関西演劇祭でフェスティバル・ディレクターを務める板尾創路さんが、演劇界の様々な方と語り合う本シリーズに今回登場したのは、1987年に演劇ユニット「売名行為」の演出で舞台演出家デビューを果たして以降、ミュージカル『マイ・フェア・レディ』や『SPY×FAMILY』、新作歌舞伎などでも活躍し続ける演出家・G2さん。円神としてデビューし、『SPY×FAMILY』に出演した瀧澤翼さんと共に、初鼎談が実現しました。

G2さんの言葉をきっかけに、お芝居って面白いなと思えました

−板尾さんとG2さんのお互いの第一印象は?
板尾「テレビ局の社員さんだったG2さんが演出家としてデビューされたのは、印象に残っていますね。自分のキャリアもある中で演劇に時間を費やしていらして、すごい方だなぁと」

G2「元々演劇が好きで観に行っていたんです。「売名行為」の演出を手がけることになったのは、呼んでもらった打ち上げの席でずっと説教していたからでした(笑)。“もっとこうした方が良い”と具体的に話していたら、その公演は演出家がいなかったようで、“じゃあやってくれ”と言われて」

板尾「それで実際に演出したんですか?」

G2「しました。今思うと恥ずかしいレベルなのですが、たくさんの演劇作品を観ていたので、アイデアのストックはたくさんあったんです。演出をしていたら、自分はこっちの方がワクワクするなということに気づいて。毎日、夕方から朝まで稽古していましたね。若気の至りですよ」

板尾「テレビ局の社員をしながら演劇をしていたなんて、本当にすごいです。異色のキャリアですよね。テレビ局ではどんな番組を担当されていたんですか?」

G2「情報番組などバラエティ系が多かったです。関西なので、ディレクターでも芸人さんと息を合わせてボケツッコミをするのが重要で、それが苦手で。そんな僕からすると板尾さんは、良い意味で芸人らしくなく、ボケやツッコミをしなくてもそこに居させてくれる雰囲気がありました」

−お二人はどのようにして交流が始まったのでしょうか?
板尾「当時はG2さんたちの稽古場が近所で、稽古を見に行ったり、行きつけの店で合流したりしましたね」

−瀧澤さんから見た板尾さんの印象は?
瀧澤「もう事務所の大先輩です。僕が最初に板尾さんの作品を観たのは、映画『私の奴隷になりなさい』なんです。そのお芝居を観て、こんな猟奇的な芝居をする人がいるんだ!と、板尾さんの世界観にどっぷり浸かっちゃいました」

板尾「なかなかすごいところから入ったなぁ(笑)」

瀧澤「全てのシーンがアートのようなんです。映画館というより美術館に来たような気持ちになって、ハマってしまいました」

−G2さんと瀧澤さんはミュージカル『SPY×FAMILY』でご一緒されていますね。
G2「『SPY×FAMILY』はテレビアニメ化が進行している最中にミュージカル化も決まった作品で、そこまで早い段階でミュージカルになるのは、とても珍しいことなんです。アニメ化して、映画化して、最後にミュージカルになるのであれば色々とノウハウが溜まってくるわけですが、そういったものが一切ない状態だったので、原作とずっと向き合って創りました。アニメ版を観るとどこかにアニメ独自のテイストが染み込んでしまうので、不勉強なのですがアニメは観ていなかったです」

−なぜミュージカル化が早い段階で決まるのは珍しいのでしょうか?
G2「原作がある中で、形が見えない演劇を創るのは難しいんですよね。完成後に“ここは違う”となってもそこから修正するのは難しいですから。ヒット作の『SPY×FAMILY』でよくミュージカルをやらせていただけたなと思いますし、原作の意図を反映するという作業はとても大変でした。制約があることで逆に燃えた部分もあったのですが、難しい挑戦も多い中で若いキャストの皆さんが本当に良い子ばかりで、一緒に稽古できて本当に幸せでした」

瀧澤「嬉しいです!!」

板尾「いきなり漫画から舞台になったのは凄いです。海外でも舞台化の需要がありそうな作品ですから、日本で初演ができたのは素晴らしいですね」

−瀧澤さんは出演してみていかがでしたか?
瀧澤「今の若い子達はTikTokやSNSに凄く敏感で、そこには絶対に『SPY×FAMILY』のアーニャが出てくるんです。誰もがアーニャという名前を聞いただけで何の作品か分かるというのは今の時代珍しいと思いますし、僕が演じたユーリは元々僕の推しでグッズも集めていたくらいなので、出演が決まった時は自分の人生で1番飛び跳ねまわりましたね。それから、僕のG2さんの“ここが好きポイント”を話したいんですけど…」

