フランスの文豪スタンダールの名作『赤と黒』を原作に、ミュージカル『SIX』の共同演出家を務めたジェイミー・アーミテージさんが演出を手がけるミュージカル『赤と黒』。三浦宏規さん、夢咲ねねさん、田村芽実さんらが力強いフレンチロック音楽と共に、情熱的な愛の物語を描く本作のゲネプロリポートをお届けします。
野心を隠す寡黙なジュリアンと、美しい貴婦人ルイーズの許されざる恋
フランスの文豪スタンダールの名作『赤と黒』を原作とし、『1789』『ロックオペラ モーツァルト』などを手掛けたフランスのプロデューサー、アルベール・コーエンさんによって2016年にパリで初演されたミュージカル『赤と黒』。
ナポレオン失脚後の王政復古の時代の19世紀フランスを舞台に、貧しい製材屋の息子として育った美しい青年ジュリアン・ソレルの情熱的な恋と、野心溢れる彼の辿る運命を、フレンチロックの楽曲で彩る作品です。今回演出を手がけるのは、あの世界的大人気ミュージカル『SIX』の共同演出家を務めたジェイミー・アーミテージさん。
ストーリーテラーのジェロニモと赤い衣装を身に纏ったアンサンブルキャストが登場すると、そこは一気にミュージカル『赤と黒』の世界。ロックな音楽を舞台上で奏でるバンドの音色と、ジェロニモを演じる東山義久さんの渋みのある歌声、そして美しくキレのあるダンスを繰り広げるキャストたちの姿に、一気に心を掴まれます。
黒が印象的な衣装で登場した主人公のジュリアンは、野心家で繊細な美少年。小さな町で、貧しい生まれを理由にブルジョワたちから蔑まれる日々への恨みを、心の中で沸々と募らせています。ジュリアンを演じる三浦宏規さんは、寡黙で知性のある表の顔を演じながら、“年齢は関係ない。見た目で決めつけられてたまるか”という反骨精神溢れる裏の顔をロックな歌とダンスで、エネルギッシュに表現していきます。
聖職者になり出世するという野心を抱くジュリアンですが、彼の情熱的な一面が運命を大きく変えていくことに。家庭教師として訪れたレナール家で、貞淑な婦人ルイーズ・ド・レナールとの禁断の恋に溺れてしまうのです。ジュリアンが憧れる清廉なルイーズを演じるのは、夢咲ねねさん。見栄や体裁ばかりにとらわれる夫に心の底で呆れ、真の愛を求める彼女とジュリアンの恋は、禁断ながら美しく繊細に描かれていきます。
しかし2人の恋はジュリアンの夫・レナール(東山光明さん)の町長の地位を狙うヴァルノ(駒田一さん)によって暴かれ、ジュリアンは町を去っていきます。ブルジョワ内の醜い見栄の張り合い、権力争いに明け暮れ、貧民層を見下すレナールやヴァルノ。ともすると彼らを憎き悪役に仕立て上げ、ジュリアンとの対立構造を簡単に作り上げることもできますが、本作は各キャラクターの心情を音楽によって丁寧に描写。それぞれが時代の中で必死に生きていく姿は愛おしさも感じます。
女性支持率200%!ロックで愛らしいマチルドに心奪われる2幕
そして愛はもう懲り懲りだと女性を嫌悪するジュリアンの前に現れるのが、奔放で自由な女性マチルド。ラ・モール侯爵(川口竜也さん)の令嬢でありながら、自分のご機嫌を伺って退屈な話ばかりするブルジョワの男たちにうんざりしています。
2幕冒頭「誰も彼も退屈」で、ピンクのドレスを身に纏い、ロックな歌声とダンスで登場するマチルド役の田村芽実さんは、とにかく激烈にかっこいい!彼女の登場シーンに心奪われない人などいるのでしょうか。奔放さ・強さ・愛らしさを持つ、女性支持率200%のキャラクターの誕生です。
ありきたりではない相手を求めるマチルドは、勤勉な姿とは裏腹に野心を内に秘めたジュリアンに興味を持ちます。白い衣装で、純真さを描かれていた高嶺の花のようなルイーズと、ピンクのドレスや黒の喪服を身に纏い、ジュリアンと似た裏の顔や反骨精神を持つマチルドは対照的。ジュリアンは気分屋に見えるマチルドに振り回されながらも、どうしようもなく彼女に惹かれていきます。
しかし身分違いの2人の恋は一筋縄ではいきません。さらにジュリアンを妬むヴァルノの企みによって、運命の歯車は徐々に狂い始めてしまいます。
シーン毎に絵画的に美しく作り込まれている本作を、三浦宏規さん・夢咲ねねさん・田村芽実さんと、魅せ方を熟知したプロ達が演じていくのは納得の配役。多くのダンスシーンにも魅了されます。繊細さと情熱、野心を併せ持つジュリアンは、『千と千尋の神隠し』『のだめカンタービレ』出演などミュージカル界で躍進の続く三浦宏規さんご自身の姿にも重なり、本作を今演じられることが運命的なタイミングでもあるように感じます。
そしてアンサンブルキャストが物語の役柄だけではなく、ダンスを通してキャラクターたちの情熱的な心情を描く役割を担っていることも印象的です。また東山義久さん演じるジェロニモが時にジュリアンの良き友として、観客と作品を繋ぐストーリーテラーとして活躍していくことで、効果的に本作の完成度を高めます。
音楽は幕間や終演後も耳に残り続けるようなキャッチーさと、思わず体を揺らしたくなるロックで現代的な音色。照明によって作り出される影や、赤・白・黒と色を印象的に用いた衣装、手紙や花びらが舞う演出など、多くの美しく刺激的な要素が畳み掛けてくることで、毎秒、虜にさせられる作品です。ジュリアンが迎える結末には、彼が本当に求めるものが何だったのか、少し疑問の残る部分もありますが、そこも観客が“語りたくなる”ラストと言えるのかもしれません。総合芸術としての完成度が高く、何度もおかわりしたくなってしまう名作ミュージカルの誕生をお見逃しなく!
ミュージカル『赤と黒』は12月8日(金)から12月27日(水)まで東京芸術劇場プレイハウスにて上演。1月3日(水)から1月9日(火)まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて大阪公演が行われます。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。
音楽が耳に残る、シーンが目に焼きつく作品。日本で今後何十年と愛され続ける作品になるのではないか、そうなってほしいと願っています!