4月25日から7月22日にかけて、KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉では劇団四季ミュージカル『クレイジー・フォー・ユー』の横浜公演が行われています。劇団四季を代表する人気作でありながら、筆者は今回が初めての観劇。ハッピーで溢れた舞台に、心を躍らせてきました!(作品の紹介と今後の上演予定についてはこちらをご覧ください。)

あなたに首ったけ!恋の矢が飛び交うハッピーな物語

漫画やアニメの世界では、主人公が恋をするとスポットライトが当たり素敵な音色がどこからか鳴り響くという描写がよくあります。客観的には「そんな大げさな」と思える表現ですが、ミュージカル『クレイジー・フォー・ユー』は、そんな大げさで可愛らしい恋心がギュッと詰まったラブコメディです。

ニューヨークに住むボビー・チャイルドは銀行の跡取り息子・高学歴・セレブな婚約者持ちというハイスペックでありながら、ショービジネスの世界に夢中。タップダンスにしか興味のない彼を夢中にさせたのが、さびれた田舎町・ネバダロックで出会ったポリーという女性です。

ポリーに一目惚れしたボビーは、初対面でキスを交わし、得意のダンスで猛アタック!心が動きかけたポリーですが、ボビーが劇場を差し押さえに来た銀行員だと知ると頬を思いっきり引っ叩いて彼を振ってしまいます。

そんなポリーも、踊り子を連れて劇場にやってきた名プロデューサーのベラ・ザングラーに恋をしますが、実はそれはボビーが変装した偽物のザングラーなのです!そうとは気づかず、ザングラーに化けたボビーへ熱烈にアピールするポリー。

いつの間にか本物のザングラーまで、愛しの踊り子テスを追いかけて町にやってくる始末。さらにボビーの婚約者アイリーンも現れ、キューピッドの恋の矢が舞台のあちこちで飛び交います。

「あなたに首ったけ」という意味のタイトルにふさわしく、ボビーを筆頭に、キャラクターたちは周りが見えなくなるほど恋に夢中になってしまうのです。その様子が軽やかなダンスナンバーと小粋でドラマチックなガーシュイン・ミュージックに乗せて展開されるので、客席にまで恋の多幸感が溢れてきます。

愉快な身のこなしはステップ一步さえ見逃せない

劇中では、「Shall We Dance?」や「Slap That Bass」などガーシュウィン兄弟による名曲がおもちゃ箱のように次々と飛び出します。音楽の楽しさもさることながら、ミュージカルシーンの振付が斬新かつアニメチックで驚かされました。

炭鉱のツルハシやのこぎりを使ってビッグナンバー「I Got Rhythm」を踊るシーンは、賑やかでミッキーマウスのトーキー映画を見ているようなワクワク感があります。

身のこなしで客席の笑いを誘っていたのが、ボビーとザングラーが酔いつぶれて歌う「What Causes That?」のシーン。ボビー役の斎藤洋一郎さん、ザングラー役の志村要さんはグラスを持つ手先や千鳥足までお互いの演技を鏡のように真似していて、息ピッタリな身のこなしはステップ一歩さえ見落とすのが惜しいくらい愉快でした!

作品主義の底力が垣間見える秀作

『クレイジー・フォー・ユー』は、劇団四季が1993年から上演している劇団の”古き良き”人気作です。今回の公演は2015年以降8年ぶりの上演となり、作品に初めてかかわる俳優とこれまで出演経験のある俳優が手を携えて作品を作り上げている様子が舞台からも感じられました。

それもそのはず。劇団四季のミュージカルは「作品主義」によって、演じる俳優が違っても作品そのものが持つ面白さを日々届けており、本作でもその志がしっかりと生きています。

筆者がこの日観たボビー役の斎藤洋一郎さんとポリー役の相原萌さんは、この公演が『クレイジー・フォー・ユー』初参加のお二人です。

お調子者でどこか憎めないボビーとじゃじゃ馬でキュートなポリーのコンビネーションは抜群で、喧嘩するさまもロマンチックに踊るさまも愛らしくて惹きつけられました。

先輩俳優の中では、かつてポリーを演じていたアイリーン役の岡村美南さんとテス役の宮田愛さんが魅せる大人の女性の魅力から目が離せません。

アイリーンとテスはそれぞれ性格は異なりますが、どちらも男性を翻弄させる包容力と色気を兼ね備えた女性です。かつてお二人のポリー役を観たことがある方なら、そのギャップに驚くのではないでしょうか?

いつ観ても誰で観ても楽しめるミュージカル『クレイジー・フォー・ユー』は、劇団四季の作品主義が発揮されている秀作です!

さきこ

劇団四季ファン歴7年目の身として、『クレイジー・フォー・ユー』は「いつかは生で観たい!」と再演を心待ちにしていた作品でした。 念願が叶いまさにボビーと同じく「この日が来るのを信じていたよ!」という気持ちです。 ハッピーエンドで終わる笑いに溢れたラブコメディは、終演後に劇場を後にする際も楽しさい余韻で舞い上がり、スキップしたくなるほどでした!