梅田芸術劇場と英国チャリングクロス劇場の共同制作で企画・製作され、藤田俊太郎さん演出によって英国キャスト版と日本キャスト版が上演されたミュージカル『VIOLET』。日本版はコロナ禍の影響でわずか3日間の上演となっていた本作が、待望の再演を迎えます。三浦透子さんと屋比久知奈さんがWキャストで主人公ヴァイオレットを演じます。

ヴァイオレットが旅の中で見つける、傷を癒すもの

梅田芸術劇場が英国チャリングクロス劇場と共同で企画・制作・上演し、英国キャスト版・日本キャスト版が各国それぞれの劇場で上演されたミュージカル『VIOLET』。演出家・藤田俊太郎さんが渡英し、現地のキャスト・スタッフと作り上げた2019年のロンドン公演は、オフ・ウエストエンド・シアター・アワードで作品賞を含む6部門にノミネートされました。日本キャスト版は2020年、コロナ禍の中止を乗り越え、3日間の限定上演。2024年に待望の再演を迎えます。

主人公のヴァイオレットを演じるのは、三浦透子さんと屋比久知奈さん。(公開ゲネプロでは三浦透子さんが出演)舞台は1964年、アメリカ南部の片田舎。幼い頃、父親による不慮の事故で顔に大きな傷を負ったヴァイオレットは、25歳まで人目を避けて暮らしていました。

しかし自分の人生を変えるため、そして「あらゆる傷を癒す」という奇跡のテレビ伝道師に会うため、西へ1500キロ、長距離バスの旅に出かけます。顔の傷によって偏見の目を向けられてきたヴァイオレットには卑屈さがありつつも聡明で、人生を変えたいという純粋で強い願いに突き動かされています。

バスで出会ったのは、黒人兵士フリック(東啓介さん)と白人兵士モンティ(立石俊樹さん)。ヴァイオレットは父親(spiさん)に教わったポーカーで彼らと打ち解け、それぞれの異なる境遇、価値観を持ちながらも共に旅を続けていきます。フリックは、ヴァイオレットが初めて出会った黒人でした。外見で差別されるという共通の傷を抱える2人は共鳴し合いながらも、その傷ゆえに生まれる繊細さが2人を阻みます。

フリックを演じるのは、『ラグタイム』に引き続き藤田俊太郎さん演出作品に出演となる東啓介さん。力強い歌声でヴァイオレットと観客を魅了しながら、揺れ動くフリックの心を細やかに演じています。

ヴァイオレットの脳内を辿るように、子ども時代の記憶と現代が交差していく構成。不器用ながらも愛に溢れた父親(spiさん)との思い出と絆が、彼女の人生を強く支えてくれます。

ミュージックホール・シンガーを演じるsaraさんや、ゴスペル聖歌隊のソリスト・ルーラを演じる谷口ゆうなさんらが圧巻のソウルフルな歌声を響かせるのも、ミュージカル『VIOLET』の魅力でしょう。

テレビ伝道師を演じる原田優一さんはその実力とコミカルさを遺憾なく発揮し、「胡散臭さ全開」な伝道師を熱演。本作の重要なスパイスとなっており、劇場の空気を支配してくれるはずです。

撮影:山本春花

全体的にヴァイオレット色を基調にした衣装は、『ラグタイム』でも美しい色づかいが光った藤田さんらしい演出。冒頭には黒人差別の時代背景を意識させる映像演出があり、本作のテーマをしんしんと伝えます。

外見は気にするな、重要なのは心だ。ヴァイオレットとフリックが受けてきた傷を思うと、そう簡単に言えるでしょうか。多くの人が自分の外見に悩み、「もしあの人になれたら」と妄想した経験があるはずです。そして外見に限らず、人は誰もが、何かしらの傷を抱えて生きているのかもしれません。またそれは、簡単に変えられるものではなく、日々、生きている限り、付きまとう問題なのかもしれません。しかしヴァイオレットが人生を力強く切り拓き、前に進もうとする姿は、私たちに大きな勇気を与えてくれます。

撮影:岡千里(※本写真のみ)

ミュージカル『VIOLET』は4月7日(日)から21日(日)まで東京芸術劇場プレイハウス、4月27日(土)から29日(月・祝)まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、5月4日(土・祝)に福岡・キャナルシティ劇場、5月10日(金)から11日(土)まで宮城・仙台電力ホールで上演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

三浦透子さんと屋比久知奈さん、同じ役のWキャストながら、衣装の色が異なるようです。そして本作には迫力の距離で楽しめるオンステージシートが!作品の一部になったような、世界観にグッと入り込める席になっています。