−教えてください!
瀧澤「まず声!僕すごい声フェチなんですけど、G2さんの声が落ち着くんです。だから電車の中で稽古動画を見て、G2さんの声を聞いているとウトウトしちゃって」

G2「寝てんじゃねえか!(笑)」

瀧澤「ツッコミありがとうございます(笑)。あとこれだけハンチングが似合う人はいないし」

G2「演出家としてはないの?(笑)」

瀧澤「あります!(笑)僕がユーリについて質問させていただいた時、役とセリフの因果関係を優しく丁寧に教えてくださったことがあって。出来るだけ原作に忠実にという想いがあったので、アニメでのイメージを先行して持っていたのですが、もっと台本のセリフの動きに向き合うべきだとハッとさせられました。G2さんに言われたことを意識してみると、勝手に体が進んでいく感覚があって、自分がお芝居しやすくなったんです。お芝居って面白いなと思えました」

G2「でもそれを聞いてやれているというのは、あなたの才能だからね」

板尾「自分で気づいて自分のものにするというのがなかなか出来ないことだからね。それに、そもそも脚本が良いということやね。脚本がしっかりしていないと体は動かないから。そういう良い脚本で、役者が理解しながら舞台に立てたら楽しいよね」

瀧澤「楽しいです。かつG2さんは、音楽的なことも細かく仰るので、ミュージカルの演出家さんって凄いんだなと改めて実感しました。リスペクトしかないです」

小劇場では、人間の存在を身近に感じる

−大劇場と小劇場、どちらの演出も経験されているG2にとって、劇場のサイズで演出はどのように変わりますか?
G2「どうしても違いますよね。帝国劇場くらい大きな劇場だと、ダイナミックに魅せるために大人数で出る場面と、少人数の場面の対比を作ることで、大きな空間に惹きつけていく必要があります。ミュージカルではリズムも重要なのでセット転換の難しさもある一方、小劇場では人間が確かにそこにいて、絶対的に存在を感じるので、そこもまた難しいです。デフォルメが効かないというか。表情も凄く見えるので、舞台は通常「一声、二顔、三姿」(いちこえ・にかお・さんすがた)と言われますが、小劇場では顔や姿を身近に感じるんです。それを逃してしまう作品は残念だなと思いますし、演出家としては怖いですよ」

板尾「役者も怖いです(笑)。僕の息遣いやちょっとした間、指の動きまでを全部見られている感じがするから、重圧がありますよね。昔、神保町花月に出た時、120席ほどの空間で袖もないので、スタンバイすることもない。楽屋からすぐ舞台なので、楽屋でも緊張するんです(笑)」

−瀧澤さんもミュージカル『春のめざめ』は浅草九劇でしたよね。
瀧澤「はい。吸う息すら聞かれそうな空間で、ちょっと緊張したら小道具を持つ手の震えまで伝わってしまうので、だからこそ思いきりいかないと、という気持ちはありました。ミュージカル『SPY×FAMILY』でも僕が出たシーンでは繊細な芝居を求められたので、その経験が活きたのかなと思います」

G2「この若さでこれだけ出来るのは凄いですよ。少し修正しただけで本当に良くなったので、元々良いものを持っているなと思う。『SPY×FAMILY』の東京の千穐楽日に、Wキャストの演技を見て1幕から号泣していていたのが印象に残っていたんだけど、あれはなんで泣いてたの?」

瀧澤「1つ1つの演出やセリフに改めて感動しちゃったんです」

G2「ピュアで可愛いよね」

板尾「客観的に観られたのかもね」

瀧澤「はい。Wキャストの演技を見て刺激を受けて、悔しかったのもありました」

関西には、もっと中劇場が必要

板尾「関西の演劇も観てきた中で、世界も変化した今、業界の変化をどう感じていますか?」

G2「小劇場は自分たちで創って変えていこうというスタートアップのような空間で、僕ももう一度戻りたいけど戻れない場所でもあります。1つ変化として感じるのは、僕らが小劇場でやっていた人、生瀬勝久や古田新太、阿部サダヲが凄い勢いで売れて、メディアの第一線に行ってしまったことですね。

