2023年に没後40周年を迎えた寺山修司を主人公に、「あしたのジョー」他、寺山修司さんの楽曲も交えたオリジナル音楽劇『テラヤマキャバレー』。新進気鋭の劇作家・池田亮さんの書き下ろしで、香取慎吾さんが寺山修司を演じます。2月9日の開幕を前に、舞台挨拶と公開ゲネプロが行われました。
1人の芸術家が、我々は一体何者なのかを問う作品
舞台挨拶には本作で脚本を手がけた池田亮さん、演出のデヴィッド・ルヴォーさんと、香取慎吾さん、成河さん、伊礼彼方さん、村川絵梨さん、平間壮一さん、凪七瑠海さん(宝塚歌劇団)が登場。本作にかける思いを語りました。
池田さんは寺山修司さんの戯曲はもちろんのこと、歌、エッセイ、書物などを読み漁った上で、「今生きている自分たちがどう面白く表現できるか」に対峙し創作されたと言います。また「慎吾ママ世代なので、寺山修司さんの書物や歌を眠気の限界まで読んだ後に、慎吾ママの映像を見てから爆睡して、その時の夢を描き出して作っていった」と創作方法を明かし、「寺山修司さんと香取慎吾さん、2人に当てがきをしたような感覚」であることを語りました。
デヴィッド・ルヴォーさんは、「1人の芸術家が、我々は一体何者なのかを問う作品にしたい。その中で、様々な日本の芸術・芸術家を旅する物語になりました。ただ個人的な思いとしては、“my love letter to Japanese theater”(日本の演劇へのラブレター)になっています」と作品への思いを語ります。
また香取慎吾さんに対しては、「多くの人には決してない、とても恵まれた才能があります。それは、自然と観客と一体化して繋がれること。特にこの作品では客席と繋がれなければいけない。物語の語り部として素晴らしい」と絶賛しました。
死の直前まで創作を続ける寺山修司を演じる香取慎吾さんは、「いつもの“慎吾ちゃん”とはちょっと違う感じで日生劇場の舞台に立っています」と笑顔で語りながら、「稽古中に、寺山修司さんが亡くなった歳と同じ歳になりました。寺山修司役なんですが、キャバレーのオーナーでもあり、時には香取慎吾だったりするような気もします」と役柄との深い縁を感じている様子。「日常では味わえないエンターテイメントの夢の世界をたくさん感じていただける作品になっていると思います」と作品の魅力を語りました。
成河さんは、「日本で演劇を創る外国人演出家はたくさんいらっしゃると思うんですけれど、デヴィッド・ルヴォーさんほど、日本の古典・近代・現代の演劇、芸能、日本語、ひいては日本という国そのものに対して興味関心を持ち続けて創作している方はとても稀だと思います。そんなデヴィッドさんの集大成のような作品になっているんじゃないかなと思うので、そのメッセージを自分自身、受け取れたら」とコメント。
伊礼彼方さんは寺山修司さんが肝硬変で亡くなった時の血が混ざっていくイメージから生まれた、“蚊”を演じます。「蚊は色んな人の血を混ぜて、ミックスさせて、新しい刺激を求めていくんですけれど、混ざっていくキャスト・スタッフのエネルギーが客席に伝わった時、客席の1人1人の体にエネルギーが混ざっていって、刺激的なショックを受けていただけるのでは」と熱を込めて語りました。
凪七瑠海さんは、寺山に迫る“死”を演じます。宝塚歌劇団以外の公演に出演するのは初めてということで、「すべてが新鮮で刺激的で衝撃で、ただただ圧倒される日々でした」と振り返ります。「素晴らしいカンパニーの皆様に付いていけるように、そして“死”として作品にエッセンスを加えられるように頑張りたい」と意気込みました。
村川絵梨さんは「まるで何も想像が出来ないまま稽古に入って、ルヴォーさんという壮大で寛大な船に乗って、未知の旅をあれよあれよと来て、いつの間にか初日という素晴らしい体験をさせて頂きました。熱量とジェットコースターのような体験を楽しんで頂けたら。こんなに皆さんの感想が楽しみな作品もなかなかないです」と観客の反応を心待ちにしていることを語りました。
平間壮一さんは「稽古中にルヴォーさんが戦争の話をされて、日本と僕たちの国は敵同士だったこともあるし、そんな2つの人種が一緒に作品を創っているということは奇跡的なことだよねという話をされたことがあった」と明かします。またそのお話を受けて、「人間や、人間の愛についての作品なのだと思った」「人間は完璧なものを求めがちなんですが、不完全だからこそ深みがあったり、みんなでどういうことだろうと考えるとコミュニケーションが広がったり、そういった人間がテーマになっている作品なんだと感じました」と語りました。
「どんな鳥だって想像力より高く飛ぶことはできないだろう」
寺山修司の脳内で、彼がオーナーを務めるキャバレーに集う劇団員たち。寺山は彼らに、白粥・アパート・暴言・ミッキーなどの名前を与え、新たな戯曲『手紙』のリハーサルを始めます。しかし彼の前に突如“死”が現れ、「時計の針は止まった」と告げます。リハーサルを続けようとする彼と劇団員たちを前に、“死”は日が昇るまでの時間と、過去や未来に飛べるマッチを与えることに。その代わり、感動する芝居を書くよう要求します。
残り僅かな時間を与えられた寺山は、戯曲を書き続けます。煮詰まった寺山がマッチを擦ると、キャバレーは近松門左衛門の人形浄瑠璃「曽根崎心中」の稽古場や、2024年の歌舞伎町の世界へ。様々な刺激を受けながら、寺山は母親のことを思い出します。
2024年の「言葉は残っていない」世界を見て、途方に暮れる寺山。それでも唐十郎との乱闘や、彼と過ごした刺激的な日々を思い出しながら、「言葉」を、そして「質問」をこの世に残すべく、書き続けていきます。
日本に、そして世界に影響を与えた寺山修司。香取慎吾さんはその姿を時に危うげに、時に自然体で演じ、デヴィッド・ルヴォーさんが舞台挨拶で語った通り、客席との繋がりを感じさせます。存在感のある立ち振る舞いの中から滲み出る「言葉」への愛と死への不安。寺山の感情の機微を繊細に演じていきます。
確かな演技力と力強い歌声で観る者を惹き込む成河さん、常に不穏さを漂わせ、死へ向かう寺山の不安を体現しているかのような伊礼彼方さん、愛嬌と身体能力の高さで作品に彩りを加える平間壮一さんも印象的。奇怪でまさに“夢の中”を現した劇団員たちの言動と、「あしたのジョー」を始めとする楽曲は、観る人によって、また観る度に、受け取る印象が変わりそうです。
「どんな鳥だって想像力より高く飛ぶことはできないだろう」と言った、寺山修司の言葉。作中を通して寺山が投げかける数々の“質問”を、あなたはどう受け取りますか?
『テラヤマキャバレー』は2月9日から29日まで日生劇場、3月5日から10日まで梅田芸術劇場メインホールにて上演が行われます。公式HPはこちら。また、作中でも香取慎吾さんが歌う楽曲「質問」は、各音楽配信サービスにて配信が行われます。
「日常生活の中で、上を向いて笑顔でいられる時間ばかりではないと思います。下を向いてしまう時もあると思いますけれど、劇場に来て頂いてこの作品を観て頂いたら、帰る時にはどこか上を向いて、自分の中に残った言葉を見つめる時間が訪れると思います」と真摯に語った香取さんの言葉の通り、寺山修司の残した“言葉”を反芻しながら帰る作品でした。