俳優・小野田龍之介さんの連載企画「小野田龍之介と春夏秋冬さんぽ」。季節を感じる場所をお散歩しながら、ミュージカルのことはもちろん、小野田さんの近況やこれまでについて様々な視点で掘り下げていきます。第2回目のテーマは「リラックス」。日々忙しいお稽古や公演がある中で、小野田さんはどのようにリラックス時間を作っているのでしょうか。
何が起きてもフラットでいられるよう、日常では感情を揺さぶられない
−4月27日には『ピーター・パン』キャストとして日比谷フェスティバルに出演されました。野外での歌唱はいかがでしたか?
「気持ち良いですよ。緑もあって水も流れていて、自然を感じながら歌えるのはめちゃくちゃ嬉しい。ミュージカルは基本的に、外のシーンでも劇場の中でやるじゃないですか。だから外のシーンを実際に外で歌えるって良いですよね。
僕は『ミス・サイゴン』に初めて出演した時、「Why God Why?(神よ 何故?)」の空気感をどうしても掴みたくて、日の出くらいの時間に渋谷のセンター街にあるビルの屋上のテラスを貸し切って、「Why God Why?」を小さい声で歌ってみたことがあるんですよ。雑踏とした人影と朝焼けを眺めながら歌ってみて。稽古場にずっといると外の空気って忘れちゃうので、凄く良い刺激になります」
−今月の連載では、「リラックス」をテーマにお話をお伺いします。俳優として役に向き合う中で、家ではどのように過ごされていますか?
「僕は仕事を家に持ち込みたくないタイプなので、家に帰ったら大好きな「エガちゃんねる」をつけっぱなしにして、仕事のことは一回忘れます。そもそもミュージカルやエンターテイメントが好きなのでそういう映像を見ることはもちろんありますが、神経質にならなきゃいけない仕事のことは考えない」
−台詞はどこで覚えられるのでしょう?
「台詞は家で覚えているのかな。でも最初に情報を頭に入れたら、その後はあまり台本を開かないです。なるべくオンオフを切り替えることを大事にしている方が余白も生まれると思いますし、しんどくなりにくいと思います」
−稽古中は様々な段取りを覚えなければならないと思いますが、いっぱいいっぱいになることはないのでしょうか。
「なりますよ。もう嫌だと思うんだけれど、でもそこから生まれる感動を考えれば、苦じゃないんですよね。それに、段取りをいかに自分の役に入れ込めるかを考えるのは楽しいです。演出家の求めることに応えるには俳優の実力が必要だから、いかにそれに応えていけるか。こうやれば出来るなとか、考えるのを楽しんでます」
−家では「エガちゃんねる」以外にリラックス方法はありますか?
「お風呂が大好きなので、お風呂でとにかく汗をかいて、アロマを焚いて癒される時間を大事にしています。お芝居ってとても非現実的な部分を切り取っていて、激動的じゃないですか。だからこそお客様は惹きつけられるし、ミュージカルの魅力だと思うんですけれど、ずっとその芝居をしていると息をしたり、ぼーっとしたりすることを忘れてしまうんです。感情が上に行きっぱなしだと芝居でもtoo muchになってきてしまうので、ゆっくり息をするというのは忘れないようにします」
−稽古期間中はなかなかまとまったお休みもないですし、スケジュールも変則的ですよね。
「そうですね。だから空き時間の上手い使い方はみんな自分なりにあるんじゃないかな。どんなスケジュールが来ても、何が起きてもフラットでいられるように、日常では感情を揺さぶられないようにする。これは鍛錬です」
地方公演のホテルにはワインを常備?!
−本番期間中は体調管理も重要ですが、どのようなことに気をつけていますか?
「とにかく食べることと寝ること、あとは劇場にトレーナーさんがいてくださるので、いつどうほぐしてもらうかは考えますね。本番前に緩めてもらうのか、本番後が良いのかなどは向き不向きがあるので、自分との体の付き合い方というのは凄く考えます。疲れた上で本番をやると、声も体もどんどん傷んできちゃうので。踊りがない作品だとあまり体力を削られないと思われがちなのですが、舞台上に立っているだけでも凄く体には負担がかかっているんです。舞台に立つ俳優はアスリートなので、体のケアはとても大事ですね」
−小野田さんは本番前・本番後、どちらにトレーナーさんに見てもらうことが多いですか。
「朝にまず見てもらって、声や背中、体の凝りを取れるように緩く流してもらいますね。その日の疲れ具合で本番が終わってからも見てもらう日もあります。だからトレーナーさんは1日いて頂かないといけないし、何十人のキャストの体を理解しないといけないので、大変ですよね。本当にいつもお世話になってます」
−地方公演ではホテル暮らしになり、またリラックス方法も変わってくるのでしょうか。
「僕は家の枕をどの地方公演でも持っていきますね。枕だけは、自分の使い慣れているものじゃないと無理。アロマは決まったものをホテルでも焚いています。あとは、いつでも飲めるように赤ワインを3本くらい常備しているんですよ。ルームサービスで頼むこともあるけれど、飲みたい時に飲みたいから(笑)」
−楽屋での過ごし方はいかがでしょうか。
「加湿器とか、楽屋に置くものは、どの演目どの劇場でも置く位置が決まっていて、全部いつでも一緒じゃないと落ち着かないんです。コンセントの都合でどうしても変わっちゃう時は、しばらくの間眉間に皺寄ってます(笑)よく周りにいる人に言われるのですが、僕は何年でも同じことをずっとやっていられるんですよ。飽きるということがない。ルーティンでやり始めると、ずっとやり続けちゃいます」
−ルーティンが崩れると不安になるからルーティンを作らない、という方もいますよね。
「僕は何がなんでもやるんで(笑)。もちろん全てが出来ない時もあるけれど、最低限これだけやるというものがあるから、ルーティンが出来なかった時の対処法も用意してあります」
−SNS疲れをすることは?
「ありますよ。出来ればSNS断ちしたいくらい。でも気づいたら見ているんですよね。ただ結構流し見している感じかもしれないです。少し感じるのは、俳優が簡単に思想を語れるようになってしまったということ。俳優の思想は舞台上で見えるものだと思っているので、言葉が先行してしまうのはもったいないかなと。お客様にも、観劇したその瞬間に見えるもの、感じるものを大事に楽しんでもらいたいです」
−なかなか長期休みは取れないと思いますが、1週間お休みがもらえるとしたらどこに行きたいですか?
「海外に行くか、ずっと家にいて何もしないか、どっちかですかね。ロンドンで『千と千尋の神隠し』の上演が始まったので、ロンドンでどのようになっているのかは観に行きたいな。後は南国や、気軽に行ける韓国も良いですね。でもせっかくミュージカルって国際的な仕事だから、仕事で海外に行きたいです。ウィーンやブロードウェイ、ロンドン、韓国などに仕事で行く機会が増えたらもっと楽しいだろうなと思います」
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