その後に若い劇団の子たちと飲んだ時に、“なんであそこはああいう風にしたの?”と聞いたら“ウケるんです”みたいな答えが返ってきて。“自分たちはこれが面白いと思っているのに、なかなか伝わらない”という声が減ったことに違和感がありました。でも最近また小劇場に観に行ったら“こいつらに負けたくないな”と思う演出に出会ったので、あまり憂いていないですね。

ただ関西では、今は中劇場が減ってしまいましたよね。劇団が1ステップ上がるために、中劇場があると“いつ自分たちがそこでやるか”をどこかで意識して、伸びてくるんですよ。成長する劇団の受け皿になる中劇場、300席くらいの劇場はもっと必要だと思います」

板尾「確かに、それは分かります。劇場のサイズって大事ですよね。新宿シアタートップスで関西演劇祭をやった時に凄く良く感じて、劇場の力は大きいなと感じました」

G2「東京の劇団が大阪に行くという機会も減っていますよね。僕が若い時に東京の劇団が来ると、悔しくて刺激になっていたので、それは大事だと思います。役者の明日売れてやるという気概も減っているのは寂しいです」

板尾「時代もあるとは思うのですが、みんなクールで、持て余しているような子がいないのは感じますね。良い悪いはないけれど、昔は“それで飯食えると思ってんのか?”っていうバカな役者志望がいたので(笑)」

G2「僕が印象に残っているのは、“ついに貧乏するのは劇団しかいなくなった”と言われたことがあって。ミュージシャンも売れるようになって、オンラインでも仕事ができるけれど、劇団は原始的なことをやってますから」

板尾「いつまで経っても役者ってアナログですよね。才能があっても火がつかなくて辞めてしまうのはもったいないので、僕はもっとチヤホヤしてあげたほうが良いなと思うんです」

−G2さんは若い世代に期待することはありますか?
G2「期待というか、絶対に才能ある人は出てくるから、その作品を観たいし負けたくないです。できれば期待したくない、自分の仕事が取られるから(笑)。若い子は感受性が高いですし、荒削りなところも良いと言われるし、若い子達はライバルです。観るのは好きですけどね」

俺の人生面白いでしょ?って言える人を目指して

−最後に瀧澤さんからお二人に質問したいことはありますか?
瀧澤「僕、色のある役者になりたいんです。こういうお芝居をする俳優さんだよね、とこの世界で異色を放った存在になりたいんですが、アドバイスがあればいただきたいです。お二人がこの時代に求める俳優像はありますか?」

板尾「僕はそんなに、芝居を上手くなりたいと思ったことがなくて、テクニックはあまり必要ない気がするんだよね。演出する時も上手い人は助かるんだけど、何か物足りない。自分が持っているものを大事にして欲しいなと思う。動じない、独特な光を持っている人は面白いと思うな。舞台はより、そういう役者さんを観たい。この人を観ているだけで幸せだと思うような、そんな役者になってほしい」

G2「嫌いなものをもっと作りなさい。こんな芝居の仕方は嫌とか。それで、その芝居を要求された時に、どうにか迂回して絶対にやらない。好き嫌いをはっきり持つと、色が出てくるよ。もう1つのアドバイスは、未来に有名な俳優になってインタビューが来た時に、つまらない人生を語らないように生きること。俺の人生面白いでしょ?って言える人を目指して。この2つを気をつけたら絶対に色がつく」

瀧澤「それは人生経験を色々積むということでしょうか?」

G2「これ以上質問しちゃダメ(笑)。人生を聞かれた時に、面白いですねって言わせること、あとはフリーだから」

瀧澤「分かりました!頑張ります!聞けて嬉しかったです!」

撮影:山本春花

G2さんが作・演出を務める『月とシネマ』は11月6日(月)からPARCO劇場にて上演。作品公式HPはこちら関西演劇祭2023は11月11日(土)から開催されます。

関連記事:【板尾創路×上田誠(ヨーロッパ企画)が語った、演劇の根幹と使命とは?】はこちら

関連記事:【板尾創路×岩崎う大、初対談で語った「演劇とお笑い」の関係性とは?】はこちら

関連記事:【役者はどこまで行ってもアナログ、演劇はずっと変わらない。それでも演劇を広げていくために。板尾創路×内田滋 対談】はこちら

Yurika

瀧澤さんはG2さんのトレードマークであるハンチングを被って登場してくださり、まるで親子のようなお姿に取材班一同ほっこり。和やかな取材現場となりました!

板尾創路×演劇人 対談連載

板尾創路×演劇人 対談連載

連載(6本)