16世紀半ばから17世紀ごろのフランスで取り入れられ、現代の創作においては珍しくなった「三一致の法則」とは一体どのようなものなのでしょうか。
集中度がUP!?17世紀フランスの演劇に革命をもたらした「三一致の法則」
16世紀半ばのフランス演劇では「三一致の法則」という手法が戯曲に取り入れられていました。
三一致の法則とは、「演劇は、1日(24時間以内)の間に、1つの場所で起こる、1つの事柄(筋)を扱わねばならない」という劇作上の制約です。この法則を使うことによって、観客の集中を集められ、緊密な作品を作ることが可能になります。
古代ギリシアの哲学者・アリストテレスは、著書『詩学』において、優れた詩的表現の条件として「筋の一致」の必要性を説いていました。16世紀のルネサンス活動により、この『詩学』の一節が「再発見」され、解釈の曲解から「三一致の法則」が提唱され始めたと言われています。
「三一致の法則」は、荒唐無稽なメロドラマが氾濫していた当時のフランスに受け入れられ、良識を重んずる貴族の教養と趣味を代表する演劇をつくるのに役割を果たしました。特にフランスの詩人ニコラ・ボアローが古典主義文学として『詩法』にまとめたことで、17世紀のフランス古典主義演劇にとって重要な原則となっていきます。
フランス古典主義演劇の金字塔『フェードル』における「三一致の法則」
「三一致の法則」は、17世紀フランス古典演劇を代表する劇作家のコルネイユ、ラシーヌ、モリエールらに多大な影響を及ぼしました。中でも、古典主義演劇が強く支持され続けたのは、ラシーヌが忠実に「三一致の法則」 を守り、次々と傑作を生み出し続けたことと大きく関係していると考えられます。
ラシーヌの書いた「古典主義演劇」の典型、『フェードル』。フランス演劇の金字塔的な作品です。
『フェードル』は1677年に発表された悲劇で、古代ギリシャの三大詩人エウリピデスのギリシャ悲劇『ヒッポリュトス』から題材を得て創作されました。悲劇へと向かう女性の姿を描く美しく輝く台詞、 神話的世界をもとに表現した抵抗しがたい破滅的激情は 「人間精神を扱った最高傑作」と言われます。
『フェードル』においての「三一致の法則」を見ていきましょう。まず「時間」ですが、「幕」が進んでも、登場人物が入れ替わるだけで、劇中の時間経過は常に流れている時間と一致しています。
次に「場所」は、「ペロポネソス半島の町、トレゼーヌにある城内の一室」から動きません。ちなみに、他の場所で起こった出来事は、その状況を目撃した人物によって間接的に告げられるという形で解消されています。
最後に物語の「筋」については、フェードルの禁断の恋を中心に、周囲が翻弄されていくストーリー展開で、サイドストーリーは見受けられません。 このように、ラシーヌ劇において、「三一致の法則」は守られるべきルールとして常に根幹に存在しています。
当時は劇作の基本とされていた「三一致の法則」ですが、これをことごとく無視して、シェイクスピアは『ロミオとジュリエット』を書き上げました。「さすがシェイクスピア…」と感心してしまうエピソードです。