どもは未来だし希望だから、彼らが想像力豊かに、楽しみながら色々なことを考えられる時間を作りたいと思っていて。朗読はとてもアナログですが、ひととき物語に浸ってもらって、想像力を豊かに育ってもらいたいなという気持ちがありますね」
−どういったきっかけで子どもたちへの思いが深まったのでしょうか?
「元々子どもが大好きなのですが、自分が出産した後に、子どもも大人も一緒に楽しめるイベントをという思いから「ミホステ」という音楽イベントをやるようになって、2022年からは子どものための自己表現ワークショップ「ここから」も実施していて、子どもたちが音楽や朗読に触れる大切さを実感しています。
ヨーロッパでは演劇が授業に組み込まれているなど、子どもの成長に凄く密接しているのですが、日本ではまだなかなかそういう事例がないので、演劇という私が大好きでずっと続けているものを、子どもたちに届けたいなぁと思います。
想像力というのは人に1番大事なものだと信じていて、想像力が欠けた時に争いやいじめが生まれると思っているので、コンサートやワークショップ、朗読など色々なアプローチで想像力を養える機会を作っていきたいんです。それに、横浜こどもホスピスプロジェクトの応援アンバサダーも務めているので、病気で闘う子どもたちにも、今を楽しい、生きているって楽しんだよということを感じてもらいたいと思っています」
−本当に様々な取り組みをされているのですね。
「私、エネルギーが有り余っているんですよ(笑)。自分で色々とトライしていく中で、自分がやりたいことが見えてきていて。舞台に立ち続けるということは絶対的にありながら、演劇を通して子どもたちに何かしたいなという思いが強いです」
『BAKUMIHO』親子で新たな挑戦へ
−11月に親子で行われる記念公演は、また特別な公演になりそうですね。
「私が芸能生活20周年なんだよねと話していたら、父が「僕も50周年だよ」と言われて。実は節目が被っていることを今まで知らなかったんです。せっかくなら、20年応援してきてくださった方、50年応援してきてくださった方、そしてこの3年応援してきてくださった方に、大好きな演劇を通して前を向いているご報告もしたいし、私たちはこれからも演劇をやっていくという決意表明でもあり、これまでの感謝の場でもあります」
−お父様の大和田獏さんが描いたオリジナル2人芝居もあるそうですね。
「話しているうちに、「30代頃から書いてみたかったお話があるんだ」と言われ、「じゃあやってみなよ」と。父は「いやいや出来ないよ」と言っていたのですが、動き出すのがゆっくりの父に比べて、私は動き出すと止まらないので(笑)、背中を押してオリジナル戯曲を書いてもらうことにしました。人間にとって何が大切なものなのか、それをテーマに届けられたらと思っています」
−大和田獏さんが初めて手がけた戯曲、とても楽しみです。
「父にとっても私と一緒にやることで新たな挑戦になっていたら嬉しいですね。親子で何かを出来るというのは時間も限られていますし、せっかく同じ職業に就いたので、とにかくまずは挑戦してみようという気持ちです」
−歌う楽曲はもう決まっていらっしゃるのでしょうか?
「父の書く戯曲に合わせて、「アメイジング・グレイス」を歌うことは決まっています。父と私それぞれのセクションもあり、父はピエロになって、中原中也の詩「サーカス」を読むと言っていました」
−ピアノとチェロの生演奏を選んだ理由は?
「ピアノのYUKAさんとは「ミホステ」でも一緒にやってくれているパートナーなので、すぐに決まりました。チェロを選んだのは、母が亡くなった直後に私がバイオリンの音を聞けなくなってしまったんです。当時から音楽療法士の勉強をしていたので、自分でも分析してみたのですが、心の状態によって求めている音楽は違っていて、チェロの重厚感や落ち着きが、今の私たちの心の響きと合うんだと思います」
−国立音楽院・音楽療法学科専門部に入学され、本格的に音楽療法についても学ばれていますよね。
「音楽が人に与える力というのは凄いんです。特に病気の子どもたちに、音楽は直接的に響くんですよ。重い障がいがある子も音楽を聴くとふわっと笑顔になります。音楽の力というのは感覚的には分かっていたけれど、実際になんでそうなのか、理論も学びたくて学校に通いました。そこで、音楽は脳に直接働きかけるということが分かって。ミュージカルで音楽が重なることで琴線に触れて涙が出るという経験をしたことがある方は多いと思うのですが、その理由が理解できたことで、自信を持って表現ができるし、子どもたちに音楽を聞かせられるし、その素晴らしさを語れるようになりました」
大切な人を亡くしたハリーたちに想いを重ねて
−芸能生活20周年ということで、転機になった作品は?
