俳優・小野田龍之介さんの連載企画「小野田龍之介と春夏秋冬さんぽ」。季節を感じる場所をお散歩しながら、ミュージカルのことはもちろん、小野田さんの近況やこれまでについて様々な視点で掘り下げていきます。第3回目のテーマは「子ども心」。子ども心をくすぐるミュージカル『ピーター・パン』について、また小野田さんが子どもの頃に影響を受けた作品についてもお話を伺いました。

人間の力を最大限に生かした長谷川寧版『ピーター・パン』

−昨年は初めてミュージカル『ピーター・パン』に出演してみていかがでしたか?
「生まれた時から身近な作品で、子どもの頃は寝る時に『ピーター・パン』のVHSを流しながら寝ていた記憶があるんです。もちろんミュージカル『ピーター・パン』も観たことがありました。でもいざ出演してみてこの作品がいかに多くの方に愛され続けているかということに度肝を抜かれました。初演から40年以上経って、令和の子どもたちにも楽しんでもらえる色褪せない作品だったんだなというのを、毎日満席の客席を見て実感しました。嬉しかったです」

−昨年は長谷川寧さんが初めて演出を担当されましたね。
「今年で44年を迎える伝統のある作品ですが、昨年は演出が一新されたので、初めてブロードウェイから持ってきて1から作品を作っているようなハラハラ感があったんですよね。だからお客様に楽しんでもらえるかな、面白くなっているかなという気持ちもあったのですが、初日のお客様の反応を感じて、あぁ良かったなと、そこでスタートラインに立てた気持ちでした」

−客席にはお子さんが多くて、いつも出演されているミュージカル作品とは異なる雰囲気ですよね。
「0歳から観られるミュージカルになっていますから、全然違いますね。でも昨年の『ピーター・パン』ではぐずっちゃう子どももほとんどいなくて、夢中になって観てくれていたので、子ども心をくすぐる作品ができたんだなと嬉しかったです。
長谷川寧さんの演出の魅力の1つだと思っているのが、人間の力を最大限に活かすこと。ワニも1人の俳優が動いて表現するのではなく、ダンサーが組体操のように組んで、ダンスをしながら影絵として作ったり、俳優の姿が見えるパペットで表現するシーンも多かったり。
今の子どもはYouTubeを見るのが日常で、最新の映像を見て育っていると思うのですが、リアルな人間の最大限の力というのは凄いなと感じられる演出になっているし、子どもはよりそれを敏感に受け取ってくれるんだと思う。画面の中じゃなく、生って良いなと思わせてくれる作品だし、アナログを大事にした演出だったからこそ、今の時代にマッチしたのかなと思います」

新たな気づきを得たフック船長で、色彩豊かな再演に

−長谷川寧さんの演出で、昨年からの変化はありますか?
「今年は寧さんも僕も、続投組の人たちは一度ゴールを見ているから、気持ちが穏やかですね(笑)。もちろん馴れ合いがあるわけではないんだけれど、やっぱりベースができているというのは非常に大きいですよね。
寧さんはイマジネーション豊かで、それを実現するためにはどうするかというのを試行錯誤するんです。だから稽古時間がいくらあっても足りないくらい熱中する稽古場なんだけれど、昨年で1回完成を作っているから、それを踏まえてこっちの方が良いんじゃないかと話し合いができる。僕も1年前にやったことってほぼ覚えているので、稽古していてもそのシーンに“いられる”感覚がすごくあるんです。台詞も自然と出てくるし。だからこそ、前回はこうしていたけどこういうふうに見せてみたい、というのが僕の中にも出てくるし、寧さんにも出てくるので、それを稽古しながら話し合っています。恵まれた再演だなと思いますね」

−それによって、作品の変化もたくさんありそうですね。
「昨年は長い迷路を歩いている感覚が強かったけれど、今年も迷路は迷路なんだけれど、そこでちょっと絵を描いてみたり、植物を植えてみたり、ちょっと広がっている感じ。パルクールもあってスピード感のある、遊園地みたいな演出だなと思うんだけれど、その世界に出てくる登場人物が色彩豊かになって、より深いところに踏み込んでいけるんじゃないかなと、稽古場にいて思いますね」

−フック船長としての2年目、感じ方の変化はありましたか?
「変わりますね。パイレーツメンバーは新しいキャストが多いので、いかにその新しいエネルギーを自分のエッセンスに取り込めるかというのは、毎日稽古場で敏感に見ています。ちょっと引いて、みんながどう出てくるかを見てみています。
自分の中では一回削ぎ落とすというのをテーマにしていて、そうするとやっぱり色々と新たな視点が出てくるんですよね。前回はこうしていたけれど、こうしてみたら良いんじゃないか?とか。気づきがたくさんあるので、2年連続という早い段階でフック船長にリトライできるのは嬉しいし光栄なことですね」

−パイレーツの皆さんは日比谷フェスティバルでも既にチーム感がありましたよね。
「日比谷フェスティバルではリハーサルの日、本番と、2日間とも飲みに行きました。“宴だ!”って言って(笑)。みんな年齢も近いですし、色々な話ができて仲が深まったと思います。
パイレーツの存在って難しくて、ネバーランドにいるのに大人で野蛮的で、いかに場を荒らせるかが勝負なんですよね。でもフック船長は非常に気高いのにすっとこどっこいなところもあるのが魅力なので、仲間たちは情熱的にやりながら、フック船長はそのキャラクター性を上手く出したいなと考えています。前回はフック船長が声を出していたシーンでも、パイレーツが声を出した方が良いんじゃないかとか、バランスを試行錯誤していますね」

−ピーター・パン役の山﨑玲奈さんとはディズニーシーのファンタジースプリングにある「ピーターパンのネバーランド」に訪れていらっしゃいましたね。
「僕はディズニーが大好きなので既に4回くらい行っているんです。でも山﨑さんは初めてだったので、とても楽しんでいましたね。僕はディズニーに本気なので、集合時間の1時間前に着いていて驚かれました(笑)」

−新たな刺激を受けたことはありますか?
「開放感かな。青空の下にジョリー・ロジャー号やドクロ岩のある入り江があって、外の空気を感じられる世界観を体験できたので、船長として一回り大きくなれた気がします。普段は劇場にいるので、その感覚を得られたのは大事だったと思います」

子どもの頃に感じた感動を忘れずに

−今月の連載のテーマは「子ども心」。小野田さんが子ども心に戻れる瞬間は、やはりディズニーでしょうか。
「そうですね。僕はディズニーに入っただけで童心に帰れるし、僕がエンターテイメントをやる上で一番影響を受けたのはディズニーのショーなので、その音楽を聴いたり映像を見たりするだけで、子どもの頃の感覚に戻りますね。映像を見るだけでも涙が出てくることもありますし、やっぱり高揚感を与えてくれるのはエンターテイメントだなと実感できると、よしやるぞと思えます。お客様にも、長くやっている演目では見ているだけで童心に帰れる、という楽しみ方をしてもらえたら嬉しいですね」

−子どもの頃に観ていた作品は、大人になってもその頃の記憶や感動が甦りますよね。
「やっぱりそういうのは伝統の素晴らしさだなと感じますね。『ピーター・パン』でも子役のマイケル役を昨年やっていて、今年はお兄ちゃんのジョン役をやっている子がいるんですよ。もしかしたらそういう子の中から将来のピーター・パンやフック船長が生まれるかもしれない。『レ・ミゼラブル』ではガブローシュ役の役者がマリウスやアンジョルラス、バルジャン、ジャベールをやっていくこともありますよね。そういうことがあると、演劇の世界ってファミリーとして動いているなぁと感じます」

−子どもの頃に好きだったミュージカル作品はありますか?
「ディズニーミュージカルが大好きだったので、『美女と野獣』と『ライオンキング』は特に思い出深いですね。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』も子どもの頃から大好きでした。王道の作品が好きでしたね」

−『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』と、子どもの頃に好きだった作品に出演されていますね。
「夢が叶っているなと思うのは、子どもの頃はディズニーのショーやミュージカルに魅了されて、お客様を魅了させる俳優になりたいと思っていたのが、今は“小野田さんみたいなエンターテイナーになれるように頑張ります”というお手紙をもらえることです。ディズニーダンサーになりました、という方もいるんですよ。自分が影響を受けたところで働く人が、自分から影響を受けているというのはめちゃくちゃ嬉しいです。僕は子どもの頃に感じた感動を忘れずに今の仕事をしているので、そういうエネルギーを子どもたちや、若い世代に渡せて行けたら良いなと思います。俳優をやる上で、作品主義であることと、影響を与えられる俳優であることというのは意識して頑張っています」

撮影:山本春花、ヘアメイク:野中真紀子、スタイリスト:津野真吾(impiger)
衣装:ポンチョシャツ¥42,900-/ユリウス 他、スタイリスト私物

−ミュージカル『ピーター・パン』にも、初めてミュージカルを観て、魅了される子どもがたくさんいるでしょうね。
「そう思うとやっぱり子どもだましみたいな芝居をしたら失礼だし、子どもってそういうのを見抜くと思うんです。だから真剣に挑みたいし、観て帰ったら、ピーター・パンごっこをする家族の時間を持ってもらえたら嬉しいですね。僕の友達も、昨年は子ども連れで観に来てくれたんです。普段は子どもがいるからなかなか観に来られないけれど、『ピーター・パン』なら子どもと行けると言ってくれて。そうやって劇場に来続けてもらえる作品であることも、この作品の魅力だなと思います」

ミュージカル『ピーター・パン』は7月24日(水)から8月2日(金)まで東京国際フォーラム ホールCにて上演。公演情報・チケット詳細はこちら

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Yurika

2年目の出演となるミュージカル『ピーター・パン』。今回は「パイレーツ応援フラッグ」が付いたパイレーツシートもあり、ますますフック船長の威力が増しそうです。インタビューを行ったのは『レ・ミゼラブル』キャスト発表前でしたが、「子ども心」というテーマの中で『レ・ミゼラブル』についても触れていただき、キャスト発表で改めて「演劇の世界がファミリーとして動いている」ことを実感させていただきました。

小野田龍之介と春夏秋冬さんぽ

小野田龍之介と春夏秋冬さんぽ

連載(8本)