「蜷川幸雄さん演出の音楽劇『ガラスの仮面』ですね。オーディションを受けて初めて主演をさせていただいて、覚悟を持ってこれから演劇をやっていくのかを試されている気がしたし、蜷川さんからも「お前本気なのか?本気じゃないだろ」と何回も言われて。「どういう女優になりたいんだ」と聞かれて、漠然と好きだから走ってきたけれど、「これからもこの業界に残れるかはお前にかかっているんだぞ」と言っていただいたことは、今に繋がっていると思います。また、この作品に出るまでは2世という色眼鏡で見られていることや、その期待に応えられない自分への歯痒さもあったのですが、この作品で本気で役に向き合ったことで、そういった気持ちも変わっていった転機ですね」
−『ガラスの仮面』も、現在ご出演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』もオーディションで勝ち取られた役ですね。
「私、オーディションが大好きなんです。グループでのオーディションだと十人十色の演技を見られるし、歌だと特にレベルが顕著に分かります。ある意味、自分の今が測れる場所だと思っていて。オファーももちろん有り難いですけれど、自信過剰になることが1番怖いし、年々オーディションを受ける機会が減っていくので、積極的に受けたいんです。海外のスタッフだと特に今までのキャリアを関係なく見てもらえるので、燃えますね。『ガラスの仮面』もオーディション雑誌を見て受けるのを決めました」
−オーディションが好きという俳優さんはなかなか珍しい気がします。
「全国から色々な方が集まってくる空気や、自分が未熟だと感じられるのも好きなんです。誰も言ってくれないんですよ。女優として今どのくらいなのか。テストも資格もないですし。受かるか落ちるかは実力だけでなく作品と合うかどうかなので、落ちることが続いてもあまり悔しがらず、すぐに次の目標を立てることが多いです。ぜひ40代50代もオーディションをたくさん受けたいです」
−舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演中の大和田さん。ハリー・ポッターシリーズはご覧になっていましたか?
「実は全く見ていなかったんです。海外スタッフと作品作りができるということに惹かれて、オーディションを受けることを決めました。もちろんオーディション前に映画も舞台も観ましたが、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は私自身も2世なのでアルバスにとても共感しましたし、母親としてハリーたちの葛藤も分かって。私は母を亡くしているので、大切な人を亡くしても過去を変えるのではなく受け入れて未来を見ていくというところも深く共感できて、涙が止まりませんでした。もう私がやるしかない、私がやりたいという気持ちでオーディションを受けました」
−実際にカンパニーに参加してみていかがですか?
「親子の葛藤や愛は普遍的で深いテーマなので、ロングラン公演への参加は初めてですが、ずっと演じていても飽きることのない自信がありますね。Wキャストやトリプルキャストというのも初めての経験ですが、相手が変われば自分も変わって、相手があってこその自分だという演劇の根幹に触れられて、自分自身が成長できるんじゃないかなと思います」
−ジニーはアルバスとハリーを繋ぐ存在ですよね。
「アルバスがハリーを信頼しきれていない中で、母親を絶対的に信頼できるということは救いでもあると思います。ジニーは絶対的に信頼できる母親であり、ハリーにとっても安らげる存在であり、またハリーのお尻を叩く強さも必要ですよね。ハリーはヒーローでありながら弱くて不完全な人なので、それを認めている存在です。舞台上でもハリーに対して「なんでそんなこと言っちゃうんだ!」ともどかしいのですが、完璧じゃなくていいということを認めてくれる作品でもあるなと思うんです。「不完全であることが完全」である人間らしさ、ハリー・ポッターやダンブルドアでさえ完全じゃないんだから、あなたも大丈夫よと言われてくれている気がします。
それでいて、誰かを失ったり現実に向き合わされたりした時に大切なのは、1人じゃないということ。家族や友人やパートナーがいることが、どれだけ素晴らしいことか。孤独と愛について考えさせられます。魔法だけでなく、とても演劇的な作品なので、演劇を好きな方にもっと来ていただきたいですね」
−大和田美帆さんが感じる演劇の魅力とは?
「目の前で人がやっているということと、明日すぐにできることではないということにいつも感動するんです。職人だなって。1ヶ月2ヶ月稽古して、努力を蓄積して創り上げていくものなので。それでいて見えない景色や人生を想像する余白を作ってくれている。人間の想像力を信じているということに感動しますし、そういう作品が好きですね。お客様に委ねる部分もあって、お客様が最後のピースであると本当にいつも思います。私自身も見えない行間をいかに想像してお客様に届けるかを意識しています」
大和田獏・大和田美帆 芸能生活50周年&20周年記念公演 『BAKUMIHO』は2023年11月17日(金)、Tokyo fm ホールにて開催されます。詳細は公式HPからご確認ください。
「演劇オタクで、子どもの頃から劇場に行くことが救いだった」という大和田美帆さん。疲れて稽古に行きたくないと思ったことが一度もないのだとか。「夢が叶っている」と、演劇への愛が深く溢れる方であることが伝わるインタビューでした。